▼神奈川フィルハーモニー管弦楽団首席ホルン奏者にしてホルンアンサンブルVENUSの一員であり、もちろんアレキサンダー103を愛用する豊田実加さんのファースト・ソロアルバムである。タイトルの“Le Lien(ル・リアン)”はフランス語で「縁」「絆」を意味する。プログラムもフランスもので統一されているが、どれもあまり耳にする機会の少ない(しかしどれも素敵な)曲ばかりだ。
▼ギヨーム・バレイの《シャンソン・ドゥ・フォレスティエ》は「森人の歌」というような意味。森の中で合図を交わすようなフレーズで始まり、素朴な、それでいてどこか哀愁を感じさせるゆったりとしたメロディを、飾らずに朗々と歌い上げる。森の奥深さにもつながる距離感を感じさせる表現が見事。
▼自身が著名なホルン奏者であり(パリ管の最初の首席奏者)、教育者であったジョルジュ・バルボトゥ作曲の《セゾン(四季)》。第1曲〈秋〉では収穫の喜びから冬への予感へという変化が、続く〈冬〉の静謐さ、〈春〉の自然の呼び声と喜び、そして〈夏〉の(ダンスとは言えども)どこか気だるげな雰囲気と、情緒豊かに表現される。
▼シャルル・ケクランは主に20世紀前半に活躍した作曲家で、《ホルン・ソナタ》は1925年完成とのこと。テンポの速い、遅いに関わらず全体が淡いグラデーションによって描かれているような印象で、しかしその繊細な変化をきっちりと捉えて表現しているのはさすがだ。
▼ジャック・イベール作曲《物語》は、もともとは10曲から成るピアノのための小品であり、可愛らしい(しかし決して単純ではない)曲調の中にエキゾティズムが描かれている。今回はホルン奏者(神奈川フィルの先輩)でもある大橋晃一氏によってホルンとピアノに編曲され、6曲が抜粋されている。豊田実加さんはまだ若いが、むしろ昔を振り返るような視点で、若い頃体験した異国での新鮮な驚きを、懐かしく思い出しながら表現しているかのようにも感じられた。もちろん演奏は繊細にして伸びやかであり、曲の愛らしさとも相まってホルンのレパートリーとして非常に魅力的に思えた。
▼豊田さんの演奏はいたずらに華やかにせず、開放的に吹き切ることも少ないし、極端なダイナミクスや歌い回しも用いていない。もちろんモノトーンからは程遠い彩りやバリエーションがあって、単調になるようなことは決してないし、聴いていて楽しいのは間違いない。それでも、このアルバムは全体に、穏やかで明るい曇り空を思わせるような淡い雰囲気が漂っているような気がする(もちろん選曲から受ける印象もあるのだが)。それは決して悪い意味ではない。曲から受け取ったイメージによって自分の中に浮かんだ感情を、ただそのまま表現するだけでなく、熟成を重ねて、淡いグラデーションの中で微妙な変化を表現しているのではないだろうか。 |