アレキサンダーファン
2022年09月掲載
第79回 アレキファン的「ホルンの“ホ”」
サラ・ウィリスと楽しむアンサンブルクリニック&トーク

 アレキサンダー・ファンならみんな大好き、ベルリン・フィルの偉大なる下吹き、サラ・ウィリス。PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌)のために来日した彼女と、AHOC会員がともに過ごせるイベントが7月8日、ヤマハ銀座コンサートサロンにて行なわれた。受付でプログラムをもらうと、中にはなんとサラの手書きで宛名入りのメッセージが! これは感動ものだった(このイベントは完全予約制)。


 割れんばかりの拍手に包まれてサラが登場し、「3年ぶりに日本に来られてとてもとても嬉しいです。そして、大好きな人たちにまた会えて嬉しいです」とあいさつ。通訳は東京交響楽団首席ホルン奏者ジョナサン・ハミル氏。この2人の巧妙な掛け合いも見どころのひとつだった。




2組のカルテットをクリニック

 この日のメニューは、前半がアンサンブルクリニック、後半がQ&A。この日は事前に受講募集した結果、2組のカルテットがクリニックを受けることとなった。最初は「森でホルンアンサンブル」というイベントで知り合った4人で、その名もWaldkonzert(森のコンサート)。ベルリン・フィルハーモニー・ホルンカルテットのCDのタイトルにもなっている《フォー・コーナーズ(イギリス各地の民謡より)》を演奏した。個人個人の見せ場をしっかりと聴かせつつ、アンサンブルとしても楽しく聴かせる工夫がたくさんの演奏だった。


 ハイEsまでのグリッサンドが複数パートに出てくるが、「これはシークレットだけど、一番高い音は声で出しているの」と、サラの冗談だか本気だかわからない発言が飛び出す(もちろんジョークだろう)。「あなたがたは1番からシュテファン(ドール)、ファーガス(マックウィリアム)、クラウス(ヴァレンドルフ)、そしてサラね。ファーガスがソロを吹いているときは、他の人はpで。メロディは大事だからね。メロディの人は『Look at me!(私を見て!)』と思って吹く。他の人は抑えて。でも、4番は別。4番はいつも大きくていいの(笑)」とアドバイスし、ときには自らが4番に代わって吹く。これはうらやましい! さらに「2番、3番はベルが後ろを向くから、ソロの時にはより目立つように吹かないと」。実際に意識して吹いてみると、さらにメリハリの利いた演奏となった。


 次に「一緒に出るのはうまいけれど、音の切りはどう意識してる?」とサラ。「私はいつもシュテファンを見てる。そのためにも、ベルリン・フィルのホルンアンサンブルではもっと近くに並び、立って演奏してるの。ためしに立ってみて。その方がお客さんにもアピールできるでしょう?」と、その状態で演奏して1組目のクリニックを終えた。
 直後にメンバーに感想を伺ってみると、「夢に見ていたサラ様のレッスンが受けられて、本当に幸せです!」「『ここは自分が出る!』とか『ここは抑える』などわかりやすく、勉強になることが多かったです」「すごく楽しくて、めちゃくちゃためになりました」と全員笑顔だったのが印象的だった。


 

 




 2組目のクリニックは、普段からあさがおホルンアンサンブルとして活動しているグループから、選抜メンバーによるカルテットで、曲はプレトリウスの《バロック組曲》。ザイフェルト時代のベルリン・フィル・ホルンカルテットの来日公演で一躍有名になった曲だ。前組のアドバイスを取り入れ、立って演奏。


 サラは「アンサンブルとしてすごくいい音をしているし、アイコンタクトもよくできています。もっとダイナミクスを強調できるといいですね」と感想を述べた。「1番がきついときには4番がモーターとなって音楽を前に進めるの。みんな、彼と一緒に行こうよ。シュテファン(ドール)も、きついとよく私を見るのよ」と言い、演奏中にも”moving!(動いて!)”と声をかけた。


