アレキサンダーファン
2006年05月掲載
プロフィール
阿部雅人 阿部 雅人
福島県出身。東京芸術大学音楽学部卒業。在学中に東京フィルハーモニー交響楽団に入団。
ホルンを永沢康彦、大野良雄、守山光三、千葉馨の各氏に、室内楽を山本正治、中川良平の各氏に師事。
東京文化会館推薦音楽会出演。96年に福岡、97年に福島でリサイタルを開く。
現在、新日本フィルハーモニー交響楽団団員。東京ホルンクラブメンバー、東京ミュージック&メディアアーツ尚美講師、日本ホルン協会事務局長。
アレキサンダーホルンアンサンブルジャパンメンバー。
第07回 達人の息吹


皆さんこんにちは。
新年度も始まり、何かとバタバタ忙しいですね。この記事が出るのはゴールデンウィーク明けですから、もう新しい環境にも慣れて一段落というところでしょうか。
環境が変わった人も、変わらなかった人も、何か新しい事にチャレンジするのは良いことですよ。そういう僕も、長年の夢だった自動二輪の免許にチャレンジしています。
実は、この歳になって自動二輪の免許を取るなんてちょっと恥ずかしかったんですが、実際に教習所に行ってみてびっくり!いっぱいいるじゃないですか、ご年配の方が!
失礼ながら、この人はどう見ても70才くらいじゃないかな〜?という人までいて、自分の考えが、反対にとても恥ずかしく思えてきました。
なにもバイクは若者だけの特権じゃないですからね。バイクだってホルンだって、やりたいときにやる!人生は短いんだから、やらなきゃ損々。
それに、習うっていいもんだな〜と改めて思いました。なんて言うか、背筋がピッと伸びるというか、非日常的ですからね。
これが、中学生や高校生だったら、習うというのに拒絶反応を起こしているかもしれませんが、こっちはもう何十年も教わることなんか無い人生を送ってきていますから、返って新鮮なわけです。
不思議なもので、人間って、ある時期には出来なかったり嫌だった事が、時間が経つと、出来たり好きになったりする。
ホルンだって、もしかして今吹いたら、前よりずっと楽しく吹けるかもしれませんよ!

さて今月は広い音域を確実に吹くためにはどうするか?ということについて書きましょう。
ホルンでも他の金管楽器でも、音の跳躍は難しいテクニックの一つと言われています。
皆さんも木管楽器のように、オクターブキーが付いていたらどんなに楽だろう!と思ったことはありませんか?
ホルンを吹き始めてまもなくの頃は、誰でもオクターブどころか、3度の跳躍でも難しかったはずです。でも間もなく、高い音を出すためには、マウスピースを唇に押さえつければ出易いぞ、くらいは誰でも分かってきます。
そうすると、高い音は押さえつけて、低い音はプレスを緩めて吹く癖がつきますね。
これが良くないことなんだ、と賢明なアレキファン読者の皆さんは思うと思います。
その通りです!
じゃ、全音域をあまりプレスしないで吹けばいいんだあ!と思ったあなた。それも違います!もちろん過度のプレスは良くないですよ。でも以前も書きましたが、マウスピースが歯に密着するように吹く方がいいのです。しかも全音域に渡って同じように。歯にでこぼこがある人は、どうしても痛いからプレスできないみたいですが、それでも出来る限り歯からマウスピースを浮かさないほうがいい。当然、吹く角度も多少上向きになります。

あまり圧力をかけないで吹く、という考え方にぼくは異論を唱えたいですね。
僕自身、圧力をかけないで吹いていた時はさっぱり駄目でしたからね。

高い音を吹く時に低い音を吹くよりプレスが少ないという人はあんまりいないと思いますが、低い音を吹く際に、圧力を抜きすぎる人はいっぱいいます。
これはあくまでも自分の場合ですが、第3間のFをフォルテで吹く時と、その2オクターブ下のFをフォルテで吹く時のプレスは、上と下ではプレスをかける場所が違いますが、かける量はほぼ一緒です。低音は、より下の歯に圧力がかかります。もちろん大きく吹く時のほうがプレスは多いですが、ピアノの時と比べてすごく変わるという訳ではありません。
だんだん、アパチュアの周りの筋肉が発達してくると、プレスも少なくて済むようになってきます。

