アレキサンダーファン
2014年1月掲載
第57回 アレキファン的「ホルンの“ホ”」
丸山勉ニューアルバム記念コンサート "Passion"ホルンの響く瞬間 2013年10月6日 紀尾井ホール


ギターとホルンの繊細なアンサンブル


 新しいソロアルバム『レゾナンス』を発売した丸山勉さんが、10月6日にその発売記念コンサートを東京・紀尾井ホールで開いた。第1部はアルバムでも共演しているギターの松尾俊介さんをゲストに迎えて洒落たデュオを、第2部はホルン・アンサンブル《ヴィーナス》を迎えて、華やかな六重奏を披露した。

 ステージの頭上に掛けられブルーに彩られた布が雰囲気を醸している。前半、松尾さんと丸山さんは舞台の上で隣り合って座り、その部分だけスポットが当たっている。ホールという広い空間の中ではあるが、もっとプライベートなサロンミュージックのような印象。ギターはPAではなく質の良い小型のオーディオシステムで多少拡声してはいたものの、決して大げさにならず、とても心地の良い音楽だった。


  丸山さんのお使いの楽器はご存じヤマハの“丸山モデル”YHR-868GDと、特注のBb/ハイEbのデスカント。1曲目《3つのルネサンス・ダンス》から、明るく伸びやか、そして甘いサウンドを存分に紡いでくれた。ギターのppと同じくらいささやくようなppを奏し、逆にffで吹いてもギターを妨げない。この2人は、「ソロと伴奏」ではなく本当の意味での「デュオ」を奏でているという印象を強く受けた。

 2曲目はロドリーゴの有名な《アランフェス協奏曲》を題材に、フランスのホルニスト、ダニエル・ブルグのためにスペイン生まれのアンドレス・ヴァレロ=カステルスが書いた《ロドリーゴの主題による変奏曲》。pでものすごく情緒豊かに歌い、細かな音符が並ぶフレーズもなめらかなレガートで聴かせるから、時折入るアクセントが一層鮮やかに映える。モーツァルトの《コンサート・ロンド》でもその持ち味は変わらない。もしかすると前半のギターとのデュオは、近年稀に見る「平均音量の小さな」ホルンの演奏会だったような気がする。だからこそ、ギターとの繊細なアンサンブルが生きるのだ。


 前半最後は、CDのために栗山和樹氏に委嘱した《もうひとつのグラナダ》。イメージ通りのスペイン風ファンファーレから始まり、悲痛ささえ感じさせるたゆたうようなメロディに溶けて行く第1楽章、ギターのシンプルなリズムに乗ってレシタティーボ風の自由な旋律をホルンが奏でる第2楽章。水と風を感じさせる流れるような浮遊感のある第3楽章と、ジプシー風の舞曲を情熱的に聴かせる終楽章。この2人だからこそ表現できた光と陰が印象に残った。


フリューゲルホルンも交えて、華やかな六重奏を


  後半は一転、色とりどりのドレスを纏った女性5人組のホルン・アンサンブル《ヴィーナス》との共演。舞台上の照明もピンクのイメージに変更された。ヴィーナスは丸山さんの師匠でもある故・伊藤泰世氏の立ち上げたプロジェクトでもあり、丸山さんと師弟関係にあるメンバーも多く、彼女らの1stアルバムでも共演している。ちなみに、ヴィーナスのメンバーは5人中3人がアレキサンダー103ユーザーである。

 まずはカール・ジェンキンス(真島俊夫編)の《Hymn》。もとは女声合唱のためのこの曲、タイトルの《讃美歌》の通り抑制の効いた、しかし情感にあふれる美しく澄んだハーモニーを聴かせた。ヴィーナスのテーマ曲とも言える小林健太郎作曲《輝ける明けの明星》に続いて、丸山さんがフリューゲルホルンを持って登場し、モリコーネの《ガブリエルのオーボエ》を6人で演奏。丸山さんのフリューゲルもすっかりお手の物だが、やはりホルン奏者が吹いているだけあって、「ソプラノホルン」のように全体が違和感なく溶け合い、音を切ったあとにホールに響くハーモニーの美しさは息を飲むほどだった。


 続いては、フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルでお馴染みの《猫》シリーズから《ブラック・サム》《ミスター・ジャムス》《クラーケン》。もとが金管十重奏であるからそもそも6人で演奏するのも大変で、音域も上は高く、下は低い。しかしトップをフリューゲルで吹くことで柔らかな表現が可能だし、下はヴィーナスの渡部奈津子さんが強力な低音で見事に支えていた。《クラーケン》では丸山さんはデスカントホルンに持ち替えたが、フリューゲルと同じような音域を同じように柔らかく吹いてしまうのはさすが。フーガ風に1人ずつメロディが重なっていくところなど聴きどころも多く、息の合ったアンサンブルを堪能することができた。


 ラストはマンシーニの《ムーン・リバー》を切々と歌い上げた。もしかすると最後のアンコールこそが一番の聴きどころだったかもしれない。CDにも収録されているモーツァルト作曲(松尾俊介編)の《アヴェ・ヴェルム・コルプス》が丸山さんのフリューゲルと松尾さんのギターでしめやかに始まり、途中からヴィーナスによるホルンのハーモニーが加わるのだが、その美しさに思わずぞくっとさせられた。
 「ニューアルバム発売記念コンサート」と銘打たれてはいたが、それをはるかに超える企画と表現の多彩さを味わうことができた演奏会だった。しかしこれでもまだ、丸山勉という音楽家の一部に過ぎないような気がする。



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