アレキサンダーファン
2010年11月掲載
第43回 アレキファン的「ホルンの“ホ”」
ホルンアンサンブル・ファミリエ 第3回演奏会

 アレキサンダー・ファンの皆様には、まだ暑かった9月19日(東京)、20日(名古屋)に開催されたアレキサンダーホルンアンサンブルジャパンの演奏会が記憶に残っているかも知れない(もちろん、こちらも近いうちにレポートを掲載する予定)。しかしまさにこれから猛暑の夏を迎えようとしていた6月にも、アレキサンダーホルンを中心とした大編成のホルンアンサンブルの演奏会が開催されていたので、まずこちらからご紹介しよう。


ホルンアンサンブル・ファミリエ

 ホルンアンサンブル“ファミリエ”の中心的存在となっているのは、アレキサンダーホルンアンサンブルジャパンのメンバーでもある、シエナ・ウィンド・オーケストラの上里友二さん。ファミリエのメンバーは東京音楽大学ホルン科の卒業生有志で、若手と言っていいホルン奏者たちだ。2007年に結成されて、第3回となるこの演奏会(6月28日、かつしかシンフォニーヒルズ アイリスホールにて)も、溌剌としたエネルギーを感じるものだった。
 ちなみに今回出演したメンバー10人中9人がアレキサンダーユーザーである。


ホルンアンサンブル・ファミリエ

 プログラムには4重奏から10重奏までバラエティに富んだ曲が載せられているが、これは基本的にまず編成ごとにメンバーを決め、それぞれのグループごとに曲を決めるというやり方を取ったそうだ。


 まず1曲目は《セビリヤの理髪師》序曲。8重奏だが、ステージ上では前後4人ずつ、8列に並ぶ。最近よく見る並び方で、確かに場所による響きの差ができにくく、音が溶け合うというメリットがあるようだ。メンバーがみな若く、フレッシュな演奏で、「1曲目からこんなに飛ばして大丈夫なの?」と思うほどの熱演。難しいアレンジでもあるので傷は多少あったが、「どう歌うか」という意図がよくわかり、また内声部が思い切って主張しているので、聴いていてとても面白かった。


 2曲目はリヒター作曲の《ホルン4重奏のための6つの小品より》。ナチュラルホルンを思わせるホルンの倍音列を生かした伸びやかな音色と、ヴァルトホルンらしい荒々しさが聴いていて気持ちいい。いわゆる”アレキサンダートーン”もそこかしこに感じることができた。


 ボザの《4本のホルンのための組曲》は、ホルンカルテットでは「定番」と言ってもいいレパートリー。下吹きに非常に厳しい曲だが、4番を担当する庄司知世さんの太く豊かな低音が上の3人をがっちりと支え、非常に安定したサウンドを聴かせていた。この曲に限らず、この日の演奏会では下吹きである庄司さんと津守さんの演奏が印象に残った。言わずと知れたことだが、ホルンアンサンブルは下吹きが上手いと、格段に輝きを増すことを改めて実感。アンサンブル全体としても、出るところと引っ込むところによく気が配られ、よく練られた演奏だった。


リハーサルにて
リハーサルにて

 レイノルズ編曲による《カントスNo.3》はルネッサンスやバロックの曲を8重奏に編んだもので、〈Dialogo(対話)〉〈Echo(反響)〉などのタイトルを持つ曲を生かすべく、4本ずつ2グループに分かれてステージ左右に並ぶ。それぞれのグループ間での掛け合いが面白く、立体的な音響が楽しめた。この配置の効果を高めるため、リハーサルでも念入りに位置の調整をしていたのが印象に残る。


 ターナーの《ホルン四重奏曲第4番》は、ある意味この演奏会のメインの1つだった。自身がアメリカン・ホルン・カルテットで活動しているターナーの曲は、ホルンの可能性をフルに使ったテクニカルなものだが、同時に民謡なども取り入れた親しみやすいメロディには歌心も求められる。シエナ・ウインド・オーケストラの上里友二さんと津守隆宏さん、そして石川善男さん、山本奈奈さんによる演奏はアンサンブルもピタッときまり、手の内に入った演奏を聴かせてくれた。テクニックに余裕がうかがえる分、”歌”の部分がよく表現されていたように思う。音色もアレキサンダーサウンドの良い面がよく出ていて、ある時は柔らかく繊細に、あるときは輝かしく雄大であり、曲調による雰囲気の差も多彩で、第2楽章のミステリアスな雰囲気には思わず引き込まれた。
 今回はグループごとに様々な配置が取られているのも興味深いところだが、このカルテットのオーソドックスな半円の配置は、やはり互いの顔を付き合わせて吹くことで、糸でつながったような有機的なアンサンブルを聴かせてくれたような気がした。


リハーサルにて
リハーサルにて

 ベートーヴェンのピアノソナタ第8番より《アダージョ》は有名なメロディであり、様々な楽器や歌で演奏されるが、ホルン6重奏というのもまた良い。「難曲」と「大曲」にはさまれた清涼剤的存在であった。


 さて、10重奏によるトリは、吹奏楽の古典とも言える名曲、ホルスト作曲《吹奏楽のための第1組曲》。「最後にはホルン吹きだけでなく皆が知っている曲を」ということで、ズーラシアンブラスのアレンジなどでも活躍している石川亮太氏による(ファミリエのための)スペシャルアレンジでの演奏となった。音域も広く大変な譜面だったと思うが、大編成ホルンアンサンブルの魅力を満足行くまで堪能した演奏であった。次回は第2組曲(?)ということも考えていないわけではないらしい。


 
ホルンアンサンブル・ファミリエ
 
ホルンアンサンブル・ファミリエ
 

 さてこのホルンアンサンブル・ファミリエの演奏会は、編成の多彩さと選曲の多彩さが大きな魅力であり、各グループが競うようにして熱演を繰り広げていたのが面白かった。若い奏者の集まり故の未完成な部分もないわけではないが、そのエネルギーがホルンアンサンブルの面白さをダイレクトに伝えてくれた。それだけに、もっと多くの人に聴いてもらいたかった。
 演奏会から時間が経ってのレポートとなってしまったが、次回の演奏会は、特に中学生や高校生のような若い人にぜひ聴いてほしいと思ったのである。


ホルンアンサンブル・ファミリエ 集合写真


文=「アレキサンダーファン」編集部 今泉晃一

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