アレキサンダーファン
2016年04月掲載
プロフィール
鈴木優(すずき・ゆう) 鈴木優
(すずき・ゆう)

群馬県出身。東京藝術大学卒業。小澤征爾音楽塾オペラプロジェクトXIに参加。
2014年ヤマハ新人演奏会に出演。また、Menagerie Brass QuintetのメンバーとしてJTアートホールアフィニスにて期待の音大生によるアフタヌーンコンサート、第39回室内楽定期演奏会に出演。第10回チェジュ国際金管楽器コンクール金管五重奏部門第1位を受賞。これまでにホルンを高橋臣宜、守山光三、日高剛、西條貴人、伴野涼介、五十畑勉の各氏に師事。Menagerie Brass Quintet、Cor Ensemble VENUS、The Horn Squareメンバー。東京藝術大学管弦楽研究部非常勤講師(芸大フィルハーモニアホルン奏者)を経て2015年より東京交響楽団団員。


使用楽器:
アレキサンダー 103MBL
使用マウスピース:
シュミット 85

第46回 プレーヤーズ
鈴木優 インタビュー

国内外のホルンプレーヤーにスポットを当て、インタビューや対談を掲載するコーナー。
ホルンについてはもちろん、趣味や休日の過ごし方など、
普段知ることの無いプレーヤーの私生活についてもお伝えします。



同級生の子に「YouTube見たよ」と言われてびっくりしました

─2016年3月で東京交響楽団の正団員になられたこと、おめでとうございます。鈴木さんというと、例のYouTubeでのR.シュトラウスのホルン協奏曲第1番がやはり印象的です。オーケストラをバックに堂々たる演奏でした。

 高校3年生のときに『あなたの街で夢コンサート』というBSの番組に出たときのもので、もう7年くらいずっと言われてます(笑)。アマチュアの演奏家の夢をかなえるという趣旨で、たまたま吹奏楽部の顧問の先生が声をかけてくださって出していただけることになりました。まさかこんなに多くの人に知っていただけるとは(笑)。私はネットに上がっていたことを知らなくて、東京藝大に入ったときに同級生の子に「YouTube見たよ」と言われてびっくりしました。


─ホルンを始めたのは中学生から?

 はい。吹奏楽部で始めました。父親が柔道の先生だったので、小学校のときずっと柔道をやっていたんですよ。父は私をオリンピック選手にさせたかったみたいで、すごいスパルタでした。それをやめたくて(笑)、「吹奏楽をがんばるから、柔道をやめたい」と言いたくて入部しました。


─本格的に柔道をやっていたというのが意外ですが、では吹奏楽部でなくてもよかったということですか。

 なぜかクラリネットにすごく憧れていたんです。小学校にも吹奏楽部があったのですが、私はカラーガード部という旗を振って演技をする部活をやっていて、その頃からクラリネットの音に強い憧れを持っていました。


─でも結局クラリネットにはならなかったわけですね。

 小学校のときからクラリネットをやっていた子がいたので、必然的にその子がクラリネットになり、私は全く音が出なかったのに、希望者がいなかったホルンになりました(笑)。落ち込んでいるのが伝わったのか先輩方が「すごくホルンが似合うね」「しっくりくるよ」とおだててくださって、私も簡単にのせられてしまって(笑)。すごく厳しい中学校だったので、「怒られたくない」という一心で必死に練習しました。


─高校でもやはり吹奏楽を?

 そのつもりで、群馬県内の吹奏楽の名門校を狙っていたのですが、健大高崎(高崎健康福祉大学高崎高等学校)の吹奏楽部顧問で、以前新星日響でホルンを吹かれていた吉田先生という方が私の中学にも指導にいらっしゃっていて、「プロになりたいと思うのだったら、面倒をみてあげるからうちの高校に来ないか」と誘ってくださって。そのときはプロってどういうものかわかっていなかったのですが、とりあえず楽器を続けたかったし、何より「推薦で高校に行ける!」というのが嬉しくて(笑)、健大高崎に行くことに決めました。


鈴木優

─その頃からプロを目指していたわけですね。
 高校に入ってから顧問の吉田先生に「おまえは藝大に行きなさい」と言われて、私はまだ何も考えていなかったのですが、当時群響にいらした(現在は東フィル)高橋(臣宜)先生にレッスンを受けるようになりました。高橋先生にはオーケストラを聴く機会を与えてくださって、聴いているうちにオーケスストラへの憧れが強まって来て、自分でも「藝大に行きたい」と思うようになりました。


─高校時代はソロコンクールなどには?

