アレキサンダーファン
2007年03月掲載
第26回 アレキファン的「ホルンの“ホ”」
アレキサンダー ホルン アンサンブル ジャパン演奏会レポート 2月2日(金) 宝塚特別演奏会(宝塚ベガホール) 2月3日(土) 第6回定期演奏会(東京文化会館小ホール)



 「アレキサンダー ホルン アンサンブル ジャパン」(以下AHEJ)はその名の通り全員がアレキサンダーを使用するホルンアンサンブルであるが、全員が在京オーケストラのメンバーであり、日本のオーケストラシーンを牽引していく実力派ホルニストによって構成される贅沢なアンサンブルだ。途中若干の入れ替わりはあったものの、1999年の設立以来ほぼ同じメンバーで活動を続けており、息もぴったりだ。

 ファーストアルバム『JUPITER』以来約2年ぶりとなるセカンドアルバム『CARNIVAL』(CAFUAレコード)も発売されたAHEJの演奏会が2月に行なわれた。2月2日は兵庫県宝塚市の宝塚ベガホールにて今回で2回目となった地方公演を行ない(昨年は岡山)、翌3日に「第6回定期公演」となる東京公演を迎えた。
宝塚公演のリハーサル風景。阿部さん、余裕ですね
宝塚公演のリハーサル風景。阿部さん、余裕ですね

 会場で『CARNIVAL』の先行発売が行なわれるなど、「ニューアルバム発売記念演奏会」かと思いきや、そうではなかった。CDと重なる曲は2曲しかなく、ほとんどが初披露の曲という、ものすごく力の入った演奏会である。


前半のステージ

 今回は東京文化会館での演奏会を聴かせていただいたが、先に言ってしまうと、「超美味フルコース1.5人前完食、おなかいっぱい、幸せ」という気分にさせてくれた。
東京文化会館小ホールはこの通り満員だ
東京文化会館小ホールはこの通り満員だ

 1曲目のベルリオーズ:「ローマの謝肉祭」(8重奏)はCD『CARNIVAL』のタイトル曲とも言える曲。CDで聴いても凄いけれど、生で聴いてみるとその難しさがよくわかる。もちろんテクニックは完璧なのだけれど、それよりも強く思ったのは、「やっぱりアレキサンダーの音というのは空間で響いたときに本当に真価を発揮する」ということ。超絶技巧を目の当たりにするのはもちろん素晴らしい経験だが、ffでハーモニーが決まれば、もうそれだけで「快感」。最後の和音が消えるのを待ちきれず拍手が湧いたのは多分同じ気持ちの人が多かったからだろう。

「ローマの謝肉祭」は本来8本だが、あまりにきついためアシスタントを付けて演奏
「ローマの謝肉祭」は本来8本だが、あまりにきついためアシスタントを付けて演奏

今回最も小さな編成となったターナーの4重奏
今回最も小さな編成となったターナーの4重奏
 2曲目はご存知ターナーの、比較的演奏される機会の少ない第4番。個人個人のテクニックはもちろん、4本のからみ方がとても難しく、生で演奏するのはかなり勇気がいる。曲的に無茶な部分も一部あるのだが、それを含めてチャレンジングな演奏を楽しませてくれた。

 3曲目の「アルメニアン・ダンス パートI」は、吹奏楽の名曲中の名曲。もともと格好いい曲だが、AHEJのためにホルン10重奏に編曲された今回の演奏は超カッコイイ。冒頭からびっくりのハイトーンとか、サックスが甘く歌うソロとか、細かなミュートワークとか、ホルン10本の分厚く輝かしいハーモニーとか、もう聴きどころ満載。この曲で前半終了だったのだが、まだ前半というのに拍手が鳴り止まなかった。


インターミッション

 たぶん観客のほとんどはホルン吹きなのだろう。休憩中も、「次の曲なに? タンホイザー? 早く聴きてー」とか、「帰ったら楽器吹きたくなってきたよ」などという会話が耳に飛び込んできて、前半を聴いた時点でかなりテンションが上がっているのがよくわかった。


