アレキサンダーファン
2010年05月掲載
第40回 アレキファン的「ホルンの“ホ”」
つの笛集団 第29回定期演奏会 〜14人のロメオとジュリエット〜【レポート】

 2010年4月11日、東京・第一生命ホールにて、ホルンアンサンブル「つの笛集団」の第29回定期演奏会が行なわれた。
 つの笛集団は1978年に、“若手”ホルン奏者を中心に結成された。30年を超える歴史の中で“若手”はいつしか“ベテラン”となり、新たなる若手を加えつつ14人というメンバーで今日に至っている。これだけ長い歴史を持つプロ奏者による大編成ホルンアンサンブルは、現存するグループとしては希有な存在だ。
 定期演奏会としても、30回を目前に、ある意味これまでの「総まとめ」的な内容を盛り込んだもののように感じた。


ひとりひとりの個性が際立つアンサンブル

 まず1曲目はネリベルの《フランス組曲》。八重奏曲を8人で演奏(とわざわざ断るのは、この演奏会ではパートを重ねて演奏することもあるため)。
 演奏会のオープニングにふさわしい華やかかつ技巧的な曲で、各パートが複雑に絡んでいく様が面白い。その動きをクリアに見せつつ、金管楽器としてのホルンの迫力を聞かせてくれた。


つの笛集団 演奏写真

 つの笛の名物のひとつがメンバーによる軽妙な(そうでない場合もあるが)MC。ここでは福川&田場(敬称略)によって、今回のテーマ「14人のロメオとジュリエット」にちなんで「イエス、フォーリンラブ」のパロディが演じられたのだった。
 会場は爆笑……とまでは行かないが、この微妙な雰囲気と、客席からの温かな視線も、つの笛らしさではある。


 続いてリュートゲンの《四重奏曲》。丸山/野瀬/大野/冨成という個性豊かなプレーヤーによるカルテットだ。プログラムによればリュートゲンはベートーヴェンの時代の人のようであるが、まったく有名ではない。しかしロマンティックでとてもホルンらしい曲調が魅力的であり、それをまた“全員がよく歌う”演奏と柔らかなハーモニーで余すところなく引き出していた。


つの笛集団 演奏写真

 3曲目は、つの笛集団結成間もない頃に委嘱したという八重奏曲、織田英子の《日本の童歌》。次々と耳馴染みのある旋律が登場するのだが、ハーモニーやリズムが意表を突くアレンジの妙で、とても新鮮に聞けた。さらに、8人の演奏者の個性がきちんと音に表れていて、「このフレーズは誰が吹いているのか」を探すのも面白かった。皆の個性が際立っているのに、アンサンブルとしてのまとまりもあるというのが、つの笛のもうひとつの魅力であるのではないだろうか。


つの笛集団 演奏写真



つの笛恒例、「お楽しみコーナー」

 休憩をはさんだ後半は、まずケルコリアンの六重奏曲を14人+指揮で演奏。これも華やかで格好良い演奏で、ホルンの輝かしい音色と分厚い響きを堪能。続いては恒例の「お楽しみコーナー」となった。


 毎回このコーナーを楽しみに演奏会に足を運ぶ人も多いだろう。今回は30回の演奏会を前に、これまでのネタの総まとめ的な意味で、過去にこのコーナーで披露してきた様々な“面白手作り楽器”が大集合し、なんとそれで1曲吹いてしまうという企画だった。
 登場したのはほぼ西郷氏による手作り楽器たち。まず、自身が水道用ホースの先端にじょうごを付けた“水道ホースホルン”をかついで登場。なんとこれは故・千葉馨氏の遺品だとか。続いては金属管にじょうごを付け、肩に掛けて演奏する“バグパイプホルン”。一升瓶の底を抜いてマウスピースを付けただけの“一升瓶ホルン”。
 本来は、金属管の長さによって音程を変えたものを複数組み合わせてメロディを奏でるという“ハンドベルホルン”は、今回は2本のみ登場。そしてつの笛合宿でも製作した“ほら貝”たち。圧巻は、太さの異なる水道管を組み合わせて作った巨大なアルペンホルン。組み立て式ではあるが、保管・運搬だけでも大変に違いない。


 
つの笛集団 演奏写真
 
つの笛集団 演奏写真
 

 
つの笛集団 演奏写真
 
つの笛集団 演奏写真
 

 さて、そんな珍楽器が勢揃いして演奏した曲は《2011年 つの笛の旅》。つまりは《ツァラトゥストラはかく語りき》の冒頭なのだが、アルペンホルンの低い持続音に乗ってちょっと調子外れのファンファーレが響き、堂々たる曲をおもちゃの楽団のような可愛らしい響きで吹ききった。
 指に頼らず、倍音を吹き分けることを日常としているホルン吹きにとっては、マウスピースと管さえあれば工夫次第でどんなものでも楽器になってしまうことに納得。


つの笛集団 演奏写真



上質な音楽と親しみやすいユーモアがある

 そして本日のメイン、プロコフィエフの《ロメオとジュリエット》より。編曲はつの笛の指揮者でもある近藤氏。かなりの難曲であり、相当なテクニックが必要で、「ホルンだけでここまでできる」という挑戦とも取れるものだったが、さすがほぼ全員が現役のオーケストラ&吹奏楽プレイヤーだけあり、単なる技術のひけらかしにならず、もとの曲の持っている精神とドラマ性を感じさせる演奏であった。特に最後の〈ティボルトの死〉は魂のこもったプレイで、圧巻だった。


つの笛集団 演奏写真

 アンコールは、「ひょっとしたらこれが隠しメイン曲なのでは」とも思える《ウエストサイドストーリー》。もともと「ロメオとジュリエット」を下敷きにした物語ということで、テーマの関連性を持たせた選曲。丸山氏の得意なジャジーなメロディが素敵だった。
 最後に、これも恒例の《狩人の合唱》を楽器と歌で演奏して演奏会は終了した。


 つの笛集団の演奏会は、今回に限らないが堅苦しくなく、上質な音楽と親しみやすいユーモアによる、「ホルンのお祭り」的な雰囲気があり、「ホルンの楽しさ」により広く触れる良い機会であると感じた。




つの笛集団

飯笹浩二
大野雄太
木村 淳
近藤久敦
西郷雅則
澤 敦
ジョナサン・ハミル
高野哲夫
田場英子
冨成裕一
野瀬 徹
樋口哲生
日高 剛
福川伸陽
丸山 勉






文=「アレキサンダーファン」編集部 今泉晃一

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