アレキサンダーファン
2017年04月掲載
ホルンなんでも盤版Bang! ~ライブラリー~ 「ホルンなんでも盤版Bang!」
ホルン関係のCD・楽譜情報を発信していきます!!


このコーナーでは、ホルンに関するディスクをご紹介いたします。
みんな知っている超定盤、「こんなのあったのか」という珍盤など、ホルンが活躍するものなら何でも。その中から今回はこの2枚です。
ここでご紹介する盤は基本的には筆者のライブラリーですので、当サイトへの、入手方法などに関するお問い合わせはご遠慮くださるよう、お願い申し上げます。


盤版Bang!ライブラリー043

ブルックナー:交響曲第8番より
~第28回大阪音楽大学ホルン専攻生有志による ホルンアンサンブルの夕べ
ブルックナー:交響曲第8番より
1. デュカス:《ラ・ペリ》の前奏用ファンファーレ
2. ヒューブラー(三宅知次編):4本のホルンのための協奏曲
3. ターナー:バーバラ・アレン
4~5. ブルックナー(近藤望編):交響曲第8番より第1、4楽章(抜粋)
6. マスカーニ(近藤望編):歌劇《カヴァレリア・ルスティカーナ》間奏曲
ワコーレコード WKCD0087

▼大阪音楽大学のホルン専攻生によるホルンアンサンブルは定期的に演奏会を開いているが、このCDは2015年11月17日に行なわれた第28回のライブ録音。タイトルどおりメインはブルックナーの交響曲第8番だが、後述するように、そこには指揮者の故・朝比奈隆氏との深いつながりがある。
▼CDには豊中市アクア文化ホールの豊かな響きがそのまま収められており、(たぶん)編集などもされていないためところどころ音程の乱れなどもあるが、それも含めてライブの魅力がたっぷり詰まっている。1曲目の《ペリ》のファンファーレから、その臨場感あふれる世界に引き込まれた。
▼ヒューブラーの《4本のホルンのための協奏曲》は元はオーケストラ伴奏によるものだが、指揮も務めた三宅氏がホルン8重奏とティンパニのために編曲。4本のホルンのための協奏曲ではシューマンの《コンツェルトシュトゥック》が有名だが、このヒューブラーも華やかで情緒あふれる、ホルンらしいサウンドとハーモニーを満喫できる。
 4人のソロも見事だが、バックのホルンアンサンブルと一体となって、原曲とはまた違った魅力を聴かせてくれた。《コンツェルトシュトゥック》同様、オケをホルンに編曲するとどうしてもバランスが難しくなってしまうのだが、そこを逆手に取って(?)、ソロとオケが対等に聴こえてきて、ホルンソロvsオケの掛け合いも、ホルンvsホルンとなってより迫力(=気迫)を増してたように感じた(実際オケのパートはかなり気合を入れないと吹けない難易度なのだ……)。
▼大阪音大では池田重一氏が准教授をしており、池田氏というとヴィブラートも使ってとにかく「よく歌うホルン」というイメージがあるが、その教え子たちもまた、よく歌う。ヒューブラーはもちろんだが、ターナーの8重奏曲《バーバラ・アレン》を聴くとそのことをより一層強く感じた。ターナー特有の郷愁を感じさせるメロディが、複雑なリズムからもよく浮き上がって聴き手に届く。
▼ブルックナー演奏の大家であった指揮者の朝比奈隆氏は、自ら設立した関西交響楽団~大阪フィルハーモニー交響楽団(大フィル)の常任指揮者、音楽総監督を2001年に亡くなるまで54年間にわたって務めた。その大フィルでホルン奏者として朝比奈氏を支えたのが指揮を務める池田重一氏(大阪音大准教授)であり、編曲の近藤望氏(ヒューブラーの協奏曲を指揮/編曲した三宅知次氏も大フィル出身)。つまりこのブルックナーは、楽器編成は異なれど、朝比奈の血脈を受け継ぐものである(ということがライナーにも書かれている)。
▼さて、近藤氏の編曲によるブルックナーの交響曲第8番。第1楽章と第4楽章それぞれの「抜粋」ということだが、もともと8本のホルンが大活躍する曲であり、違和感や抜粋感はない(もちろん編曲の妙もあるだろう)。むしろ、長大な曲の中からホルンの「おいしいところ」をぎゅっと濃縮して聴けるというメリットが大きい。
 が、音楽は「おいしいとこ取り」などとは言っていられないほど骨太なもの。ホルン16重奏にテューバ、コントラバス、ティンパニが加わって、まさにフルオーケストラを思わせる分厚いサウンドが出現するのだが、「ホルンでやってみました」のレベルではなく、芯から「ブルックナーを演奏している」のだ。テンポ設定とその動き方、ダイナミクスの変化やフレージングのニュアンスなど、指揮をしている池田氏が大フィルで体得したものだろう。
 池田氏がアレキサンダー103の愛用者ということもあり、やはりアンサンブルのサウンドも、柔らかくも輝かしいアレキサンダーらしさを聴かせる(演奏者たちが何の楽器を使っているかはわからないが、103が多いのではないだろうか)。そこに冒頭に書いたようなホールのたっぷりとした響きが加わって、とても魅力的なホルンサウンドを堪能しつつも、オーケストラでブルックナーの名演を聴いたような深い感動も味わえたのだった。