 日本ホルン協会のジュニアソロホルンコンクールに2年生と3年生のときに出て、両方2位だったんです。2位でも嬉しかったし取れるとは思っていなかったのでびっくりしたのですが、負けず嫌いなのでやはり「悔しいなあ」と思った記憶があります。例のテレビ番組も、群馬県のソロコンテストが近かったので、話をいただいたときに良い機会だと思って。


─すごい度胸ありますよね。

 いや、ものすごく緊張して、リハーサルはボロボロでした。でも本番はライトがまぶしくて客席が全然見えなかったので逆にリラックスしてできたんですけれど(笑)。


鈴木優

─東京藝大時代はいかがでしたか。
 周りの人がみんな上手で、入学してすぐに「自分が一番遅れてる」と焦って、練習のしすぎで調子を崩してしまいました。1日7時間くらい練習してましたからね。しかも調子が悪いからもっと練習しなくては、と思ってしまって。それで守山(光三)先生に怒られました。「練習は効率よくやるのが一番だから、3〜4時間くらいでできないところを練習するように。ただ吹けばいいというもんじゃないよ」と言われて。「コンディションを保つことも練習のうちなんだな」とハッと気づいて、そのときからやり方を変えましたね。
 守山先生は駆け込み寺ではないですが、何かちょっと悩んだことがあったら、守山先生のところに行くとすべて解決するという感じです。というよりも、こちらが何も言わなくても先生はすべてわかっていて、改善策をなんとなく示してくださったりとか。楽器だけでなく人間関係などでうまく行っていないとか、全部お見通しなんですね。怖いくらいです(笑)。




「この課題が見つかってよかったな」と思うようにしていました

─大学を卒業してから、すぐに藝大フィルに入られましたね。

 絶対にオーケストラをやりたいと思っていました。「オケの中のホルン」に憧れを抱いていたので、「オケマンて格好良いな」と思っていましたし、今でも思っています。


─そして2015年9月から東響に入られたわけですが(試用期間を含む)、ポジションとしては?

 2、4番です。藝大フィルのときも下でした。


─下吹きというのは、いつ頃から意識されていましたか。

 実は高校生の頃から先生に「鈴木は下でやった方がうまくいく」と言われていたのですが、当時は何のことかわからなくて(笑)。でもそれが頭の隅にあったのか、大学に入っても学生オケやホルンアンサンブルで下のパートを任されることが多くなってきました。性格的にも下の方が合っているみたいで、しっくりきていました。リーダーシップを取るタイプではないので。オーディションも下でしか受けたことがないです。


─憧れていたオーケストラですが、いざ入ってみると大変なことも多いのでは?

 まず、やったことがない曲ばかりということ。今でもそうですが、曲を勉強することを「忙しいからできなかった」では許されないじゃないですか。あとは、素晴らしい方々と一緒に演奏すると、自分のできないことが如実にわかってしまう。例えば1番の方が「こう吹きたいんだろうな」とわかるのですが、それについて行けない。そういうことがどんどん出てきたのですが、私はポジティブに考える方なので、「この課題が見つかってよかったな」と思うようにしていました。


─具体的にはどんなことが課題になったのでしょうか。

 比較的、ソロというのは自分が緩めたいと思ったら緩められるし、きついと思ったら速めに行くこともできますが、オーケスオラは自分の都合で吹くわけにはいかないじゃないですか。例えばpで音が出せないから大きめに吹くということはできないし、指揮者の指示もあります。いろいろなことに対応できるようにならなければいけないので、自分の基礎力が試される場なんです。


─今、東響の首席は上間善之さん、大野雄太さん、ジョナサン・ハミルさんと3人いますよね。

 皆さん、素晴らしい個性を持っているので、勉強させていただく機会ができたことが幸せに思えます。しかもいろいろとご指導くださって、私一人で頭を抱えるようなことがない環境にしてくださっているんです。メンタル面も含めて温かく支えてくださっていると思います。


