アレキサンダーファン
2013年11月掲載
ホルンなんでも盤版Bang! ~ライブラリー~ 「ホルンなんでも盤版Bang!」
ホルン関係のCD・楽譜情報を発信していきます!!


このコーナーでは、ホルンに関するディスクをご紹介いたします。
みんな知っている超定盤、「こんなのあったのか」という珍盤など、ホルンが活躍するものなら何でも。その中から今回はこの2枚です。
ここでご紹介する盤は基本的には筆者のライブラリーですので、当サイトへの、入手方法などに関するお問い合わせはご遠慮くださるよう、お願い申し上げます。


盤版Bang!ライブラリー033

パステル
ホルン・アンサンブル ヴィーナス、丸山勉(ホルン、フリューゲルホルン)、今井文春(パーカッション)
パステル
1. 小林健太郎/輝ける明けの明星
2~3. 井澗昌樹/チャイコフスキー・ファンタジー
4~8. ドビュッシー(木村裕編)/小組曲
9. トイバー/スカボロー・フェア
10~13. ウーバー/組曲
14. マンシーニ=マーサー(木村裕編)/ムーン・リバー
15. ヴァン・マッコイ(Cake藤原編)/アフリカン・シンフォニー
16. エンニオ・モリコーネ(Cake藤原、Tom円矢松編)/ガブリエルのオーボエ
日本アコースティックレコーズ NARD5043

▼5月にこのファーストアルバムを発売し、杉並公会堂の大ホールをいっぱいにした女性ホルン奏者5人によるアンサンブルが"ヴィーナス"だ。メンバーは北山順子(フリー)、豊田実加(神奈川フィル)、藤田麻理絵(新日本フィル)、村中美菜(日本フィル)、渡部奈津子(広島交響楽団)と実力派揃い。それでいて華もある! 遡れば2006年、故伊藤泰世氏の発案により発足し、若干のメンバー変更を経て現在に至っている(「プレーヤーズ」Vol.37の北山順子さんインタビューもぜひご一読ください)。楽器は、5人中3人がアレキサンダー103を使用している。
▼アルバムに収録された第1曲目は、ヴィーナスの持つ「パステル調の華やかさ」をイメージして作られた委嘱作、《輝ける明けの明星》。作曲はホルンのオリジナル曲やアレンジで定評のある小林健太郎氏。小気味良いリズムに乗って歌われる伸びやかなメロディが清々しい。わずかに愁いも湛えた優しい中間部を挟んで、再び最初のメロディに戻る。3分弱の曲だが、常にどこか柔らかさを残して、決してイケイケにならない、でも元気いっぱいで明るいというヴィーナスの特徴を表しているような気がするし、演奏もまさにその曲のイメージと一致する。この曲はいまやヴィーナスのテーマ曲になっている。
▼井澗昌樹編曲の《チャイコフスキー・ファンタジー》は、3楽章構成で各楽章のテーマに沿って様々なチャイコフスキーのメロディがコラージュされている。特に〈独白〉で交響曲第5番第2楽章の有名なホルンソロで始まったかと思うと、いつのまにか《悲愴》の終楽章が顔を出し、また5番に戻って……という構成が面白い。ヴィーナスのメンバーはほとんどがオーケストラプレーヤーだけに原曲の雰囲気をよく出しつつ、歌い込んでいるのが印象的。〈バレエの誘い〉では《くるみ割り人形》の序曲の細かなパッセージに聴き入っていると《白鳥の湖〉に変わり、有名なバレエ曲でつないでいき、トレパークでせかされるように幕を閉じる。
▼ドビュッシーの《小組曲》は幽玄な雰囲気のゆったりとしたメロディ、軽やかな行進曲、かわいらしいフレーズなど次々に現れる様々なキャラクターを上手に“演じ”分けている。もしかするとこれは彼女たちの素かもしれない。ドビュッシー特有の「すべてを語り切らない」感じも良く出ていた。ハーモニーの厚みはクインテットという編成もあるが、下を吹く渡部さんの安定感も大きい。
▼クラシックの編曲ものが2曲続いたあと、サイモン&ガーファンクルの《スカボロー・フェア》。このバラエティの豊かさが楽しい。しかもその次はホルン五重奏のオリジナル曲、ウーバーの《組曲》。真面目に丁寧に音楽を作っていることが伝わって来る。でも重々しくせず、軽やかな雰囲気で通しているので、聴いた後に爽やかさが残る。
▼あとはアンコール盛りだくさん、という感じか。丸山さんがホルンで加わった《ムーン・リバー》はソロの「丸山節」が前面に出ていて楽しいが、彼の教えを仰いだことのあるメンバーがほとんどを占めるヴィーナスも息ぴったりに付いて行っている。《アフリカン・シンフォニー》は吹奏楽の往年の名曲で、パーカッションも入って文句なしに楽しい。ヴィーナスの持ち味である端正と言ってもいい演奏だが、これに関してはもっとはっちゃけてもよかったか? 最後は円矢松トム、もとい、丸山勉さんがフリューゲルで参加して《ガブリエルのオーボエ》。柔らかなソプラノがヴィーナスのホルンときれいに溶け合う。



