5月4日と5月8日、新日本フィルハーモニー交響楽団ホルン奏者であり、日本ホルン協会事務局長でもある阿部雅人さんがリサイタルを行なった。4日は故郷である福島県の福島テルサFTホールで、そして8日は東京のすみだトリフォニーホール小ホールにて。ピアノ伴奏は遠藤直子さん。
最大の注目ポイントは、阿部さんが新日本フィルで主に2ndを吹く「下吹き」であること。普段、オーケストラでもアンサンブルでもどちらかと言えばメロディやソロを支える役割の多い阿部さんがどんなソロを聴かせてくれるのか、期待は否応にも高まった。
使用する楽器はもちろんアレキサンダー。103ではなく愛用の1103GBLだ。
1曲目のベートーヴェン/ホルンソナタから、その期待通り、オケで普段聴くことの少ない阿部さんの太く朗々とした音色をじっくりと味わうことができた。力強くも軽やかな冒頭部分に続き、大地を一歩一歩踏みしめて行くかのようにじっくりと吹き込んだソロが印象的だった。完全なノンヴィヴラートであり、派手な表現や大げさな表情付けはないが、それがベートーヴェンの骨太で構えの大きい音楽にぴったりと合っている。何よりも、低域におけるニュアンスの豊かさがさすが下吹き、という感じだったし、低音をしっかりと聞かせてくれることで、曲の安定度が格段高い印象だった。
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2曲目、ボザの「森にて(森の中で)」はフランスらしい技巧的で流れるようなメロディラインを持つが、これも徒に軽く吹かず、全ての音符を大事にして細かなところまでおろそかにしない吹き方に、聴いていてとても共感を覚えた。ここでも張りのある音から丸くソフトな音までを使い分け、シーンごとの場面転換が目に浮かぶようだった。
3曲目はヒンデミットのホルンソナタ。決してメロディアスとは言えず、慣れないとつかみづらい曲調であるにもかかわらず、それを“歌”として聴き手に届けてくれた。これは多分、演奏する側に迷いが全くないから、聴き手も納得して自然に入り込めるのではないだろうか。
「オーケストラに入ってから、自分がきちんと吹けていないことがわかって、本番を重ねつつもう一度吹き方そのものを勉強し直した」と以前語っていたことがあったし、プログラムにも「あまりにもずっと吹けないので、ホルンをやめようとまで思ったこともありました」と書いている阿部さんだからこそ、努力を続けてきたその過程と成果が、演奏にも表れているような気がした。 |