アレキサンダーファン
2016年1月掲載
第65回 アレキファン的「ホルンの“ホ”」
ホルンフェスティバル in Tokyo 2015


 2015年の11月29日、池袋の東京音楽大学にて、2012年以来となる首都圏でのホルンフェスティバル(日本ホルン協会主催)が開催された。プロ・アマを問わず「ホルン吹きの祭典」に多くの人が来場し、アンサンブルやソロなどの充実したコンサート、思わず納得の講演、熱血あり笑いありの面白アトラクション、ホルン好きにはたまらない展示ブースなどをこころゆくまで堪能したのだった。


気になるあの楽器を試奏!〜展示ブース

アレキサンダーは103の仕上げのバリエーションに加え、107と107Xというデスカント2モデルも展示
アレキサンダーは103の仕上げのバリエーションに加え、
107と107Xというデスカント2モデルも展示

 展示ブースには数多くの楽器やアクセサリーが展示されており、日頃から気になっている楽器を見て、触れて、試奏できる場となった。広い部屋が割り当てられていたが、ホールでの演奏が始まる前や休憩時間には数多くの来場者が詰めかけ、かなりの混雑具合となっていた。


103はイエローブラス(ノーマル&ハンドハンマー)、ゴールドブラスが比較試奏可能だった

103はイエローブラス(ノーマル&ハンドハンマー)、ゴールドブラスが比較試奏可能だった

 ヤマハブースではアレキサンダーとヤマハの2ブランドを展示。アレキサンダーは103MBL/MBLHG/GBLと、107XMBL、107MBLが展示されており、アレキサンダーユーザーにとっても、ハンドハンマー仕上げの103MBLHGや、デスカントの107XMBLなどを試奏できる貴重な機会となった。また、「アレキサンダーが気になっているけれど店で吹かせてもらうのはちょっと……」という人が103に初めて触れて納得、というシーンも見られたのだった。
 また、告知の通り、アレキサンダーホルンオーナーズクラブ(AHOC)の会員証を提示すると、アレキサンダーの特製ボールペンをもらえることになっており、アレキサンダーのエンブレムの入った高級感のあるデザインで、書き心地もなめらかなボールペンをゲットした人も多かったようだ。


ヤマハのニューモデル、YHR-869は注目度抜群! 試奏希望が後を絶たなかった
ヤマハのニューモデル、YHR-869は注目度抜群! 試奏希望が後を絶たなかった

 一方のヤマハは、井手詩朗氏が全面的に開発に携わったニューモデルYHR-869D/GDが大変な注目を浴びていた。その他にはセミダブルのYHR-841GD、トリプルのYHR-891D、デスカントのYHR-881Dなど、基本的に受注生産のためなかなか店頭に並ぶ機会のないモデルを取り揃え、多くの来場者が試奏に訪れていた。中でもやはりYHR-869D/GDは試奏を希望する人が途切れず、ファンの関心の大きさが実感できた。また、イエローブラスとゴールドブラスを吹き比べる人も多く、「やっぱり黄色かな」「自分だったら赤を選ぶな」などという会話も聞こえてきた。




様々な形でのアンサンブルを披露

松戸ホルンクラブ「月うさぎ」。指揮は日本ホルン協会常任理事でもある阿部真美氏

松戸ホルンクラブ「月うさぎ」。指揮は日本ホルン協会常任理事でもある阿部真美氏

 このホルンフェスティバルのメインと言えるのが、ホールにおけるコンサート。その中でも、アマチュアのアンサンブルグループが4団体、音大生によるアンサンブルが2団体、プロが4団体に加え、事前に応募し、当日リハーサルを重ねたメンバーによるプロ・アマ混合のアンサンブルやマスクワイヤなど多彩な形態や曲目が聴衆を楽しませた(以下、順不同に紹介)。


