アレキサンダーファン
2020年12月掲載
ホルンなんでも盤版Bang! ~ライブラリー~ 「ホルンなんでも盤版Bang!」
ホルン関係のCD・楽譜情報を発信していきます!!


このコーナーでは、ホルンに関するディスクをご紹介いたします。
みんな知っている超定盤、「こんなのあったのか」という珍盤など、ホルンが活躍するものなら何でも。その中から今回はこの1枚です。
ここでご紹介する盤は基本的には筆者のライブラリーですので、当サイトへの、入手方法などに関するお問い合わせはご遠慮くださるよう、お願い申し上げます。


盤版Bang!ライブラリー047

MOZART y MAMBO
サラ・ウィリス(ホルン)、ハロルド・マドリガル・フリアス(トランペット)、ユニエト・ロンビーダ・プリエト(サクソフォン)、ホルヘ・アラゴン(ピアノ)
ホセ・アントニオ・メンデス・パドロン指揮ハバナ・リセウム・オーケストラ/ザ・サラバンダ/ハバナ・ホーンズ(サラ・ウィリスと14人のホルン奏者たち)
Le Lien
1. モーツァルト: ホルン協奏曲 断章 変ホ長調 K. 370b
2. ダマソ・ペレス・プラード/ジョシュア・デイヴィス編曲: Que Rico el Mambo エル・マンボ
3. モーツァルト: ホルンと管弦楽のためのロンド 変ホ長調 K. 371
4. エドガー・オリヴェロ: サラナード・マンボ(「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」による)
5~7. モーツァルト: ホルン協奏曲 第3番 変ホ長調 K.447
8. ジョシュア・デイヴィス & ユニエト・ロンビーダ・プリエト:ロンド・アラ・マンボ(K. 447 第3楽章による)
9. イソリーナ・カリージョ/ホルヘ・アラゴン編曲:くちなしの花をふたつ
10. モイセス・シモン/ホルヘ・アラゴン編曲: 南京豆売り ~ライヴ収録
Alpha Classics

▼ベルリン・フィルのホルンセクションで唯一の女性奏者であり、われらがアレキサンダー103ユーザーであるサラ・ウィリスのユニークなソロアルバム。タイトルの『MOZART y MAMBO(モーツァルト・イ・マンボ)』はそのまま「モーツァルトとマンボ」の意味であり、CDを聴き通すとわかるように、マンボをはじめとするキューバ音楽とモーツァルトととがお互い何の違和感も感じさせずに共存している。
▼ライナーにあるサラ自身の文章によれば、このアルバムは2017年に初めてハバナ(キューバ)を訪れたときに、あるミュージシャンの言った「モーツァルトは良きキューバ人になっていたかもしれない」という言葉に着想を得て作られたそうだ。そして2020年1月、キューバで、キューバ人のミュージシャンたちとともに録音された。
▼モーツァルトのホルン協奏曲(断章)K.370bで始まるが、この曲は1楽章分のみが残されており、しかもスコアは未完成ということで、耳にする機会も少ない。それだけに、よく知られるモーツァルトのホルン協奏曲とは少し雰囲気が異なる部分もあり、新鮮に響く。サラのホルンもカラッと晴れ渡ったような音色で、何よりリズムの歯切れよさが印象的であり、南国キューバをイメージさせるところが面白い。
▼直後に陽気なラテンパーカッションに導かれて《Que Rico el Mambo》が始まる。これは「マンボの王様」ペレス・プラードによる1949年のヒット曲で、邦題は《エル・マンボ》。サラのホルンがリードを取り、厚いブラスセクションが支える。モーツァルトからの違和感がまるでないのは、この底抜けに陽気なノリの根底に、人間味あふれる柔らかさとか繊細さが流れていて、それがモーツァルトとも共通しているからではないだろうか。
▼1曲目のK.370bを第1楽章としてホルン協奏曲を作り、その終楽章にしようとモーツァルトが考えていたという説もあるロンドK. 371は、演奏される機会も多いが、この演奏では1988年に発見された18小節を加えたバージョンを使用している。カデンツァも大きな聴きどころで、サラの得意な低音を堪能できるだけでなく、途中ラテン音楽のようなリズムも登場する。これは、同じベルリン・フィルのホルンセクションであったクラウス・ヴァレンドルフによるものだ(彼はカップヌードルのCMでお得意の《地下鉄ポルカ》を歌って話題になった)。
▼《サラナード・マンボ》はモーツァルトの《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》をマンボ風にアレンジしたもので、タイトルの"SARAHNADE"は "SERENADE" (小夜曲=Eine kleine Nachtmusik)とSarah Willisの名前を合体させたものだろう。曲も単純にマンボ風というだけのものではなく、ホルンにはほぼ原曲のままのメロディが登場し、それがマンボのリズムと見事に融合している。ホルンとサックスのソロの絡みも格好よく、まさにこのアルバムコンセプトを体現したような1曲。
▼モーツァルトのホルン協奏曲第3番は奇をてらうことのない、オーセンティックな演奏。とてもフォーカスされたサウンドで、フワフワしたところが一切なく真っすぐ伸びやかなサラのホルンは、まずダイナミクスの差が大きいこと、そして弱音でもエネルギーを失わないことが印象に残る。スケールの大きな演奏であり、しかも音楽的な「芯」のようなものがぶれないことで、いつの間にか聴き手を引き込む演奏だ。これまたヴァレンドルフの手によるカデンツァはけれん味たっぷりで、聴き応えあり。
▼直前に演奏したホルン協奏曲の終楽章(ロンド)を、マンボ仕立てにしたのが《ロンド・アラ・マンボ》。6/8拍子を3/4拍子のリズムに乗せるという力技は「そうきたか!」という驚きがあるが(いつしか4拍子になっていたりする)、聴き進めるうちにそれが気持ちよくなっていく。サラのアドリブ(風?)ソロあり、彼女の低音の魅力を存分に味わえるフレーズありと盛りだくさんだ。
▼《Dos Gardenias(くちなしの花をふたつ)》は1945年のイソリーナ・カリージョのヒット曲で、このアルバム中では唯一の、しっとりとして哀愁あふれるボレロ。トランペットとのデュオで、ムードたっぷりに歌う。ここまでとの対比もあって、ぐっと心に染みてくるものがある。こういう曲とモーツァルト、陽気なマンボがひとつのアルバムとしてきちんと成立しているのは、多分音楽的な計算が合ってのことだとは思うが、サラがすべて共通する感覚をもって吹いているからだろう。
▼最後も有名曲《南京豆売り》。全員が集まってライヴ収録されたものだというが、参加した誰もがこのセッションを楽しんでいる様子が伝わってくる。サラのアドリブソロを筆頭にソロ回しが始まるが、各プレーヤーのアドリブが終わるたびに歓声が上がり、いつしか各楽器が自由に入り乱れている様はまさに爽快! 皆モーツァルトもキューバンミュージックも等しく「音楽」として楽しんでいるということがわかり、このアルバム全体を気持ちよく締めくくった。


アレキサンダーファン編集部:今泉晃一



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