後半のステージ

 『CARNIVAL』にも収録されている「タンホイザー」ハイライト。AHEJは設立当初からワーグナーに意欲的に取り組んできた。これまでも「ジークフリートの葬送行進曲」「ジークフリートのラインへの旅」「ローエングリン」「パルジファル」「神々の黄昏」などを演奏しているのはやはりワーグナーの曲がホルンの音色とマッチして、演奏したときにホルンらしさを魅力的に引き出してくれるからだという。
  今回の「タンホイザー」ももともとホルンの曲だと言われたら納得できそうな演奏だった。8重奏だが前列4人と後列4人に全く別の役割を持たせたアレンジは見ていても面白く、「狩り」のシーンでは舞台裏とピットに別れて演奏するホルンの遠近感を同じステージ上でしっかりと出していたのも興味深かった。

 外山雄三の「懐かしい昔(パッサ・テンポ)」は6人が横一列に並ぶという配置で演奏。題名どおりどこか郷愁をそそるようなメロディが印象的だが、曲としてはとても現代的な作りで、ホルンの機能を「過不足なく」活用した、ある意味今回のプログラムの中で、最もオーソドックスなホルンアンサンブルだった(他の曲では「過」の割合が……)。演奏もとても端正なものだった。
「懐かしい昔(パッサ・テンポ)」を6人横一列で演奏
「懐かしい昔(パッサ・テンポ)」を6人横一列で演奏

 さてお待ちかね。最後は、プログラムを見た瞬間から楽しみにしていた「薔薇の騎士」だ。これもAHEJのためのオリジナルアレンジによる10重奏。1stを吹く有馬氏の指揮で演奏開始。序盤の“例の”ホルンのところも思わず笑ってしまうくらいの“快感”。有馬氏のソロも美しい。ワルツの部分では、R.シュトラウスらしく細かなパッセージがいろいろと絡むのだが、とてもノリが良く、思わず踊りたくなるほど楽しい。ホルン吹きが10人集まるとこれだけのことができてしまうのか、と驚かずにはいられない充実した演奏だった。そのままアンコールはウィーンつながりで(?)「雷鳴と稲妻」。
トリは全員で「薔薇の騎士」
トリは全員で「薔薇の騎士」

 ここで久永氏のMCが入り、2007年はアレキサンダーの225周年と、103が生まれて100周年の「アレキサンダーイヤー」であることが告げられ、客席のフィリップ・アレキサンダー社長を紹介。意外なゲストに観客の反応も大きかった。最後に2006年に逝去された伊藤泰世氏を偲んで「ジュピター」を演奏。メンバーの思いも大きかったのか、素晴らしい熱演で幕を閉じた。
久永氏がご挨拶
久永氏がご挨拶

サイン会の模様。当日『CARNIVAL』を購入した人は、メンバー全員10人分のサインがもらえるというのは太っ腹だ
サイン会の模様。当日『CARNIVAL』を購入した人は、メンバー全員10人分のサインがもらえるというのは太っ腹だ
ホワイエのフィリップ社長も大人気。写真やサインのお願いが後を絶たなかった
ホワイエのフィリップ社長も大人気。写真やサインのお願いが後を絶たなかった
そして最後にはフィリップ社長もCDを手に、AHEJメンバーのサインをもらった!
そして最後にはフィリップ社長もCDを手に、AHEJメンバーのサインをもらった!

(レポート:今泉晃一)

[プログラム]
ベルリオーズ(ロビンソン 編):
「ローマの謝肉祭」序曲
ターナー:ホルン四重奏曲 第4番
リード(小林健太郎 編):
アルメニアン・ダンス パートI
ワーグナー(ホンブッシュ 編):
歌劇「タンホイザー」ハイライト
外山雄三:懐かしい昔(パッサ・テンポ)
R.シュトラウス(大橋晃一 編):
組曲「薔薇の騎士」ハイライト
[AHEJメンバー]
阿部雅人(新日本フィルハーモニー交響楽団)
有馬純晴(東京都交響楽団)
今井仁志(NHK交響楽団)
大東 周(東京フィルハーモニー交響楽団)
勝俣 泰(NHK交響楽団)
金子典樹(新日本フィルハーモニー交響楽団)
竹村淳司(東京交響楽団)
野見山和子(東京都交響楽団)
久永重明(読売日本交響楽団)
和田博史(東京都交響楽団)



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