 「音の入りをどうやって合わせたらいいでしょうか」という質問が出るとサラは「祈るだけ」とジョークを飛ばしたあと、「楽器を動かすのではなく、息で合図するといい」とアドバイスし、実際に1番を吹いてお手本を示した。また「最後の音は、4番はオクターブ下げるとよりシンフォニックになる」と言われて実際に音を出してみると、確かに和音の広がりがまるで別物になったのはさすがだった。


 メンバーに感想をうかがうと、「ずっとサラのファンで、追いかけていたのですが、彼女の前で吹いたのは初めてだったので緊張しました。わかっているつもりだったことを『もっとこうした方がいい』と言われて、やはりそうは聴こえていなかったんだと気づいたこともありました」「あさがおホルンアンサンブルとしていつもはもっと多くのメンバーと活動しているので、今日のアドバイスをみんなに伝えてもっともっと上手になりたい」「ロートーンのプレーヤーなのですが、右手を空けることとか発音のことなどアドバイスをもらうことができました。生でサラの音を聴けたり、一緒に吹いてもらったりしたのは、本当に貴重な機会でした」とのこと。




サラが12の質問に答えるトークコーナー

 後半のトークは、あらかじめ取りまとめられた12の質問にサラが答えるという形で進められた。内容をかいつまんでご紹介したい。


 まずウォームアップと基礎練習に関して。サラは「常にいい音を出すことを心がけて」と言い、それにはジェームス・スタンプのトランペットのための教則本『ウォーム・アップと練習曲』を使うという。ベンディングも行なう。「F管を使うといい」「息と舌のシンクロナイズを大事に。attack(アタック)というよりproduction(音を作る)という意識」「スケールの練習は、(飽きないように)いつも同じではなくアーティキュレーションに変化を付ける」「きちんとゲシュトップを練習すると、本当に上手になれる」など参考になる話がたくさん出た。

 定番の「豊かな音量と音色で低音を吹くためには?」という質問には、「まず姿勢が大切です。いい姿勢を取って、そこに楽器を持ってくること」との答え。練習は「低域だけでなく、中域で大きな音を出すようにすることが大事。もし近所に迷惑がかかりそうなときは、ゲシュトップで練習するのもいいでしょう。低域のゲシュトップは難しいですが、たくさん練習してください」などと、実際に音を聴かせながらレクチャーしてくれた。


「曲の中で、出るときに不安がある場合は?」「自分で自分に合図して出ること。何より、緊張して息を吐くことを忘れないように!」
「音の切り方はとても重要です。切る際には舌で切るのでもないし、横隔膜で強調することもしません。自分の音をよく聴けばどうすればいいかおのずとわかると思います。歌のように自然に音が消えることを意識してください」

 低音と高音のアンブシュアの切り替えについては、「私はどこか1か所で大きく変えるのではなく、小さな切り替えポイントがたくさんあります。シュテファン(ドール)もそうですね。下がってくるときと上がるとき、2種類のアンブシュアで出せる音もあります。アンブシュアを変えるときに、楽器の角度を変えてもいい。要するに良い音が出せればいいわけですから。あらかじめ切り替えポイントを意識しながら、最初はスラーで、次にタンギングをして、ゆっくりと練習して筋肉に覚え込ませるといいです」と話した。


 Q&Aコーナーの後でアルバム『モーツァルトとマンボ2』の紹介があり、その中の1曲《Sarahchá》のミュージックビデオが流された(サラによれば「世界初公開!」)。これでイベント自体は終了だったが、その後はサラと一緒に写真を撮る人、楽器ケースにサインをもらう人、参加者同士で旧交を温める人など、自由に過ごす時間が取られ、余韻を残しながら久しぶりのサラとのミーティングはお開きとなった。


 




【サラのコメント】

  「コロナ禍で長い間来日できなかった後だけに、再びAHOCのイベントに来られたことはとてもエモーショナルでワンダフルなことです。その意味で、今日はいつもよりも特別なイベントとなりました。私も皆さんと会ったり、演奏を聴かせていただいたり、質問に答えたりということを心から楽しみました」

(右の写真は、この日通訳を務めたジョナサン・ハミル氏とともに)


文:アレキサンダーファン編集部 今泉晃一


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