普段からプロとアマが一緒に活動しているさいたまホルンの会。指揮はメンバーでもある古野淳氏
普段からプロとアマが一緒に活動しているさいたまホルンの会。指揮はメンバーでもある古野淳氏
日本ホルン協会の常任理事と理事によるJHSアンサンブル。オープニングのファンファーレも務めた

日本ホルン協会の常任理事と理事によるJHSアンサンブル。オープニングのファンファーレも務めた

 アマチュアではAdventurous Hornists Organization(通称AHO)はウィンナホルン、ナチュラルホルン、ピッコロホルン、ワーグナーテューバなど様々な「ホルンの仲間」の楽器を取りそろえ、それぞれの音色を生かしてラヴェルの《ボレロ》を演奏。松戸ホルンクラブ「月うさぎ」は27名で出演し映画『ロビンフッド』の音楽を大迫力で、相模ホルンクラブはフーバーの《牧歌とウィーンの森の狩りの楽しみ》を演奏。「プロ・アマの垣根を越えてアンサンブルを楽しむ」ことをコンセプトとしているさいたまホルンの会は、オリジナルアレンジによるマーラーの交響曲第5番第3楽章を演奏して喝采を浴びた。


2015夏のIHSシンポジウムに参加した東京藝大のホルンアンサンブル。右端が本来のソリスト(R.シュトラウス:ホルン協奏曲第1番)だが、左端の人はどうしても第2番を吹きたい(笑)
2015夏のIHSシンポジウムに参加した東京藝大のホルンアンサンブル。右端が本来のソリスト(R.シュトラウス:ホルン協奏曲第1番)だが、左端の人はどうしても第2番を吹きたい(笑)
当日、運営に多大なご協力いただいた東京音大のホルンアンサンブル。お疲れ様でした! 指揮は水野信行氏

当日、運営に多大なご協力いただいた東京音大のホルンアンサンブル。お疲れ様でした! 指揮は水野信行氏

素晴らしい演奏の多かった中でも、ひときわ息の合ったアンサンブルを見せたNHK交響楽団ホルンセクション

素晴らしい演奏の多かった中でも、ひときわ息の合ったアンサンブルを見せたNHK交響楽団ホルンセクション


 プロでは日本ホルン協会常任理事・理事によるJHSアンサンブルがネリベルの《フランス組曲》などを息の合った演奏で聴かせ、The Horn Quartetはティペットの《4本のホルンのためのソナタ》を、シープホーンズ+ファミリエは演奏者が心から楽しんでいるような気持ちの良い演奏でケルコリアンの《ホルン六重奏曲》を11名で。2015年8月にロサンゼルスで開催されたIHS(国際ホルン協会)のシンポジウムに参加した東京藝大のアンサンブルはR.シュトラウスのホルン協奏曲第1番に、どうしても第2番を演奏したいソリストがバトルを仕掛ける《コンチェルトバトル》で客席を沸かせ、さらにプロ奏者も加わってバスラー《ヤンボ》を。今回の会場でもあり、運営に多大な協力をしていただいた東京音大のホルンアンサンブルは、大編成でモーツァルト(ダム編曲)『魔笛』序曲を熱演した。
  最後を締めたのは、近年ホルンアンサンブルも積極的に披露しているNHK交響楽団メンバーによるホルンクインテットの、ガブリエリの《カンツォン》、2015年に亡くなったガンサー・シュラーの《5本のホルンのための5つの小品》より、そして小林健太郎編曲の《ハリウッドの至宝》。メンバー5人がひとつのセクションとして見事に溶け合い、意思の統一された音楽性と息をのむほど美しいハーモニーを聴かせてくれたのだった。




