アレキサンダーファン
2015年09月掲載
ホルンなんでも盤版Bang! ~ライブラリー~ 「ホルンなんでも盤版Bang!」
ホルン関係のCD・楽譜情報を発信していきます!!


このコーナーでは、ホルンに関するディスクをご紹介いたします。
みんな知っている超定盤、「こんなのあったのか」という珍盤など、ホルンが活躍するものなら何でも。その中から今回はこの2枚です。
ここでご紹介する盤は基本的には筆者のライブラリーですので、当サイトへの、入手方法などに関するお問い合わせはご遠慮くださるよう、お願い申し上げます。


盤版Bang!ライブラリー035

HORN DISCOVERIES
サラ・ウィリス、クラウス・ヴァレンドルフ(ホルン)、フィリップ・マイヤース(ピアノ)、
町田琴和(ヴァイオリン)
HORN DISCOVERIES
1. RICHARD BISSILL:Song of a New World
2~7. DAVID RINIKER: Velvet Valves (Six Romantic Trio Arrangements)
8~12. KLAUS WALLENDORF:Willisabethan Sarahnade
13~15.

MASON BATES: Mainframe Tropics

※このCDは、全国のヤマハ楽器特約店にて購入できます。

▼発売はすでに約1年前となってしまったが、ベルリン・フィルの女性下吹きホルン奏者サラ・ウィリスのアルバム“HORN DISCOVERIES”はタイトル通りホルンの新しいレパートリーを収録したもので、編成もピアノ伴奏によるホルンソロ、ヴァイオリンを加えたトリオ、ホルンデュオとバラエティに富んでいる。
▼サラの使用する楽器はアレキサンダー103。103であの太い低音を出しているのだ! ところでジャケットはシンガポールにある世界一高いプール、マリーナベイ・サンズで撮影されたと思われるが、ライナー内にある写真を見ると、どうやらサラ本人が水に潜っているようだ。他にも世界中の様々な場所で愛用の103を掲げた写真が掲載されており、ファンは必見!
▼リチャード・ビッシルはサラのギルドホール音楽演劇学校(ロンドン)時代の作曲・編曲の先生であり、サラが「低音ホルン奏者のためのチャレンジングな曲を書いてほしい」と依頼してできたのが1曲目の《ソング・オブ・ア・ニュー・ワールド》。「もっと技巧的な低域、そしてもっとハイトーンを」というサラの要求により、広い音域と相当の難易度を持つ作品になった。
 ブルース調で抒情的なメロディで始まるが、高域から速いパッセージで容赦なくペダルCやB♭まで降りるのはさすが“下吹き用”。ffで奏される低域は聴いていて本当に気持ち良い。しかしただ鳴らすだけでなく、どんな音域でも絶えず歌心があるのだ。《ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら》の有名なホルンソロが一節引用され、ペダルCの咆哮で終わる。聴いていても爽快だが、下吹きならぜひ挑戦してみたい曲でもある。
▼2曲目は、ベルリン・フィルのチェリストであるダヴィッド・リニカーのアレンジによる《ヴェルヴェト・ヴァルヴス》。ホルン、ヴァイオリン、ピアノのトリオ用に編曲されたもので、ヴァイオリンはベルリン・フィルに在籍する日本人女性、町田琴和氏。前作『Trio!』でも共演するなど、息もぴったりだ。曲はチャイコフスキーの《ノクターン》、ドヴォザークの《ユーモレスク》、ドビュッシーの《月の光》など有名なメロディが6曲選ばれており、原曲はどれもヴァイオリンやチェロのソロ曲だが、ホルンとヴァイオリンの音色、ハーモニーによる新鮮な魅力が感じられる。
▼《Willisabethan Sarahnade》は、同じベルリン・フィル・ホルンセクションの一員であるクラウス・ヴァレンドルフ作曲によるホルンデュオ。曲名は「Elizabethan Serenade(エリザベスのセレナーデ)」にサラ・ウィリスの名前を読み込んだものだろう。ヴァレンドルフはもちろんホルンも演奏している。5曲から成る小品だが、各曲は世界各地の地名(決して有名ではない)をもじったもので、それぞれの地でインスピレーションを受けて作曲されたという。どこかユーモラスな曲調を茶目っ気たっぷりに吹いているかと思えば、郷愁感あふれる曲をたっぷりと聴かせたり、2人がまるで1本のように代わるがわる吹くテクニカルな部分があったりと、息の合ったデュオを様々に楽しめる。と同時に、それぞれのサウンドの魅力も明瞭に伝わって来る(サラが下のパートを吹いていると思われる)。
▼メイソン・ベイツはアメリカの作曲家であり、《メインフレーム・トロピックス》はホルン、ヴァイオリン、ピアノのためのトリオであるが、ピアノは弦の上に物を載せて打楽器的にも使われている。サラによる委嘱作品ではないが、このCDが初のレコーディングとなる。「メインフレーム」はコンピューターの中央演算装置、「トロピック」は熱帯地方を指し、続けて演奏される3つの楽章ではデジタル的なもの、深海の幽玄さなどが表現されていて、各楽器が様々なガジェットのようにも感じられる。曲、演奏ともに非常に情報量が多く、何度も繰り返し聴きたくなる曲だ。ファン的には、サラの超ハイトーンがレア。
▼最後には恒例の(?)NG集が収録されていて、収録時の楽しそうな雰囲気がうかがい取れる。お聴き逃しなく。



