アレキサンダーファン
2020年07月掲載
プロフィール
Katy Woolley(ケイティ・ウーリー) Katy Woolley
(ケイティ・ウーリー)

イギリス・エクセター生まれ。10歳でホルンを始める。スー・デント、サイモン・レイナーに師事。ロンドンの王立音楽大学を卒業後、2年間EUユース管弦楽団の首席を務める。ベルリン芸術大学にてクリスティアン・フリードリヒ・ダルマンに師事。フィルハーモニア管弦楽団の3番奏者を経て22歳より首席に就任。英国王立音楽院、トリニティ・ラバン・コンサヴァトワール・オブ・ミュージック・アンド・ダンス(ロンドン)の教授を務める他、アムステルダム音楽院、シベリウス音楽院にて教鞭を執る。2019年よりロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団首席ホルン奏者。


使用楽器:
アレキサンダー 103MBLHG
使用マウスピース:
パックスマン 3B

第53回 プレーヤーズ
ケイティ・ウーリー(Katy Woolley) インタビュー

国内外のホルンプレーヤーにスポットを当て、インタビューや対談を掲載するコーナー。
ホルンについてはもちろん、趣味や休日の過ごし方など、
普段知ることの無いプレーヤーの私生活についてもお伝えします。



─10歳でホルンを始めたそうですね。

 はい。その前はコルネットを吹いていました。2年でホルンに移りましたが、すぐ好きになりました。


─今のようにプロになろうと思ったのは?

 10歳のときにはそう思っていましたよ! そのくらいホルンは気に入ったのです。まず柔らかくて甘い音に魅了されて、「この音と一生付き合いたい!」と感じました。


─フィルハーモニア管弦楽団に入ったのもかなり早かったですよね。

 大学4年生になりたての頃でした。私自身、練習することが好きでしたし、サイモン・レイナーという素晴らしい先生に付けたのも幸運でした。彼は、世界一美しい音の持ち主です。先生は厳しくて、要求も極めて高かったので、一生懸命練習するのは必然でした。卒業後はさらに勉強するためにベルリンに行って、クリスティアン・フリードリヒ・ダルマン先生の元で勉強しましたが、周りの学生たちも常にベルリン・フィルを聴いていて非常に耳が肥えていました。そんなふうに素晴らしい環境で勉強したので、自分のレベルも高めることができたのだと思います。


─ロンドンとベルリンでは、演奏スタイルに違いはありませんでしたか。

 全然違っていました。イギリスにいるときにはずっと柔らかなアタックで――ときには曖昧に――吹いていましていました。音色も「幅広く」というイメージです。一方ドイツでは、発音はずっとクリアにしなければなりませんし、音ももっと輪郭をはっきりさせます。ドイツではヴィブラートも使いますが、イギリスでは使いません。でもダルマン先生はそういうドイツスタイルの奏法を強要することなく、「今までどおりでいいよ」と言ってくれたのがよかったです。


ケイティ・ウーリー


─今はオランダのロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団で演奏していますが、どちらの影響をどの程度取り入れたものですか。

 イギリスのスタイルが主ですが、私は幸運なことにドイツの音も経験していますし、楽器もアレキサンダーというドイツの楽器です。オランダのオーケストラもドイツ寄りのサウンドを持っていますので、私自身いろいろな試みをしていますし、アタックも少しずつクリアになってきてはいますが、9割がたイギリススタイルです。


─ロイヤル・コンセルトヘボウ管は、非常に歴史のあるオーケストラですが、ケイティさんから見てどんな印象ですか。

 ものすごく懐の広いオーケストラです。お互いの音楽性を互いに与え合っていて、技術的に合うというよりも、“一緒に”演奏した結果として美しく音が混ざり合っているような感じです。


─とても国際的なオーケストラですよね。

 その通りです。オランダ人は3割から4割というところで、残りはいろいろな国の人が混ざり合っています。イギリス人は3人。首席コントラバス奏者、首席フルート奏者、そして私です。日本人も3人いますよ。


─イギリス人が3人というのは少ないような気もしますが、全員首席というのも、重要なポジションを占めているという感じですね。それから、アムステルダムのコンセルトヘボウと言えば、世界でもっとも素晴らしいホールのひとつと言われていますが。

 それはそれは美しい、素晴らしいホールですよ。さっき言ったオーケストラの懐の広さというのも、このホールから来ているのかもしれません。ホールが自分たち奏者の音を引っ張り出してくれるんです。


ケイティ・ウーリー

─オーケストラ以外で、現在どんな活動をされているのですか。
 教えること。それから練習ですね(笑)。今年中には、ロンドンでクラリネット奏者のマイケル・コリンズとフレキシブルな編成のアンサンブルを立ち上げる予定です。弦楽四重奏または五重奏と木管五重奏を組み合わせて、曲によってメンバーを入れ替えることもできるし、ひとつの大きなアンサンブルとして演奏することもできるというものです。でも、それらは限定的なものです。私は何よりオーケストラが好きなんですよ!