ユニークな研究の成果を発表

実際に伴野氏(写真)と萩原氏が被験者となり、特別な装置を使ってマウスピースを唇に押し付ける力を測定した

実際に伴野氏(写真)と萩原氏が被験者となり、特別な装置を使ってマウスピースを唇に押し付ける力を測定した

 この日唯一の講演が、大阪成蹊大学教員である平野剛氏による「科学で解き明かす! ホルン上達へのアプローチ」。自身がホルンを吹く平野氏が自分の悩みを元に始めた研究の一部を発表した。今回のテーマは「マウスピースを唇に押し付ける力」。音程による違い、音量による違いを、新たに開発したマウスピース一体型の装置を使って、実際に数値として計測。実際にホルン奏者の伴野涼介氏と萩原顕彰氏による測定を行ないながら、蓄積されたデータも紹介された。まだ研究の途中とのことなので細かい数値は控えさせていただくが、結論としては個人差はある程度あるが、音が高くなればなるほど、また音量が大きくなればなるほどマウスピースを押し付ける力は大きくなるということが、数値として明らかになった。
 言及はされなかったが筆者が個人的に感銘を受けたのは、プロの奏者が小音量から大音量にクレッシェンドするとき、実際に音量を上げる前にマウスピースの圧力を増して「準備」をしていること。それから、なんとバボラーク氏の測定結果もあり、バッハの無伴奏チェロソナタ第1番冒頭のデータが挙げられていたが、最も印象的だったのは音程によって正確にマウスピースの圧力を変化させていたことだった(つまり、ドならドを吹くときは常に圧力の数値が同じ)。平野氏の研究はまだ継続されるというので、いつかホルンの奏法が科学的に数値として解析される日も来るかもしれないが、今回のところは少なくとも前述の2点が見て取れたことだけでも、上達に役立つのではないかと感じた。




若手からベテランまで、魅惑のソロ

 ソロでまず注目を浴びたのは、日本ホルン協会主催のジュニアソロホルンコンクール’15(カテゴリー2)で第1位を受賞した西本葵さんによるF.シュトラウス《主題と変奏》。東京音大の学生ということもあり、立ち見も多数出るほどの注目度だった。。やや緊張気味であったが、太く伸びやかな音色と素直な表現で、細かなところまで丁寧に吹いていたのが印象に残った。
 読売日本交響楽団の日橋辰朗氏の演奏は思わず「上手い!」と息を漏らすほど。アレキサンダー103の特徴を生かした、高域の倍音の多いブリリアントな音色で、テクニカルなカリヴォダ《序奏とロンド》を軽やかに聴かせた。NHK交響楽団の木川博氏はマドセンの《ソナタ》で、まるで気持ちを吐き出すかのような深い感情を込めつつ、多様な色を使い分けて変幻自在に表現し、聴き手を魅了した。
 アルバム『悠久のペテル』で2014年度のレコードアカデミー賞を受賞した古野淳氏(東京フィルハーモニー交響楽団)は、どこまでも柔らかな音色にヴィブラートを利かせた“古き佳き”東欧スタイルでアニシモフの《ポエム》と外山雄三の《ホルンとピアノのためのファンタジー》を演奏。各地域のスタイルによる個性が薄まりつつある現代において、古野氏が希代の演奏家であることを改めて感じさせられたのだった。

 

日本ホルン協会主催のジュニアソロホルンコンクール2015で第1位となった西本葵さんの演奏

日本ホルン協会主催のジュニアソロホルンコンクール2015で第1位となった西本葵さんの演奏

読売日本交響楽団首席ホルン奏者の日橋辰朗氏
読売日本交響楽団首席ホルン奏者の日橋辰朗氏
NHK交響楽団の木川博史氏のソロ

NHK交響楽団の木川博史氏のソロ

普段からプロとアマが一緒に活動しているさいたまホルンの会。指揮はメンバーでもある古野淳氏
2014年度のレコードアカデミー賞を受賞した東京フィルハーモニー交響楽団の古野淳氏は“オンリーワン”のホルン奏者であることを見せつけた