盤版Bang!ライブラリー036

風の伝説~池田重一・ホルンで語るメールヒェン
池田重一&カモネット(辻井淳、小林真奈美、土井茉莉、大西泰徳)
風の伝説~池田重一・ホルンで語るメールヒェン
1~3.

カモネッティ:ホルン五重奏曲 第1番 変ホ長調

4. グラズノフ:牧歌
5~7. ボーエン:ホルン五重奏曲 ハ短調
8. サン=サーンス(カモネッティ編):ロマンス ヘ長調
OTAKEN RECORDS TKC-201

▼元大阪フィルハーモニー交響楽団の首席ホルン奏者であり、現在は宮川彬良とアンサンブル・ベガのメンバー、日本ホルン協会理事にして大阪音楽大学や神戸女学院などで教鞭をとる池田重一氏が、2010年に活動を開始した日本の弦楽四重奏団カモネットとともに演奏したホルン五重奏曲集。「カモネット」という名称は作曲家のカモネッティの名前と「カルテット」を組み合わせたものであり、本作にも世界初録音とされるカモネッティのホルン五重奏曲第1番が収録されている。なお池田氏もアレキサンダー103を愛用している。
▼カモネッティの正体は1959生まれということ以外明かされていないが、ある弦楽器奏者のペンネームだそうだ(おそらくメンバーの1人?)。
 全3楽章から成るホルン五重奏曲第1番はまさにお伽噺(メールヒェン)の世界にいるような、それでいてどこか日本の情景を思わせるような楽想で始まる。軽くヴィブラートをかけたロマンティックな池田氏のホルンと弦楽器の音の美しさを追求したようなカモネットのサウンド、そして抒情感豊かに5人が溶け合うこの曲は本当に相性抜群で、「演奏者を念頭に置いて作曲されたのかな?」とも感じる。「ホルンソロ+弦楽四重奏」ではなく、各奏者が互いに主張しながら絡み合ってゆく様にぐっと引きこまれるのだ。終楽章には伝統的な狩りを思わせるフレーズも現れるが、荒々しさ皆無でどこまでも優しく幻想的。聴き終ったときに温かいものが自分の中に残り、「美しい音楽を聴いたなあ」と素直に思える。
▼グラズノフの《牧歌》はハッとするようなリリシズムにあふれており、長いフレーズのホルンの旋律と弦楽器のアルペジオ的な動きの重なりが美しい。ここでも、広い草原でどこまでも遠くに届くかのように響くホルンと、1人ずつが自在に、そして存分に表現するカモネットのアンサンブルが素晴らしい。
▼ヨーク・ボーエン(ボウエンと表記される場合も)は今や知名度は低いが20世紀前半に多くの作品を残したイギリスの作曲家で、このホルン五重奏曲ハ短調は1927年の作品だそうだ。ちなみにホルン・ソナタを始めホルンのソロ曲も数曲ある。繊細さの中に厳しさを感じる第1楽章、瞑想的であると同時に自然に身を任せているような第2楽章、そしてロマン的な中に現代的で機械的な寒々しさも内包する終楽章と曲想も多様ならば、ここまでひたすら美しい音楽を奏でてきた5人が、また違った(幾種類もの)厳しめの表情を見せてくれるのも印象的だ。
▼最後にサン=サーンスの(有名な方の)《ロマンス》が最良のアンコールピースのように、ボーエンで少し引き締まった聴き手の気持ちを再び和らげてくれる。語彙が少なくて申し訳ないが、これまたひたすら優しく、美しい。


アレキサンダーファン編集部:今泉晃一



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