そんなツアー目前となったタイミングだが、ここでは前回2月に大阪(11日ドルチェ・アーティスト・サロン大阪にて)と東京(28日アーティスト・サロン Dolceにて)で行なわれたリサイタルから、東京公演の様子をお伝えしたい。
なお、東谷さん以外のミュージシャンは2公演ですべて異なっており、もちろんプログラムも異なるが、同じ曲であってもまったく雰囲気の違うものになっていた。
ドラム:堀越 彰さん
この日の1曲目はジャズのスタンダードでもある〈CANDY〉をラテン風のアレンジで。と言ってもノリノリの陽気なリズムではなく、リラックスした雰囲気にメロウなホルンのサウンドがとてもよく合う。東谷さんの楽器はゴールドブラスに金メッキを施したアレキサンダー403S。楽器も特徴的だが、こういうシーンで聴くアレキサンダートーンも、またひと味違う印象になる。
続いて〈SO NICE〉。〈サマー・サンバ〉とも呼ばれる曲で、ボサノバ調の軽妙なリズムの半音階が特徴的。リズミカルで軽やかなホルンサウンドが楽しめた。〈MR. MAGIC〉では息の長いメロディを美しいレガートで、甘く聴かせてくれた。インプロヴィゼーション(アドリブ)もどこかロマンティック。東谷さんのホルンは、このレガートの美しさがひとつの聴き所であると思った。もちろん速いパッセージを涼しい顔でさらっとこなしてしまうのも高い技術だが、何よりこのレガートは“聴かせる”。
前半最後に演奏した〈NICA'S DREAM〉は、土俗的なリズムに乗ってヘビーで熱い音楽を聴かせた。全体は徐々に軽快なラテンリズムに変化していくのだが、そこにドラムのリズムが重みを持たせ続けるのが面白い。途中の激しいドラムソロも聴かせてくれた。
後半2曲目の〈LOVE WEARS NO DISGUISE〉では、エフェクターの使用に挑戦。まずホルンでリズムパターンを吹き、それを「ループ」で繰り返した上に、さらに自身でメロディをかぶせていく。最後にはループの音源とハモリ、1人二重奏的な演奏もリアルタイムで聴かせてくれた。最後に1回だけループの音がはみ出してしまったのは、愛嬌だ。「また挑戦してみたい」と話していたが、こういう新しい試みは、またぜひ聴いてみたい。
〈BLUE OCEAN〉は今回唯一の東谷さんオリジナル曲。「解放されたような気分」で作ったというが、明るく爽やかで、漂うようなメロディに身をゆだねるのが心地良い。この曲を聴いて、改めて「ああ、やっぱりホルン吹きなんだな」と思った。とてもポップな雰囲気で、メロにちょっと “泣き”が入る〈HELLO〉も印象に残った。
アンコールの1曲として演奏したのは、ジミ・ヘンドリックスの〈パープル・ヘイズ〉。ロックである。東谷さんは「驚かないで下さいね」と言って吹き始めたのだが、エフェクターでディストーションをかけ、まさにエレキギターをイメージしたホルン。初めて聴いた。
足下にある赤いものが、今回使用したギター用のエフェクター
実はこのライブ、2011年3月12日に予定されていたのだが、震災の影響で中止になり、約1年後に実現したということで、東谷さんの感慨もひとしおであったのだろう。とても気持ちの入った演奏であったし、客席もまたそれに引き込まれてそれほど大きくない会場だけに一体感のある、とても充実したライブだった。
ホルンだけではなく、ピアノの重層的で複雑なコード進行を駆使したソロ、ドラムの変幻自在な熱いプレイ、ベースのグルーブ感と鋭い突っ込み(もちろん演奏上の)などどこを見ても面白かった。これを聴くと、自分でもジャズホルンをやってみたい気持ちになるのだが、やはり何から始めればいいか考えてしまう。でも、東谷さんなら「まず飛び込んでみろ」と言うだろう。自身もそうやって今に至っているのだから。
アレキサンダーホルンオーナーズクラブ事務局