アレキサンダーファン
2015年12月掲載
ホルンなんでも盤版Bang! ~ライブラリー~ 「ホルンなんでも盤版Bang!」
ホルン関係のCD・楽譜情報を発信していきます!!


このコーナーでは、ホルンに関するディスクをご紹介いたします。
みんな知っている超定盤、「こんなのあったのか」という珍盤など、ホルンが活躍するものなら何でも。その中から今回はこの2枚です。
ここでご紹介する盤は基本的には筆者のライブラリーですので、当サイトへの、入手方法などに関するお問い合わせはご遠慮くださるよう、お願い申し上げます。


盤版Bang!ライブラリー039

KEITA meets AKAONI
KEITA(ホルン)、赤木りえ(フルート)、鬼武みゆき(ピアノ)
KEITA meets AKAONI
1. ベレーザ(東谷慶太編):AZUR PROFECIA
2. カッチーニ(東谷慶太編):アヴェ・マリア
3. 東谷慶太:PLEASURE NOTES
4. ボロディン(東谷慶太編):ダッタン人の踊り
5. 鬼武みゆき:永久の愛
6.

赤木りえ編:鳥の歌

7.

鬼武みゆき:SPRING FEEL

8. 鬼武みゆき:LIGHTHOUSE
9. 東谷慶太:HEARTFUL MEMORY
10. 鬼武みゆき:里山
11. チック・コリア(東谷慶太編):SPAIN
12. 東谷慶太:BLUE OCEAN

▼KEITAとは大阪を拠点に、ジャズとクラシックに軸足を置きつつもジャンルにこだわらないユニークな演奏活動を続けるホルニスト、東谷慶太。愛用の楽器はゴールドブラスに金メッキ仕上げのアレキサンダー403Sだ。「赤鬼」はジャズ、ラテン、特にカリビアンミュージックを得意とするフルーティスト赤木りえと、作・編曲家としても活躍するピアニスト鬼武みゆきのユニット。ある縁でこの3人が出会い、KEITAが長年にわたる関係を築いてきたUSENのスタジオを特別に使用してレコーディングされたのがこのアルバムだ(USENのスタジオは通常自社用のコンテンツのみ録音)。
▼私もレコーディングに立ち会ったのだが、ジャズ・ポップスの世界にいる人なら当然に思えるかもしれないけれど、私を含めてほぼクラシックを中心に演奏しているホルン吹きから見ると、それは新鮮な録音風景だった。譜面はほとんどメロディと対旋律くらいしか書いていないから、レコーディングの場でセッションをするようなものだ。だからアドリブソロはもちろん、アレンジやコードなどもその場でどんどん変化していく。こうしてCDに残された音は「ひとつの」完成形であって、多分同じ曲を同じメンバーで演奏しても、二度と同じにはならないはずだ。
▼《AZUR PROFECIA(アズール・プロフェシア)》のオリジナルはアルゼンチンのベレーザ(現ガブリエラ・アンダース)の歌で、これまでもさまざまな形で演奏してきたKEITAのお気に入り。ピアノのリズムに乗ってホルンとフルートが自由に歌う。《カッチーニのアヴェ・マリア》はオリジナル曲を生かしつつオリジナリティを加えたアレンジで抒情感豊かに演奏。
▼KEITAの書き下ろし曲《PLEASURE NOTES》は「ピアノを弾きながら自分の好きなコードと気持ち良い動きを探してパーツを作り、そこから湧いてきた2つのメロディを同時進行させることで曲を構成」とのこと。軽やかで暖かな曲。FENDER RHODES MARKⅠというオリジナルのローズピアノの音色も心地良い。
▼《ダッタン人の踊り》も誰もが知るクラシックの名曲。導入部は多重録音を駆使して、3人でほぼスコア通りの響きを再現しているが、有名なメロディに入るといきなり半音下がるのにまず驚く。柔らかなホルンのメロディがフルートに受け継がれ、リズミカルさを加えて各々のアドリブソロへと発展して行く。ラスト近くで再びハッとするような転調も。
▼《永久の愛》はホルンとピアノのデュエット。もともとピアノソロのために書かれた曲だが、とてもホルン的な優しくリリカルなメロディであり、KEITAの奏でるメロウなサウンドがまたそれによくマッチしている。《鳥の歌》はカザルスのチェロで有名なカタルーニャ民謡だが、赤木による6/8拍子のアレンジにより、躍動的で情熱的な雰囲気に姿を変えている。《SPRING FEEL》は赤鬼の人気曲で、軽やかな曲調はタイトル通りの春の楽しい気分を表わしている。一度聴くと、しばらく耳から離れないのは私だけだろうか。どこか寂しげな雰囲気の《LIGHTHOUSE》ではホルンとフルートの美しいユニゾンも聴きどころだ。
▼《HEARTFUL MEMORY》はホルンとピアノによる甘やかな小品。譜面が発売されるならぜひ吹いてみたいと思える曲だ。《里山》は八ヶ岳を訪問したときのイメージで書かれたという。朴訥としたメロディに篠笛風のフルートが絡み、風景が目に浮かぶようだ。《スペイン》はビッグバンドや吹奏楽で演奏される機会も多いが、実は細かなパッセージの連続がかなりテクニカル。一転してラテン的な情熱を秘めた流れるようなメロディになるが、その対比にも注目。
▼《BLUE OCEAN》はこれまでも様々な形で演奏してきたというKEITAのオリジナル。ゆったりと漂うようなメロディが心地い。この「メロディの心地良さ」がアルバムを通して貫かれているので、楽器のことをあまり意識することなくリラックスしてイージーリスニング的に聴くこともできる。逆にレコーディングの場で行なわれた3人の掛け合いやちょっとした曲中の仕掛けなどにも注目しつつ、細かく聴いても楽しめるアルバムになっている。