盤版Bang!ライブラリー044

Russian Horn Concertos
マリー・ルイーゼ・ノイネッカー(ホルン)、ヴェルナー・アンドレアス・アルベルト指揮バンベルク交響楽団、パウル・リヴィニウス(ピアノ)
Russian Horn Concertos
1~3. グリエール:ホルン協奏曲
4~7. グリエール:ホルンとピアノのための4つの小品
8~10. グラズノフ:夢/セレナーデ第2番/牧歌
11~13. シェバーリン:ホルンとオーケストラのための小協奏曲第2番
KOCH SCHWANN 3-1357-2 H1

▼マリー・ルイーゼ・ノイネッカーは1978年にフランクフルト・オペラのホルン奏者となり、翌年バンベルク交響楽団のソロ・ホルン奏者となる。その後1981年から89年までフランクフルト放送交響楽団(現hr交響楽団)のソロホルン奏者を務め、インバルの指揮で来日してマーラーを熱演したのが記憶に残っている方も多いだろう。現在では普通になっている女性ホルン奏者の草分け的存在であり、長くアレキサンダー103を愛用している。
▼本CDはリリースは1994年と古いが、数あるノイネッカーの名盤のひとつに挙げられるだろう。タイトルの通り、ロシア及びソ連の作曲家、グリエール、グラズノフ、シェバーリンのホルン協奏曲や小品が収められている。
▼ホルン協奏曲は数あれど、グリエールのホルン協奏曲ほどロマンティックな曲はあるまい。ノイネッカーのソロは、自在に緩急をつけた、非常に伸びやかなもの。この曲のロマンティックさをじっくりと味わうかのように長いフレーズでとことん歌い込んでいき、盛り上げていくから、頂点に達したときのカタルシスも相当なものだ。そして強弱に関わらない、ノイネッカーのホルンの「雄弁さ」も特筆しておきたい。こんなふうに聴き手の心に突き刺さるホルンサウンド(もちろん良い意味で)は、アレキサンダーならではかもしれない。
▼それにオケがよく付いてきている。カラヤンに指揮を学んだというアルベルトが、ノイネッカーのやりたいことを余さず理解し、ノイネッカーの古巣であるバンベルク交響楽団もともに歩んでいるように思える。弦楽器も大きめのヴィブラートや、ときにはポルタメントまで使って(もしくは自然にかかったか)、聴き手の琴線を震わせてくる。この曲の名演は他にもあるが、「最もロマンティックな演奏は?」と言われたら迷わずこのCDを挙げたい。
▼同じグリエールの、ホルンとピアノによる《4つの小品》も、コンチェルトと印象は変わらない。ノイネッカーのホルンは変わらず雄弁であるが、編成に合わせて少しだけ「小声」になった(音量が小さいという意味だけではない)。感情の総量は変わらないまま、内に向かう分を増やしたという印象。
▼再びオーケストラの伴奏によるグラズノフの《夢》は、「将来の夢」とか「夜見る夢」というより、「白昼夢」といった感じで(原題のRêverieには「夢想」という意味がある)、現実性が乏しくふわふわと漂うような感じ。《セレナーデ第2番》にどこかアイロニックな印象を受けるのはなぜだろう。下世話なことは言いたくないが、最後のハイFの弱音の伸ばしは、ワザアリ! 《牧歌》はむしろ弦楽器が主役の場面が多く、その中でホルンが表に出たり裏に回ったりする「巧さ」も感じ取れる。
▼シェバーリンはショスタコーヴィチと同世代のロシア(ソ連)の作曲家。その作風もショスタコーヴィチとの共通点を感じさせるが、現代的な中にも抒情性を強く持っている。グリエールや、やはりホルン協奏曲のあるゲディケより1世代分若い、この時代のソ連のホルン協奏曲はとても珍しく、しかも録音も少ないので、この演奏はとても貴重だ。ノイネッカー(と指揮のアルベルト)は技巧に偏らず、この曲のドラマティックな部分を引き出すように演奏しており、とても楽しく聴ける。一聴の価値あり。


アレキサンダーファン編集部:今泉晃一



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