アレキサンダーファン
2007年07月掲載
プロフィール
下田太郎(しもだ・たろう) 下田太郎
(しもだ・たろう)
沖縄県出身。東京コンセルヴァトアール尚美(当時)卒業。同ディプロマコース修了。ホルンを故黒澤勝義、大野良雄、澤敦、山岸博の各氏に師事。第11回及び第14回日本管打楽器コンクールホルン部門においていずれも3位入賞。第67回日本音楽コンクール3位。東京ミュージック&メディアアーツ尚美非常勤講師を務める。2007年7月より神奈川フィルハーモニー管弦楽団契約団員。
使用楽器:アレキサンダー 103GBL
使用マウスピース:ブレゼルマイヤー 2F4S
第25回 プレーヤーズ
下田太郎 インタビュー

国内外のホルンプレーヤーにスポットを当て、インタビューや対談を掲載するコーナー。
ホルンについてはもちろん、趣味や休日の過ごし方など、
普段知ることの無いプレーヤーの私生活についてもお伝えします。

─ホルンはいつ始められたのですか。
中学校1年生のときに、小学校から仲良かった友人たちがそろって吹奏楽部に入ると言うので、私も一緒に入部することにしました。姉が以前、同じ吹奏楽部でパーカッションをやっていたということもありました。


─そのとき、ホルンを希望されたのですか? それとも……
まあ、ほとんどの人と同じです(笑)。最初はトランペットを希望したのですが、当時のホルンの先輩が歯並びとか唇の厚さを見て「ホルンの方がいいのでは」と判断してくれました。だから、自分としては「ホルンをやろう」という意識はありませんでした。
初めて数ヶ月はろくな音も出ないですし、楽譜も読めなかったし、しかも練習曲としてマーチをやれば後打ちばかりで、「果たしてこれは楽しい楽器なのだろうか」と疑問に思い始めていました。でもちょうどその頃、テレビでカナディアン・ブラスの人見記念講堂での来日公演をやっていて、ホルンは多分マーティン・ハックルマンだったと思いますけれど、彼が「カルメン」の「ハバネラ」のソロを吹いているのを見て「なんて良い音なんだろう」と思いました。そして「がんばればこんな音が出るのならば、続けよう」と決心しました。
ホルンに出会ったのは中学の先輩のおかげだし、ホルンをやめずに済んだのはマーティン・ハックルマンのおかげだと思っています。ちなみに、今は後打ち大好きです(笑)。


─高校に行ってからも、吹奏楽を続けられた?
下田太郎
私が行った高校は当時の福岡工業大学附属高校(現・福岡工業大学附属城東高校)で、吹奏楽では非常に有名なところでした。全寮制で、吹奏楽部の特待生ということで学費も免除と、恵まれた状況でした。私は出身が沖縄なので、寮生活は必然でしたね。
私が高校3年生のときに、吹奏楽の先生が高校をお辞めになって尚美の非常勤講師として迎えられるということが決まり、「じゃあ私も一緒に東京に出て勉強しよう」と尚美(当時の東京コンセルヴァトアール尚美)を受験したんです。


─そのためにどなたか先生にレッスンを受けましたか。
実はホルンのレッスンは、受験の1ヶ月前くらいまで受けたことがありませんでした。それも2回。故・黒沢勝義先生のレッスンでしたが、非常に厳しかったのが印象に残っています。ただ、あまり苦労した覚えはありません。高校の吹奏楽部が「良い音と良い音楽」ということをきちんと組み立てているバンドだったので、自然に正しい吹き方になっていたのだと思います。


─それで、めでたく尚美に通うようになったわけですね。
尚美に入ってからは、ホルンは大野良雄先生に、その後澤敦先生につきました。尚美ではディプロマを含めて6年間、その後に「演奏室員」という、オーケストラのサポートなどを担当する立場になり、そのままオーケストラの授業のトレーナーということで講師になりました。だから、学生のときから今まで、ずーっと尚美に通っているんですよ(笑)。
尚美というところは、先生、生徒含めていろいろなジャンルの人が在籍していますので、自分が興味を持ったことは広く吸収することができる、そんなところだと思います。


─ホルンのレッスン以外で、特に興味を持ったのはどんな授業でしたか。
下田太郎
合唱でしょうか。あれは楽しかったですね。実は私は尚美に入ったときにはホルン専攻ではなくて、バンドディレクター(吹奏楽指導者)のクラスに入って、そこでホルンを持って勉強していたという形です。だから、全ての管楽器を演奏する授業もありましたし、リペアの実習もありました。その中で、ソルフェージュの延長で合唱もあったのです。
ただ、時間が経つうちに、「ホルンという楽器で演奏活動ができて、知識のひとつとして吹奏楽の指導ができればいいな」と、だんだん思うようになってきました。そのきっかけのひとつとして、澤敦先生が尚美に講師としていらっしゃって教えていただくうちに、プレーヤーとしてのガッツとかテンションとかそういうものを受け取りまして、「これはホルンをがんばらないと!」と思ったことがありました。
レッスンは過酷でしたけれどね。エチュードは全部暗譜ですし、しんどい曲ばかりを試験でやることになったりとか。でもものすごく熱い方ですから、生徒であったこちらの方が元気をもらったような感じでした。
その後試験官として山岸博先生がいらしていて、ディプロマコースに進んだときには山岸先生にぜひつきたいと思い、お願いして師事することができました。