─オーケストラ全体として、どんな印象ですか。

 やはり皆さん温かいですね。すごく忙しいオーケストラですがそれを感じさせないし、お酒が好きな方が多いので、本番はもちろんのこと、その後もとても楽しくやらせていただいています(笑)。


鈴木優

─方でホルンアンサンブルでも、4月27日には女性だけの「ホルンアンサンブル ヴィーナス」の3rdコンサートがありますし、6月28日には藝大の卒業生によるホルンアンサンブル「ホルン広場」にも出演されますね。
 「ホルン広場」は私が一番下の代なので、素晴らしい先輩方に囲まれて緊張はもちろんしていますが、とてもワクワクしています。でも本当にすごいメンバーなので、素晴らしい演奏になることは間違いないです。


─ヴィーナスの方は、前回までのメンバーに鈴木さんはじめ新たなメンバーが加わって、いっそう華やかになりましたね。

 2013年の第2回演奏会は私は聴きに行っているんです。まさか自分がここに入ることになるなんて1ミリも考えていなかったので(笑)、声をかけていただけてすごく光栄です。女性だけのホルンアンサンブルってヴィーナスしかないし、みなさん活躍されている方ばかりなので演奏の面でも刺激を受けますし、ご飯とかに行ったときにもお話することが楽しいです。


─今、中学・高校の吹奏楽部を見ると女の子ばかりなのですが、プロの女性だけのアンサンブルというのは他にないんですね。女性ホルン奏者ならではの苦労話などもありますか。

 あまりそういう話は出ないですね。私自身あまり感じたことがないんです。もちろん体格の差はありますから物理的なハンデとかあるかもしれませんが、それを考えてしまったら自分に対しての甘えになってしまうので、「同じ人間だから私にもできるはず」と思ってやらないといけないと思っています。


─ところでヴィーナスではどんな曲を演奏するんですか。

 イウェイゼンの《夢の架け橋》とか、元神奈川フィルの大橋晃一さん編曲による、女性が主役のオペラのアリアをメドレーにした《Heroines in the Opera》、それから、小林健太郎さんのヴィーナスのための曲《輝ける明けの明星》を七重奏バージョンで演奏します。それから四重奏で、ウィギンズの《5つのミニチュア》を演奏します。ちなみに《夢の架け橋》は八重奏なので、どうなるのかは当日のお楽しみにしていてください。


鈴木優


何か不都合が出てきても、「自分が上手くなればいいだけの話」

─鈴木さんお使いの楽器はアレキサンダー103MBLですね。ヴィーナスでも7人中5人が103ですし、東響でもジョナサン以外はアレキサンダー。

 上間さんが307メインですが、それ以外の人達は103です。fを吹いたときに、華やかな金属的な感じで鳴るときは気持ち良いと思います。


─鈴木さんはいつからアレキサンダーをお使いですか。

 高校1年生からです。当時レッスンしていただいていた高橋先生がアレキサンダーをお使いで、私は楽器のことをよくわからなかったので高橋先生の勧めに従って、楽器選定も高橋先生がしてくださいました。今もその楽器を使い続けています。


─103のどんなところが良いと思いますか。

 いろいろ良いところはありますけれど、音の硬質感と、何よりアレキサンダー独特の抵抗感が好きです。私はアレキサンダーが好きですけれど、楽器に対するこだわりというのはあまりないんです。今の楽器への不満がないので使い続けています。できないことは自分のせいだと思っているので、楽器が悪いから買い替えようと思ったことはありません。


鈴木優

─最初に信頼できる先生に楽器を選んでいただいているからこそ、楽器に対する信頼度も高くて、楽器というベースがしっかりしているから「できないことは自分のせい」とはっきり思えるのでしょうね。
 そうだと思います。楽器を疑ったことは一度もありませんから。そこはぶれることがないですね。マウスピースもほぼ悩んだことがなくて、今使っているオリジナル・シュミットの85は2本目のマウスピースです。その前はアレキサンダーの21でした。でも楽器とかマウスピースに関してのマニアックな話について行けなくて、寂しくなることもあります(笑)。
 マウスピースで解決できることがあるならしないと損だなと思うこともありますが、完璧なマウスピースってないじゃないですか。悩み始めると戻れなくなる気がして。今のマウスピースも好きなので、何か不都合が出てきても、「自分が上手くなればいいだけの話」と考えるようにしています。


─毎日どんな練習しています?