常に、歌手がどのように歌っているかを想定して吹いています

─現在いろいろな大学で教えていますが、どんなことを重視しているのですか。

 まずは楽器を置いてのレッスンからです。楽器に惑わされたり、楽器が障害になって体の使い方がおかしくなったりするので、まず楽器なしで、自分がどのように歌いたいのか、どのような音楽を作りたいのか、というところから始めます。


─息に対する考え方は?

 私は体格がいいわけでもないし、筋肉隆々というわけでもないので、自然な力を利用した呼吸を心がけています。例えば重い物を押そうとするとかなりの力が必要ですが、同じ物を叩くのは自然な勢いを利用した動作になります。それと同じ考え方で、体を自然に使う。大きな音を出すときも息を「押す」のではなく息の「勢い」とか「スピード」を意識します。


─ロイヤル・コンセルトヘボウ管のインタビュービデオで、「ホルンが好きなのは、その音が歌ったり話したりするのに似ているから」と言っていましたが。

 私は常に、歌手がどのように歌っているかを想定して吹いています。歌手の声帯が自分たちの唇にあたりますが、歌手は声帯のことを考えながら歌いませんよね。管楽器の人はなぜ演奏するときにアンブシュアのことを考えるのでしょう。歌手が喉を硬くするといい声が出ないのと同じで、アンブシュアを意識した結果力が入って硬くなってしまっては、朗々と歌うことはできません。歌手がまず「こう歌いたい」と考え、声を出す前に体の使い方がどうあるべきかを考えるように、私たちも最初に奏法のことを考えるのではなく、まず「こう吹きたい」というのがあって、そのための体の使い方を意識して、結果として音が出るだけなんです。そして体の使い方というのは、歌うときも楽器を吹くときも変わりません。


─ホルンの音は、声で言うとテノールだと思いますか、それともアルトだと思いますか。

 うーん。私はアルトだと考えることにしています。もちろん人によってやり方は違いますが、私の場合は音を「上から」狙うようにしています。そのためにはより高い女声と考える方が都合がいいのです。


ケイティ・ウーリー

─「上から音を狙う」というやり方は、気持ちの問題ですか。それとも他にコツなどがあるのでしょうか。
 ほとんどは精神的なもので、フィジカルな部分はそれに付いてきます。そして私が毎朝行なっているウォームアップのメニューは、「上から狙う」というアプローチを維持するためのものでもあります。


音ひとつひとつは独立しているわけではなく、音と音の間に音楽がある

─もしよろしければ、ウォームアップの内容を教えていただけますか。

 もちろん! まずは体のウォームアップから始めます。ホルンはまだケースから出しません。出してしまうと、どうしても楽器が気になってしまいますからね(笑)。最初は息を使うという動作が十分にできるように体を持っていきますが、その際に「どういうサウンドを作ろうか」とイメージすることによって姿勢や体の使い方が自然に変化しますので、まず頭が音を出す準備ができた状態にすることが大事です。ブレストレーニングは、ブレスビルダーのようなピンポン玉を使った器具も取り入れています。私は体が小さいので、体をとにかく効率よく使うことが必要になるからです。
 ここでやっと楽器をケースから出し、リップスラーをします。でも一気に音域を広げるのではなく、中域から始めて少しずつゆっくりと、いろいろな音を吹いてみることで、体と楽器との関係性を作っていくのです。実はそれがウォームアップの一番の目的なのですが。様々な倍音でリップスラーをすることで、体をリラックスさせて、楽に音が出るという感覚を確認していきます。
 リップスラーをするときにも、2つの音程の間をジグザグに上下するのではなく、一本の太い音程があると考えて、その中で行き来するというイメージです。そうすることで上の音に行くときにも「下から上に」狙いに行くという意識ではなくなります。


─先ほどから話題に出ている「音を上から狙う」と、実際にどんな効果がありますか。

 音色に影響します。実際にやってみましょうか。中域の音を、下から狙った場合と、上から狙った場合。音程も若干変わりますが、上から狙った場合、より温かみのある音が出ていたと思います。
 これを確認するために、同じ音を伸ばしたままベンディングによって音程を上下させる(要するに音のツボに対して「上から下の方を狙う/下から上の方を狙う」を連続して行なう)という練習もしています。


ケイティ・ウーリー

─ハイトーンを外さないためというわけではない?
 もちろん、音を外しにくくなるという効果もあります。高いところにあるものを手を伸ばして取りに行くのではなく、テーブルに置くというイメージが持てるので怖さも減りますよ。