─尚美の講師となってどのくらいですか。
オーケストラのトレーナーとしては3年目ですが、ホルン専攻のレッスンを持ったのは2007年4月からです。自分が学生として通っていた学校でいつのまにか教えるという立場になっているので、学生には「学校の先輩だと思ってほしい」と言っています。レッスンを受けに来るというよりは、「これってどうやって吹けばいいんですか」というような疑問を投げかけてほしいと。


─演奏活動としては、どんなことに力を入れていますか。
最近、ナチュラルホルンを吹く機会が多いです。もともと黒沢先生のレッスンで、F管をきちんと使い、自然倍音をしっかり理解して吹く、ということを徹底的に言われました。ナチュラルホルン自体は特に誰かに習ったということはありませんが、あるナチュラルホルンのエキスパートの方に声をかけていただき、それからあちこちで吹くようになりました。


─バルブ付きのホルンに慣れている身からすると、ナチュラルホルンの演奏はかなり難しいように思いますが。
なかなか思い通りに行かず、特に音程を作るのが難しいです。その分、うまく行ったときの喜びは大きいですね。普段モダンホルンで吹いている曲をナチュラルホルンで吹いてみると「こんな音がするのか」という驚きがあって、フレージングと音色に対する概念は大きく変わりました。
また、吹奏感もはっきりと違いますね。バルブシステムという余計な抵抗がありませんから、力を入れず、リラックスした状態で音を出さないと、音が作れません。ちょっとでも力んでしまうと簡単に音が外れたり、つぶれたりしてしまいます。それがモダンホルンを吹くときにも、ものすごくプラスに働いていると思っています。


─具体的には?
下田太郎
例えば、「この音ならこの指」という考えをしません。「正規の指」「替え指」というものがないと言ってもいいと思います。「何番の指を押すと何の音」という感覚ではなく、「今、何調の管になっているのか」を常に考えるように、生徒にも言っています。
だから響きとかフレージングによっては、変だと言われる指遣いを僕はよくします。音程よりも、むしろ音色優先ですね。
音程は右手を積極的に使って調整しています。基本的には音程は口で作らない方がいいと思っていますので。口で音程を作ると、余計な力が入ってしまい、唇に負担がかかってしまいますから。


─ところで、現在お使いの楽器はアレキサンダーの103GBLだということで、ナチュラルホルンとは逆に、抵抗感の大きい楽器ですよね。
と、使う前は思っていました。山岸先生の薦めもあって赤(ゴールドブラス)にしたのですが、先生に「きつくないですか」と言ったら「そんなことはない」と。息の跳ね返りをむしろ音の伸びに換えられるから実際にホールで聴くと良い響きがするんだと言われて。


─ちなみに、103の前はどんな楽器をお使いだったのですか。
聞いたことがないかもしれませんが、ジェリー・レシュニックというメーカーの楽器です。クノッフのお弟子さんに当たるチェコ人のレシュニックさんがアメリカに移住して作っていたそうなのですが、そのレシュニックさんが亡くなってしまったことで、もう作られなくなってしまいました。なんでも全部で数十本しかないということですが、僕の場合は丸山勉さんから、すごく無理を言って譲ってもらいました(笑)。今でもときどき、ソロなどで使っています。


─現在お使いの103に話を戻しますが、アレキサンダーの魅力というのはどのあたりにあると思いますか。
下田太郎
断然、音の伸びですね。響きに説得力がありますよ。そして、どこのオーケストラに行っても音が溶けやすいことです。そういう意味でもゴールドブラスは少し柔らかな音なので、より音が溶け合いやすいから良かったのだと思っています。


─これからの活動の予定は?
まず、神奈川フィルはずっとエキストラ扱いで1番を吹くことが多かったのですが、2007年7月から契約団員になりました。
それから、2008年の春には地元の沖縄、浦添(うらそえ)市でソロリサイタルを企画しています。お世話になった地元に恩返しの意味もあります。将来的には沖縄に帰るかもしれませんが、「沖縄から世界へ」という特別な意識はありませんし、「東京から世界へ」と限定されることもなく、日本中どこにいても良い音楽を発信できるようにしていけるというのが理想ですね。



一問一答コーナー

─好きな食べ物は?
やはり琉球料理は好きですね。ゴーヤとかモズクとか海ブドウとか。最近は東京でも琉球料理が食べられるようになってきたので嬉しいです。

─お酒は飲まれますか。
大好きです。泡盛でも焼酎でもビールでも。何でも飲みますね。その辺は山岸先生や澤先生の影響もあるのかもしれません。あの方々も何でも飲まれますから(笑)。1年前に禁煙をしたら味覚が変わって、それから日本酒にも手を出すようになりました。

─趣味と言えば?
日本中を回って美味しいものを食べることですね。仕事で地方に行ったときなど1日余計に滞在して食べ歩きをしています。

─お休みの日にはどんなことをされていますか。
もっぱら家の片付けでしょうか(笑)。あとは水泳に行ったり、自転車に乗ったり。ごく普通の自転車ですが、私の家から10kmの池袋までは自転車で買い物に行きますよ。
あと、よく寝てます(笑)。体の疲れを取って、十分に息を吸えるようなコンディションにしておくことは大切ですので。仕事が続いたりしたときには、唇を休ませてアンブシュアもリセットします。
人によっては「全く吹かない日は作らない方がいい」と言いますが、僕の場合は1日なら完全に休みます。ただし、2日空けるのはさすがに怖いですね。

当コーナーの情報はそれぞれ掲載時のものです。
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