盤版Bang!ライブラリー040

reveries
Felix Klieser(ホルン)、Christof Keymer(ピアノ)
reveries
1~3.

ラインベルガー:ホルンとピアノのためのソナタ

4~7.

グリエール:ホルンとピアノのための4つの小品

8.

グラズノフ:REVERIE(夢想)

9~10.

シューマン:アダージョとアレグロ

11.

サン=サーンス:ロマンス ヘ長調 作品36

12.

サン=サーンス:ロマンス ホ長調 作品67

13.

R.シュトラウス:アンダンテ

BERLIN Cassics 0300530BC

▼1991年生まれの若きドイツ人ホルン奏者フェリックス・クリーザー。“Felix Klieser”でYouTubeを検索すると、彼の演奏を見ることができる。最初知り合いに教えてもらって視聴して、心底驚いた。生まれつき両手がない彼は、ある動画では楽器を固定する台を組み立て、楽器をケースから取り出し、スタンドにセットするところから、足だけで器用に行なう。使っている楽器はアレキサンダー103だが、4番バルブが小指(もちろん足の!)で操作するよう改造されている。クリーザーはまるでヨガのような姿勢を取り、左足でバルブを操作しながら吹く。ここまでは器用な人なら真似できそうだが、いざ演奏が始まってみると、世界的に見ても一流のホルン奏者であったのだ。やはり両腕がない(指は3本ずつある)マティアス・ベルクも飛び抜けた名手であるが、本当の才能(ともちろん努力!)は身体的なハンディキャップを覆してしまうということがよくわかる。
▼クリーザーのCDは何枚か出ているが、今回は2013年にリリースされたデビューアルバムをご紹介しよう。ピアノ伴奏ホルンソロの主要なレパートリーからロマン派の作品をセレクトしているが、ラインベルガーのソナタやシューマンの《アダージョとアレグロ》などが中心に据えられており、聴き応え十分だ。
▼ラインベルガーを聴くと伸びやかで曇りのない音色と素直な表現が聴き手に爽やかな印象を与える。YouTubeの映像によればベルにはダミーも入れていないが、それ故の開放的な音色は魅力的で、音程の問題も感じない(各抜き差し管は多めに抜かれているのがわかる)。自ら楽器を唇に押し付けること(プレス)ができないのも、良い方向に働いているのではないだろうか。一つ一つの音に重みをもたせ、音の粒立ちを明瞭に弾いているピアノとも相俟って、とても躍動感があり生命力にあふれる印象を受けた。
▼グリエールの《ホルンとピアノのための4つの小品》、アルバムタイトルにもなっているグラズノフの《REVERIE(夢想)》は感傷におぼれることなく、常に前向きであろうとする力強さを感じる。しっかりとした構えで「はっきりと物を言う」ように聴き手に迫る。その中身として“抒情”が色濃く見えるという具合だ。《夢想》の最後にはゲシュトップが出て来るが、クリーザーが考案したある装置を使っているのだとか。
▼シューマン《アダージョとアレグロ》は着実な足取りで1歩1歩踏みしめるようなアダージョ部分に、決然と突き進むアレグロが続く。サン=サーンスの2つの《ロマンス》、R.シュトラウスの《アンダンテ》でもストレートで張りのある音色、なめらかなレガート、そしてポジティブでありながらしなやかで潤いを帯びた音楽表現が印象的だった。
▼聴き終えるころにはすっかり忘れていたが、楽器を左足で操作しているということを思い出し、改めて感嘆した。


アレキサンダーファン編集部:今泉晃一



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