▼KEITAとは大阪を拠点に、ジャズとクラシックに軸足を置きつつもジャンルにこだわらないユニークな演奏活動を続けるホルニスト、東谷慶太。愛用の楽器はゴールドブラスに金メッキ仕上げのアレキサンダー403Sだ。「赤鬼」はジャズ、ラテン、特にカリビアンミュージックを得意とするフルーティスト赤木りえと、作・編曲家としても活躍するピアニスト鬼武みゆきのユニット。ある縁でこの3人が出会い、KEITAが長年にわたる関係を築いてきたUSENのスタジオを特別に使用してレコーディングされたのがこのアルバムだ(USENのスタジオは通常自社用のコンテンツのみ録音)。
▼私もレコーディングに立ち会ったのだが、ジャズ・ポップスの世界にいる人なら当然に思えるかもしれないけれど、私を含めてほぼクラシックを中心に演奏しているホルン吹きから見ると、それは新鮮な録音風景だった。譜面はほとんどメロディと対旋律くらいしか書いていないから、レコーディングの場でセッションをするようなものだ。だからアドリブソロはもちろん、アレンジやコードなどもその場でどんどん変化していく。こうしてCDに残された音は「ひとつの」完成形であって、多分同じ曲を同じメンバーで演奏しても、二度と同じにはならないはずだ。
▼《AZUR PROFECIA(アズール・プロフェシア)》のオリジナルはアルゼンチンのベレーザ(現ガブリエラ・アンダース)の歌で、これまでもさまざまな形で演奏してきたKEITAのお気に入り。ピアノのリズムに乗ってホルンとフルートが自由に歌う。《カッチーニのアヴェ・マリア》はオリジナル曲を生かしつつオリジナリティを加えたアレンジで抒情感豊かに演奏。
▼KEITAの書き下ろし曲《PLEASURE NOTES》は「ピアノを弾きながら自分の好きなコードと気持ち良い動きを探してパーツを作り、そこから湧いてきた2つのメロディを同時進行させることで曲を構成」とのこと。軽やかで暖かな曲。FENDER RHODES MARKⅠというオリジナルのローズピアノの音色も心地良い。
▼《ダッタン人の踊り》も誰もが知るクラシックの名曲。導入部は多重録音を駆使して、3人でほぼスコア通りの響きを再現しているが、有名なメロディに入るといきなり半音下がるのにまず驚く。柔らかなホルンのメロディがフルートに受け継がれ、リズミカルさを加えて各々のアドリブソロへと発展して行く。ラスト近くで再びハッとするような転調も。
▼《永久の愛》はホルンとピアノのデュエット。もともとピアノソロのために書かれた曲だが、とてもホルン的な優しくリリカルなメロディであり、KEITAの奏でるメロウなサウンドがまたそれによくマッチしている。《鳥の歌》はカザルスのチェロで有名なカタルーニャ民謡だが、赤木による6/8拍子のアレンジにより、躍動的で情熱的な雰囲気に姿を変えている。《SPRING FEEL》は赤鬼の人気曲で、軽やかな曲調はタイトル通りの春の楽しい気分を表わしている。一度聴くと、しばらく耳から離れないのは私だけだろうか。どこか寂しげな雰囲気の《LIGHTHOUSE》ではホルンとフルートの美しいユニゾンも聴きどころだ。
▼《HEARTFUL MEMORY》はホルンとピアノによる甘やかな小品。譜面が発売されるならぜひ吹いてみたいと思える曲だ。《里山》は八ヶ岳を訪問したときのイメージで書かれたという。朴訥としたメロディに篠笛風のフルートが絡み、風景が目に浮かぶようだ。《スペイン》はビッグバンドや吹奏楽で演奏される機会も多いが、実は細かなパッセージの連続がかなりテクニカル。一転してラテン的な情熱を秘めた流れるようなメロディになるが、その対比にも注目。
▼《BLUE OCEAN》はこれまでも様々な形で演奏してきたというKEITAのオリジナル。ゆったりと漂うようなメロディが心地い。この「メロディの心地良さ」がアルバムを通して貫かれているので、楽器のことをあまり意識することなくリラックスしてイージーリスニング的に聴くこともできる。逆にレコーディングの場で行なわれた3人の掛け合いやちょっとした曲中の仕掛けなどにも注目しつつ、細かく聴いても楽しめるアルバムになっている。
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