楽しいアトラクション

「大音量選手権」予選の様子
「大音量選手権」予選の様子
「大音量選手権」の優勝者がステージでその音量を披露。やはり若い人が優勢なのか

「大音量選手権」の優勝者がステージでその音量を披露。やはり若い人が優勢なのか

 アトラクションは予選が各部屋やロビーで行なわれ、決勝や発表がステージで行なわれた。「大音量選手権」は文字どおり、ホルンで出した音の音量をデシベルメーターで測定。R.シュトラウスのホルン協奏曲第1番冒頭と自分の好きな音で2回挑戦し、その合計値で勝負する。優勝者はステージでその大音量を披露し、客席をどよめかせた(笑)。2013年の札幌におけるホルンフェスティバルから行われた「ロングトーン選手権」は、真ん中のB♭をどれだけ長く伸ばせるか。決勝は3人がステージに上り、緊張感に包まれる中ロングトーンに挑戦。観衆も一緒に息を詰めたのだった。
 個人的にこの日の「企画賞」をあげたいのが「ハイF決闘」。その名のとおり、「荒野の決闘」ばりにまず背中合わせに立ち、互いに3歩ずつ歩いてから振り返り、審判(元東フィルの脇屋俊介氏と東フィルの古野淳氏!)の合図でどちらが先にハイFを当てるかという勝負。ばかばかしいと言えばばかばかしいのだが、これが観衆を巻き込んで盛り上がることこの上なし! 決勝戦はステージ上で行なわれたのだが、3回勝負でも決着がつかず、両者勝利の判定が下された。次の機会には「ペダルF勝負」とかもあったら(無理ならGとかAでも)、下吹きは燃えるのではないだろうかと思うのだが。
 他にもロビーでは「凹出し 500円〜」と看板が掲げられ、その場で楽器の簡単な修理をしてもらえたり、名古屋フィル首席ホルン奏者の安土真弓さん手作りのアクセサリーが販売されていたり(その売り子をしているのがN響の福川伸陽さんだったり!)と、“お祭り”感も満載だった。

 

2015夏のIHSシンポジウムに参加した東京藝大のホルンアンサンブル。右端が本来のソリスト(R.シュトラウス:ホルン協奏曲第1番)だが、左端の人はどうしても第2番を吹きたい(笑)

「ロングトーン選手権」の予選。ちなみにこの方はアレキサンダー103のベルをサテンシルバー仕上げにしていた

「ロングトーン選手権」の予選上位3名による決勝がステージ上で行なわれた

「ロングトーン選手権」の予選上位3名による決勝がステージ上で行なわれた



「ハイF決闘」の予選はロビーで行なわれたので、観衆が徐々に増え、大いに盛り上がった

「ハイF決闘」の予選はロビーで行なわれたので、観衆が徐々に増え、大いに盛り上がった

「ハイF決闘」の決勝の様子。この体勢から、お互い3歩ずつ進み、振り返ってハイF!

「ハイF決闘」の決勝の様子。この体勢から、お互い3歩ずつ進み、振り返ってハイF!

3回試合をしても決着がつかず、判定は「両者勝利」。熱い闘いに拍手喝采
3回試合をしても決着がつかず、判定は「両者勝利」。熱い闘いに拍手喝采

最後は恒例のあの曲で大合奏

最後は楽器を持参した参加者全員がステージに上がっての大合奏

最後は楽器を持参した参加者全員がステージに上がっての大合奏

 ホールにおけるコンサートの最後は楽器を持参している参加者全員がステージに上って、お馴染み《自然における神の栄光》を演奏して締めた。全体としてホールでの各演奏の過剰なほどの充実ぶりとともに、バラエティに富み参加者を飽きさせないホルンフェスティバルであったことが印象に残る。11月8日に行なわれた走る都電の中でホルンを吹くという「みんなで行く都電貸し切りの旅」のように、ユニークかつ意欲的なイベントも増えている日本ホルン協会の企画力、今後も楽しみだ。





文:アレキサンダーファン編集部 今泉晃一


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