アレキサンダーファン
2010年12月掲載
第44回 アレキファン的「ホルンの“ホ”」
アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン 第7回定期演奏会

 全員がアレキサンダーを使用する大編成ホルンアンサンブル、アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン(以下、AHEJ)が9月19日、東京文化会館小ホールにて第7回定期演奏会を行なった。結成11年目となるAHEJだが、新しいメンバーを迎えて、さらに意欲的に活動を始めたことがわかる演奏会であった。その模様をレポートしたい。


 最初の曲はバーンスタインの歌劇《キャンディード》序曲。幕開けにふさわしい華やかな曲だが、ご存じのようにオーケストラでも難しい曲をホルン10重奏にアレンジしてあるので、かなりの難易度となる。しかし、常にチャレンジし続ける姿勢が、AHEJらしいところでもあるのだ。速いパッセージが連続し、細かなミュートワークや超ハイトーンなど聴きどころ満載。一方、中間部では朗々と歌うメロディとゆったりとしたハーモニーを聴かせてくれた。
 いまさらだが、やはり楽器が同じということで、響きの純度が高いように感じる。しかし一色になってしまうことなく、吹き手の個性や意志というものをしっかりと表現しつつ、それが融合することでアンサンブルを形作っているのだ。


アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン

 さて2曲目、クーツィルの4重奏《サンク・ミニアチュール》では10人→4人と人数は半分以下だが、全く物足りなさを感じなかった。トゥッティが決まったときには、魅力あるアレキサンダートーンが響きを増幅してくれるようにも思った。
 演奏は、細かなところまで意志の疎通ができていて、丁寧にアンサンブルを作り上げた印象だった。しかも全く違う雰囲気を持つ5つの小品を、がらりとイメージを変えて表現して、聴き手の耳を捉えて離さない。特にppでよく歌う演奏で、ここがきれいだからこそ、ffがさらに印象的に映った。


アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン

 ビッシルの8重奏《3つの肖像》は、華やかなファンファーレ、コミカルなフレーズ、ジャズ風の要素などが様々に入り交じった面白い曲だ。2曲目ではトップを吹いた上間さんのしみじみと聴かせるソロに心打たれた。各パートの短いフレーズが次々に重なっていくシーンでは、どのフレーズを取っても各々の音楽性を込めて吹いていて、その上で全体の方向性が統一されているために、とてもスケールが大きく感じた。たたみかけるようなセンチメンタリズムに飲み込まれていく感じがたまらない。3曲目はリズミカルな曲調を基本として、その上にハモりながら音階的に流れていくメロディが気持ちいい。
 この《3つの肖像》、それぞれ個性の際だつ曲で構成されており、聴いていてとても面白いが、同時にホルンという1種類の楽器だけでこれだけ多彩な表現付けをすることができることにも感銘を受けた。


アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン


現代曲、トリオという新しい試み。そしてワーグナー

 バルボトゥーの6重奏《FORMULE6》は全体の大きな響きの中に、細かなフレーズやグリッサンドやフラッター、ゲシュトップやミュートなど様々なサウンドが内包され、ホルンという楽器で作り出される”音”や”響き”そのものを楽しむような現代調の曲だ。こういう曲は特に、完璧な演奏をしないと面白味が伝わらない場合がある。例えば音を1つ外すだけでも作曲者の意図と異なってしまう可能性もあるのだが、そういう意味でもAHEJは完璧なアンサンブルを聴かせてくれた。これまでAHEJのプログラムとしてはあまり取り上げてこなかったたぐいの曲であるが、とても面白く聴くことができたし、こういう曲を取り上げるということがまた、11年目を迎えてさらに新たな要素を取り入れていこうという意欲の表れのようにも感じた。


アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン

 ギャレーの《三重奏曲第2番》も、AHEJの演奏会で初めて取り上げる編成だ。久永さん、上間さん、藤田さんがこのトリオを演奏したのだが、もっとも小さな編成ということ以上に、個人的にもっとも印象に残る曲だった。メロディ+伴奏、ベース+ハーモニー、メロディとハモリ+ベースなど互いの役割を次々に入れ替えながら曲が進んでいく様子がすべて耳で追えるというトリオならではの面白さ。また、小編成ならではの澄んだハーモニー、弱音の美しさは特に印象的だった。第3楽章の3拍子をウィンナワルツのリズムで取り、それがぴったりと合って優雅な雰囲気を醸していたのは、さすが全員がオーケストラプレーヤー。3人の演奏ながらとてもシンフォニックであり、まるでオーケストラを聴いているかのように感じることもあった。
 トリオということで和音の作り方もシビアだろうし、体力的にもとてもきついと思うが、とても爽やかに演奏しきった名演だった。それにしても、トリオというとライヒャなど知られている曲はそれほど多くないが、こんなすてきな曲があるのかと、思わず目からウロコであった。


アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン

 プログラムの最後は、AHEJが毎回演奏会で取り上げてきたワーグナーの、歌劇《さまよえるオランダ人》序曲。スケールが大きく、オーケストレーションの厚みのある曲を10人で、ノーカット演奏した。半音階の連符が上に下にと行き交うシーンが頻繁に出てくるが、これが大きなうねりと息の長いフレーズを作り上げている。譜面的にはかなり無茶な部分もあったが、演奏は無理をしている感じが強くなく、良いホルンアンサンブルと良いワーグナーの音楽を、両方感じられる熟成された演奏だと思った。


 アンコール1曲目は全員が立奏での《ブルー・ホルンズ》。メロウでジャジーな曲だが、これまでクラシック以外あまり取り上げてこなかったAHEJだけに、新鮮な魅力たっぷりだ。2曲目のポルカ《雷鳴と電光》では、大太鼓で表される中間部の雷鳴が、野見山さんと藤田さんの低音で見事に決まっていた。最後にもう1曲、まさかの《ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら》(2008年の特別演奏会で演奏)が始まったが、超ショートバージョンで終わって観衆を沸かせたのだった。


アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン

終演後のロビーにて。野見山さんと藤田さん、女性2人のブルーのドレスがまぶしい!
終演後のロビーにて。
野見山さんと藤田さん、女性2人のブルーのドレスがまぶしい!
 
会場には、アレキサンダー社のスタッフも聴きに来ていた。左がフィリップ社長、右はパンクラッツ氏
会場には、アレキサンダー社のスタッフも聴きに来ていた。
左がフィリップ社長、右はパンクラッツ氏






 東京での定期演奏会の翌日、9月20日には名古屋の電気文化会館 ザ・コンサートホールにて演奏会を行なった。こちらは一部プログラムを変更し、野々口義典氏(名古屋フィル)ら名古屋のプロオーケストラで活躍する奏者6名をゲストに迎えて行なわれた。会場は満席。ファンの中には、東京と名古屋、両方の公演を聴いたという強者もいた。


超満員の聴衆が開演を待ち構える。
超満員の聴衆が開演を待ち構える。
 
名古屋特別演奏会リハーサル風景。この日は日橋辰朗さんも出演!
名古屋特別演奏会リハーサル風景。 この日は日橋辰朗さんも出演!


文=「アレキサンダーファン」編集部 今泉晃一

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