アレキサンダーファン
2011年07月掲載
プロフィール
Francis Orval(フランシス・オーヴァル) Francis Orval
(フランシス・オーヴァル)

ベルギーのリエージュ生まれ。1987年にアメリカ国籍を取得する。ソリストや室内楽奏者として国際的に活躍し、また現在ドイツのトロッシンゲン、ベルギー、ルクセンブルクの音楽院、アメリカの大学などで教鞭を執っている。また、世界中から招聘を受け演奏を行ない、Philips、Decca、VOX / Turnabout、Polydor-Deutsche Grammophonのレーベルに録音を残している。教育面では、国際コンクールの審査員を頻繁に務め、マスタークラスを数多く開講している。一方、アンドレ・クリュイタンス、ルイ・ドゥ・フロマンに指揮法を師事し、自身はドイツ、ベルギー、ハンガリー、フランス、ルクセンブルク、セルビア、アメリカの様々なオーケストラやアンサンブルで指揮をしている。

使用楽器:
 アレキサンダー 200GBL(上昇管システム)
使用マウスピース:
 アレキサンダー エクスクルーシヴ・ライン

第34回 プレーヤーズ
フランシス・オーヴァル インタビュー

国内外のホルンプレーヤーにスポットを当て、インタビューや対談を掲載するコーナー。
ホルンについてはもちろん、趣味や休日の過ごし方など、
普段知ることの無いプレーヤーの私生活についてもお伝えします。


─今日は楽器のこととマウスピースのことを中心におうかがいしたいと思います。オーヴァルさんは現在、アレキサンダーの200をお使いなんですよね。

 ええ。特注で上昇管システムを備えたモデルです。3番バルブを押すことで管がショートカットされて、1音上昇します。


アレキサンダー

フランシス・オーヴァル

─フランスでは伝統的に上昇管システムが使われてきたわけですが、実際に使っている方を初めて見ました。
 1965年頃は、フレンチスタイルのホルン奏者はほぼ100%上昇管システムを使用していました。ヴィブラートを多用した、エレガントな演奏が好まれていましたが、それはこの上昇管システムを備えた楽器と密接な関係があったのです。当時は、右手もベルに入れず、添える程度でした。
 しかしマイロン・ブルームのようなアメリカ人の名手がパリにやってくるとその影響力は大きく、フランスのスタイルも上昇管システムの楽器も、完全に変化してしまったのです。私はその頃フランスにいなかったので、そういう影響を受けなかったことが幸いでした。


オーヴァルさんの右手は、このような位置。昔のフレンチスタイルのような、なるべくオープンな音を出すためだとか。音程の調節は指先で行なう
オーヴァルさんの右手は、このような位置。昔のフレンチスタイルのような、なるべくオープンな音を出すためだとか。音程の調節は指先で行なう

─オーヴァルさんも当時は、ピストンホルンを使われていたのですよね。

 ええ。セルマーのピストンホルンで、コンペンセイティング・システム(セミダブル)の楽器でした。もちろん3番バルブは上昇管です。ブラームスのホルントリオをレコーディングしたときにはまだこの楽器を使っていますので、ぜひ一度音を聴いてみてください。


─ところで、上昇管システムのメリットはどのあたりにあるのですか。

 上昇管システムを使うと、ハイトーンを演奏するのが楽になります。例えばラヴェルの《亡き王女のためのパヴァーヌ》のソロに、ハイDに上がる部分がありますね。普通の楽器では、このDを1+2番(または3番)で取ると、Bb管における第11倍音(つまりハイF)を使うことになります。オープンでも取れますが、第10倍音(ハイD)は低くなりますよね。しかし上昇管システムでは、3番を押すことで、第9倍音(ハイC)を使って演奏することができるのです。つまりそれだけミスを防げるということになります。
 でも、今となっては私も自分の生徒には決して上昇管を薦めません。指使いが混乱してしまいますしね。