 実際楽器を吹くときは基礎が中心で、オーケストラの曲の練習は耳で聴いてイメージトレーニングをする方が多いですね。移動時間などに音源を聴きながら譜面を見ています。実際に楽器で曲を練習するときには、CDを流しながら共演しています。今日はウィーン・フィル、明日はベルリン・フィルと……。


─豪華ですね(笑)。譜面を見るのと音を聴くのはどちらが先ですか。

 とりあえず譜面を見て、入りがわからなかったり、他の楽器が何をしているかわからないところに☆マークを付けておいて、そこをスコアで確認したり音を聴いて確認したりします。そしていろいろなオーケストラの音源を聴いて、テンポとか雰囲気をつかみ、指揮者によって「こんな場合もある」ということを頭に入れるようにしています。長年オケをやってらっしゃる方は「この指揮者ならこうやる」というのがわかるのですが、私はそれがないので様々な場合に備えようと思って。


─今、中高生を教えるようなことはあると思いますが。

 教えるのは得意ではないのですが…。最初はまず息を入れて、楽器をきちんと鳴らすということを教えています。それがわかってから、pを練習したり、さらにffを練習したり。楽器を鳴らす=fで吹くということではなく、小さな音でも楽器は鳴っていると思うんですよ。「まず息を入れて楽器を振動させる」というのは私自身が教わって来たことであり、それが間違いではなかったと思える瞬間がこれまでたくさんありました。


─どうしても「楽器を鳴らす」というと、力いっぱい吹いてしまいがちですね。

 そうすると体に力が入ってしまいますので、リラックスして吹けるのが理想ですね。まずはホルンの音のイメージを持ってもらうために、一緒に吹いたり、オーケストラでホルンが活躍するような曲のCDを貸したりしています。


─そういう人たちにぜひヴィーナスを聴いてもらいたいですね。

 中高生のホルンには女の子が多くなってますし、良い機会かなと思います。憧れの存在になれるように、がんばりたいと思います(笑)。


鈴木優

─今後やってみたいことなどありますか。
 今、オーケストラもやっていて、ずっとやりたかったホルンアンサンブルもできて、やりたいと思っていたことが実現できている状態なんです。ありがたい限りです。




「趣味」のコーナー

─音楽以外の趣味は?

 食べることが好きなので、美味しいお店を調べて、休みの日に行くのが趣味です。テレビで見て「ここ行きたい」と思うとすかさずメモしてます。


─最近で当たりだと思った店は?

 ホルモンが好きなんですが、江古田にある豚風というホルモン焼きのお店が気に入ってよく行っています。


─ご飯を食べに行く以外では?

 お笑いが好きなので、テレビのバラエティ番組を見てひとりで笑っています。あとは映画もすごく好きなので、映画館に見に行ったりとか。


─ジャンル的には?

 ホラーが好きで、よく見ます。ホラーには詳しいですよ。中でもサイコホラーが好きですね。家で見てトイレに行けなくなったりとかするんですけど(笑)。でも見ちゃいますね。


─ちょっと意外な感じですね。今までで一番怖かったホラー映画は?

 いろいろありすぎてパッと浮かばないなあ。ホラー映画はだいたい見てるんですけど。忘れられないのは、最初の『リング』ですね。あの雰囲気というか、日本特有のおどろおどろしさというか。あとは『着信アリ』とかもよく覚えているんですけれど、当時携帯を持っていなくて「よかった」と思いました。それから元はテレビのスペシャル番組から映画になったのですが『トリハダ』というシリーズもめちゃめちゃ怖かったです。私はしばらく生活できなくなりましたから(笑)。


─それでも、見るんですね(笑)。

 本当に怖いシーンは目をふさいでます(笑)。でも見たい。




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