アレキサンダーファン
2006年03月掲載
プロフィール
阿部雅人 阿部 雅人
福島県出身。東京芸術大学音楽学部卒業。在学中に東京フィルハーモニー交響楽団に入団。
ホルンを永沢康彦、大野良雄、守山光三、千葉馨の各氏に、室内楽を山本正治、中川良平の各氏に師事。
東京文化会館推薦音楽会出演。96年に福岡、97年に福島でリサイタルを開く。
現在、新日本フィルハーモニー交響楽団団員。東京ホルンクラブメンバー、東京ミュージック&メディアアーツ尚美講師、日本ホルン協会事務局長。
アレキサンダーホルンアンサンブルジャパンメンバー。
第05回 達人の息吹


皆さんこんにちは。
今年は寒いですが、風邪などひいてませんか?
そういう私もしっかりと風邪をひいてしまいました。当たり前ですが、体が元気じゃないと、ホルンを練習する元気も出ませんね。適当に練習するくらいなら練習しないほうがましです。さっさと寝て体を休めましょう〜。

でもレッスンはしますよ!
お待たせしました、今月は低音の吹き方です。
今までのレッスンで、皆さんはある程度、中高音域は吹けるようになったでしょうか?
吹けたことにして、話を進めますよ。
中高音が楽に吹けるアンブシュアで、その当て方を変えずに低音を吹くにはコツがいります。結論から言いますと、下顎の動かし方にあります。

低音を吹く場合の下顎の位置は、高音の時と比べると、前に突き出すような感じになります。そして、マウスピースのリムが、下の歯の上側に当たるようになります。この下あごを前下に出すことにより上唇がわずかにめくれる感じになり、アパチュアを大きくするのに役立ちます。

高音域を吹く場合は、下の歯の根っこの辺りにリムが当たるのが基本と以前に言いましたが、低音域の場合はそれが、下の歯の上側になるのです(例外はいつでもありえますよ!)

さて、マウスピースを唇に当てる場所は、高音も低音も一緒の場所に当てなければいけません!なのに下の歯に当たる場所が、高音と低音を吹く場合で違うということは、下の歯と下唇はスライドするということですね!(図参照)

上の吹き方   下の吹き方

ただ単に、口の中を広くして、歯を真下に下げていっても低音は出ないことはないのですが、その吹き方だと、大きくだけとか小さくだけしか吹けなかったり、アンブシュアを緩めて出そうとして、不安定な低音になりやすいのです。また、上の音を吹く感じのまま低音を出すためには(下の歯の根元にリムを当てたままずらしたりせず、そのまま歯の間隔を広くして低音を吹こうとすること)、上下の唇を離してセットすればある程度低音は出るのですが、アパチュアが開いているものですから、低音をひとしきり吹いた後に続けて高音を吹こうとすると、とても出にくくなります。それでも無理にその当て方のまま高音を吹こうとしますから、知らず知らずに唇を締め付けすぎて無理をします。それが習慣になってしまうと、高音が出なくなったり、繊細さを欠く音になってきます。
皆さんもこんな経験ありませんか?
意外に調子が悪くなる原因はこんなところにあるかも知れませんよ。

それから、反対に、下あごを出した状態で上まで吹こうとしている人も時々見かけます。
これだとハイトーンを出すのは、全く大変なことで、出るわけありません。
参考までに、高い音を出すときも、下あごはわずかに前には出ていますよ。前にも説明しましたが、ホルンの角度があまり下を向かない程度に下あごは前に出します。でも、低音を吹くときは、もっとあごが前に出るし、歯は下がります。もちろん歯の上側にリムが当たります。

上と下の変わり目は、人によって違いますが、真ん中のFが一つの目安になります。その音を境に、上2オクターブと下2オクターブに分かれると考えてください。
上2オクターブを吹く場合は、マウスピースを下の歯の下側にキープしたまま余り動かさないようにして吹きます。これが上の吹き方。
反対に、下2オクターブを吹くときは、マウスピースを下の歯の上側にキープしたまま下顎を前に出して吹く。これが下の吹き方になります。
上も下も、出来るだけ(全くとは言いません!)リムが歯に当たっている場所を動かさないように2オクターブを吹ききるようにすると、そのアンブシュア内での跳躍は非常に楽になるでしょう。

「ホルンのin Fの譜面で、真ん中のf(ド)を吹く時はこうなります。」
実音F上の吹き方   実音F下の吹き方
実音F上の吹き方   実音F下の吹き方
     
F上の吹き方   F下の吹き方
F上の吹き方   F下の吹き方

初めの段階では、下あごの位置を確かめやすいように、上下をチェンジする時は少し大げさに動かしたほうが分かりやすいかもしれませんが、出来るようになったら、その動きを最小限にとどめるようにします。
私は、上から下、下から上にチェンジする場合、そのどちらでもない(上の吹き方か下の吹き方かわからない)吹き方にならないように注意します。どっちつかずになると、そのあたりの音の鳴りが悪くなったり、ピッチが不安定になるからです。
でも、人により徐々に変えていく方がやりやすい場合もあるようです。

上の吹き方も下の吹き方も特徴があるので、見る人が見ればどっちで吹いているのかは、すぐにわかりますし、音色も上と下では違ってきます。
しかし、実際に演奏する場合、いつも同じ音でしかチェンジ出来ないと不便です。この吹き方の一番難しいところは、変わり目をまたぐ跳躍が、どうしてもぎこちなくなりやすい点です。誰が聴いても変わり目が分からないように演奏できるようになるためにはかなりの練習を積まなければなりません。
いろんな音域でその音楽に合わせて自由にチェンジできれば、もっと演奏が楽に出来ますよね?
そこで、上の吹き方で出来るだけ低音まで、下の吹き方で出来るだけ上までを練習するのです。
要するに、二種類の吹き方が出来る音域を作るわけです(写真参照)。その音域はどっちの吹き方でも出来るのですから、前後の音から跳躍がしやすいように吹き方を選べばいいのです。
私の場合、重なっている音域は1オクターブくらいですね。

二種類のアンブシュアがあるというと、なにかいけないことをしているように感じるかもしれませんね?
でも4オクターブをしっかりとコントロールして吹くにはこれは必要なことであるし、全く変えないで4オクターブを吹ける!という人に、残念ながら私はお目にかかったことがありません。変えないで吹いている人はいるかも知れませんが、たぶん、低音か高音、どちらかが苦手なのでは‥‥‥ちゃんと吹ける人は、自分で気が付いてなくても自然にそう吹いているのだと思います。


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