まとめると、高音域も低音域も出来るだけ圧力は変えずに吹く、ということです。

それから、跳躍を楽にするには、高い音を吹く時と同じような(全く同じではありませんが)歯の間隔のまま中低音を吹くこと。
言い換えると、中音域が吹きやすいアンブシュアのまま高音域を吹こうとしないこと。そうすると、必ず高音域は締め上げた音色になります。

練習の仕方としては、まず自分なりでいいですから高い音を、出来るだけ!楽に吹こうとします。そうすると、普通の人は多少なりとも歯の間隔を狭くしたり、舌を上に上げたりプレスしたりしますね?
その状態から出来るだけアンブシュアを変えずに半音階で下がってきます。特に、歯と歯の間隔を広げないように注意してください。すると、歯を下ろさないで吹く為には、アパチュアや舌の位置をコントロールしないと出ないのが分かると思います。
その状態で中音のピッチが上がるならば、それがあなたが普段から余計な力を唇に加えて吹いている証拠。そのピッチが安定するまで、あなたはアパチュアをリラックスさせないといけません。べンディング(スタンプのウオームアップスタディを参照。繰り返し言いますが、歯を下げて音程を下げてはいけません。唇で下げて下さい)で音程を下げた状態で全部を吹ききるとでも言いますか。それくらいアパチュアはリラックスして吹くものなのです。
それに圧力も抜かないのですから、アパチュアを締めすぎていたら益々吹けないですよね。

そのようにして吹いた中音のFは、今までのFの半分の口の中の広さになっているはず!
これこそがあなたに本当の豊かな響きの音をもたらし、軽々とした跳躍を可能にするコツなのです。

広い口内で吹くと中低音だけは、まあそこそこの音になりますが、4オクターブ全域を吹ききるためには無理です。
中低音は口の中は広く、高音は狭くというのは、一見理にかなっていると思うかもしれませんが、それをしていると跳躍が難しくなり、外れます!
4度や5度の跳躍で音が外れるなんてのは、アンブシュアを変えすぎなのですよ。
低音域も実は、どれだけ歯の間隔を狭くして吹けるかにかかっているのです(3月号参照)。
狭くして低音を吹くのだから、これは難しい!でもそうして得られる音色は中身の濃く暖かい低音になります。広げれば広げるほど、ピアノはいいけどフォルテが開いた音になるとか、こちらが良いけどあちらが駄目といったことになりやすい。

それから、広い跳躍をしてみるとよくわかるのですが、下の歯の上をマウスピースがスライドしないように。以前にお話した、上のアンブシュアから下のアンブシュア、またはその逆の場合には歯の上をスライドしますが、同一のアンブシュア内での跳躍では、マウスピースは下の歯の上をスライドしません。
マウスピースは常に下の歯に固定している、というのが僕の考え。ということは、上の歯の上は多少はスライドするということですね。(同一のアンブシュア内で)上から下への跳躍が苦手な人は、この下の歯のスライドがあるかもしれません。マウスピースは動かないのに、下の歯だけが下がるとうまくいきませんよ。
反対に下から上への跳躍が苦手な人は、上の音を出し易い吹き方とあまりにもかけ離れた吹き方から無理に跳躍しようとするからです。

というようにして練習すると、今までの半分から3分の1の歯の動かし幅で4オクターブを吹けるようになるはずなのですよ。
今まで、階段を何段もすっ飛ばさないと広い音程を跳躍出来なかったのが、ほんのちょっとした踏み台を上り下りするように跳躍出来るようになったらしめたものです。
その時は素早く、そして確実に出来るようになっていることでしょう。

今回の話を簡単にまとめると、圧力の変化も、歯の動かし方も最小に。そして、上の吹き方を基準にして音域を広げていったほうが楽です。という話でした。

それではまた来月です。


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