フランシス・オーヴァル

─ところで、フランスのピストン式セルマーからドイツのアレキサンダーに変えた理由は?
楽器を選ぶということは、服を選ぶということと同じです。私自身の奏法も、世界のスタイルの良い部分を取り入れて、進化してきました。それに合わせて楽器のチョイスも変化したということです。
特にアレキサンダーを吹くとということは情熱的であり、エキサイティングなことだと思っています。何よりも、アレキサンダーホルンは様々なシチュエーションにおいて、奏者の個性を表現することを、手助けしてくれるんです。


─ピストンからロータリーへの変化というのは、大きな問題にはなりませんでしたか。

 問題なかったです。ピストンの方が少し動きが速いから、速いパッセージを吹くときに少しだけ吹きやすかった、というくらいです。


─では、200を選んだのは?

 私にとって103は、構え方が少々窮屈になるんです。楽器を構えるポジションというのはとても大切です。200はポジションがとても自然なので、いろいろなことが自在にできます。



マウスピースでまず重要なのはリムの内径

フランシス・オーヴァル

─さて、オーヴァルさんはアレキサンダーのマウスピース《エクスクルーシヴ・ラインライン》の開発に携わったそうですが。

 このエクスクルーシヴ・ラインの前にもストークのオーヴァル・モデルというマウスピースがあって、どうやら日本では、オーヴァルと言えばまずマウスピースで有名らしいです。以前、大阪と名古屋の大学でマスタークラスを開いたときに、学生たちは「ああ、マウスピースの人だ!」と言っていましたから(笑)。


フランシス・オーヴァル

─マウスピースの各部分の中で、どこが最も重要だと思いますか。
 私にとってまず大切なのは、リムの内径です。次にカップ、そしてボア、リム形状だと思っています。以前はそれらに対して、常に妥協する必要がありました。だから私は、《エクスクルーシヴ・ライン》のマウスピースを作ったのです。このマウスピースでは、内径が17mm〜18mm、つまり1mmの間で9種類の内径を選べます。なぜこれほど多くの種類を作ったのか。それは、1/8mm(0.125mm)の違いが、非常に大きな差になるからです。例えばオーボエのリードは、削り方の微妙な違いによって大きな違いが出ますが、ホルンのマウスピースも同じことなんです。唇の厚みは人それぞれですから、内径の差が及ぼす影響は極めて大きいのです。さらに、同じ人でも、ホルンを吹く筋肉が強化されるに従って、徐々に大きな内径に変えることがあります。私もそうでしたが、マウスピースの内径は、ホルンを吹く年月に従って大きくなることはあっても、小さくなることはないと考えています。


─では、カップ形状については?

 カップに関しては、私は変えることはありません。《エクスクルーシヴ・ライン》には2つのカップの種類があります。ひとつはV字型のスタンダードカップで、もうひとつの“Sモデル”はU字型をしており、バッハやハイドンなど主に高域を吹くためのものです。リムの内径を変えるときには、カップは同じにしておかなければなりません。しかし多くの人はそれらを同時に変更することで、事態を複雑にしているのです。


フランシス・オーヴァル

─リムの内径については最初にお話しいただきましたが、リム形状についてはいかがですか。
 リムの形状は、3種類を用意しています。まず、私にとってのスタンダードである“O”、それに対して厚めのタイプ(W)があります。Rは私の2番目の奥さん(ルビー)の頭文字です。これは彼女が生徒を教える過程で要望したもので、比較的フラットな形状にすることで、より吹きやすく、唇に対するストレスを軽減します。


─オーヴァルさんがお使いの組み合わせは?

 リムの内径が5 1/4(17.625mm)のスタンダードモデルで(ボアサイズ4.6mm)で、リムはOを使っています。


1番バルブに付ける1音半下げるための替え管。上昇管システムでは出せない音を補うためのものだ
1番バルブに付ける1音半下げるための替え管。上昇管システムでは出せない音を補うためのものだ


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