─ケイティさんの演奏を見ていると、ハイトーンに対する恐れというか、躊躇のようなものをまるで感じませんでした。

 ハイトーンも中域の音のように感じられるよう、練習してはいます。フルートやファゴットの人は高い音を「当てに行く」のではなく、しっかり音を作ることを意識していますよね。でも金管の人は条件反射的に体に力みが出てしまうのです。だから、私はハイトーンは「単に周波数が高い物理現象」と捉えるようにしていて、「こういう音で吹きたい」という意識が先行することでポジティブに考えられるようにしています。
 音を出す前に「YesかNoか(当たるか当たらないか)」という疑問を持ってしまうとどうしても「No」の方が大きくなってしまいますから、そもそも頭の中に「No」という選択肢を与えない。「この音をどう吹きたいのだろう。美しい音で吹きたいのか、温かい音で吹きたいのか、楽しく吹きたいのか」と、音が当たることを前提として考えるわけです。


─確かに、ケイティさんの音は本当に美しいですし、特にレガートが素敵だと思いました。

 ありがとうございます! さっきご紹介したウォームアップのやり方は、レガートのためでもあるんですよ。音ひとつひとつは独立しているわけではなく、それらの音と音の間に、音楽があるんです。ひとつの音には始まりと終わりがあって、ある音の終わりが次の音の始まりを作る。その積み重ねが音楽になる。先ほど話題になったハイトーンに関しても、例えばオクターブの跳躍があったとして、上の音を当てることを優先して考えてしまいがちですが、その間に美しい音楽があって、高い音は結果にすぎません。


─ポルタメントということではないですよね。

 楽器の音にポルタメントをかける必要はありません。でも体の使い方はポルタメントになっているはずです。決して音と音の間で途切れているということはありません。これも声で歌うときと同じですよね。


「彼女(サラ・ウィリス)のようにホルンが吹けたら」といつも思っていました

─さて、お使いの楽器についてですが。

 Yes! アレキサンダー103のハンドハンマーです。


─その楽器に、何かスペシャルな部分はありますか。

 スペシャル? 私が大好きな楽器なので、すごくスペシャルですよ! 実は、この前に使っていた103は数年前に、電車の中に置き忘れてしまったんです。思い出すだけで悲しい気持ちになります。そのとき私は友人の家を訪れる途中でした。大きなスーツケースやバッグを持っていたので、ホルンに意識がいかなかったんですね。結局その楽器は出てきませんでしたので、今の楽器を買いました。


─やはりアレキサンダーの103でないといけなかったんですね。

 ええ。音色が素晴らしいし、自分のやりたいことができる楽器です。というより、楽器が「こんなふうに吹いて欲しい」と言っているようにさえ思えるくらいです。倍音がすごく豊かで、音自体が動きを持っているように感じますし、どんな方向へも持って行けるような機敏さがあります。オーケストラで吹いたときも、楽器が様々な色を持っているので、それぞれの作品に合う音を出すことができるんです。


─そもそも、アレキサンダーを使い始めたのは?

 10歳でホルンを始めたときは学校のヤマハを使っていましたが、13歳のときにお母さんが最初のアレキサンダーを買ってくれました。それが電車で失くしてしまった楽器です。ああ、お母さん、ごめんなさい!


─イギリスではアレキサンダーを使っている人はそれほど多くないと聞いたことがあります。

 そうかもしれません。でも、現在はかなり一般的になってきています。やはりベルリン・フィルの影響は大きいものがあります。何しろ(イギリス人の)サラ・ウィリスがアレキサンダー103を使っていますからね! 私も、「彼女のようにホルンが吹けたら」といつも思っていました。


─ロイヤル・コンセルトヘボウ管のホルンセクションでは、どんな楽器が使われているんですか。

 アレキサンダー103が多いですが、そうでない人もいます。あまり楽器のメーカーにはこだわっていなくて、結果としてサウンドが一緒になればいいというスタイルです。


ケイティ・ウーリー




「趣味」のコーナー

─音楽以外の趣味といえば?

 水泳、ランニングなど体を動かすことです。イギリスの緑豊かな郊外をウォーキングするのも好きですね。


─オフの日は何をして過ごしますか。

 やはり水泳、ランニングと……あとはホルンを練習します(笑)。練習が好きなんですよ。新しいことを見つけるゲームだと思ってやっています。ただ、日によっては思い切りサボりますけど。


─日本で好きなことは?

 前回日本に来たときに、(遊園地の)富士急ハイランドに行きました。いろいろなジェットコースターに乗れて、すっごく楽しかった! 今回は時間がないけれど、また行ってみたいです。あとはお皿などの磁器も好きですね。



ケイティ・ウーリー


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