盤版Bang!ライブラリー034

in prague
プジェミスル・ヴォイタ(ホルン)、沢野智子(ピアノ)
in prague
1~3. Jaroslav Kofroň/Sonatina per corno e piano
4~5. Zdeněk Šesták/Concertino No.2 for French Horn and Piano
6~8. Koement Slavický/Capricci per Corno e pianoforte
9~11. Klement Slavický/Musica per corno solo
12~14. Emil Hlobil/Sonata for French Horn and Piano
SUPRAPHONE SU4125-2

▼Přemysl Vojta(プジェミスル・ヴォイタ)は1983年にチェコ・ブルノで生まれて、プラハ音楽院でベドルジフ・ティルシャルに師事。その後ベルリン芸術大学で学び、めったに1位が出ないほど非常な難関として知られるミュンヘン国際音楽コンクールで2010年、見事1位を獲得した。ちなみに、日本人には覚えづらい彼のファーストネーム、「ジェ」の部分はドヴォルジャークの「ルジャ」の部分と同じ「ř」という子音があり、巻き舌をしながら「ジェ」と言うような発音。難しい。下に記す作曲家名の読みもあまり自信がないのでどうかご了承ください。
▼このCDでピアノを弾き、来日の際もコンビを組んでいる沢野氏は、ヴォイタ氏の学んだベルリン芸術大学時代の先生(コンペティトール)でもあるので、演奏もまさに阿吽の呼吸だ。
▼『イン・プラハ』というアルバムタイトルが表すように、取り上げている曲は全て、主にプラハで活躍した、またはしているチェコの20世紀の作曲の作品である。ちなみに、ヴォイタが使用する楽器はアレキサンダーの103である。
▼Jaroslav Kofroň(ヤロスラフ・コフロニュ)は自身がホルン奏者というだけあって、ロマンティックでいかにもホルンらしいメロディが魅力。ヴォイタはチェコで育ち現在はドイツを中心に活動しているということもあり、ホルンのスタイルは往年の(ティルシャルのような)ヴィブラートを多用したサウンドではない。しかし、しなやかな音質とどこか哀愁を帯びたような歌い方(これはもちろん曲のキャラクターに合わせたということもあるが)がチェコを感じさせる。何より、「ホルン王国チェコ」(と筆者が勝手に思っている)に恥じない腕前で、素直に「上手いなあ」と感じさせてくれる。
▼Zdeněk Šesták(ズデニェク・シェスターク)は1925年に生まれ、まだ存命の作曲家だ。曲名は《コンチェルティーノ》第2番だが、技巧的ではなく、現代調の和声も使いつつ息の長いフレーズで歌わせる。ヴォイタにかかるとそれが緩やかな起伏を持って、一層聴き手の心に届く歌になっている。第2楽章は一転して軽快でおどけたメロディで始まり、中間部ではしっとりとしたフレーズを聴かせる。ヴォイタの陰の陽の切り替えも見事。豊かで太い低音やffで吹き切った音色など、様々な面を見ることができる。
▼Klement Slavický(クレメント・スラヴィツキー)は作曲家であると同時に指揮者、ピアニスト、ヴィオラ奏者であり、ラジオ局の録音監督なども務めた経歴を持つ。《ホルンとピアノのためのカプリチオ》は曲名通りの自由な曲想を持ち、ヴォイタは感情の強い波が押し寄せる様や、沈んだ気分から高揚しまた沈んでいく気持ちの大きな起伏、激しく速い動きと思いを吐露するかのようなフレーズの対比などを、完璧なテクニックと幅広いダイナミクスをもって表現している。同じスラヴィッツキーの《ホルンソロのための音楽》は無伴奏で演奏されるが、その分より多様で振れ幅の大きなホルンが聴ける。何より、こういった現代曲をヴォイタが音符を音にしているというよりも、曲を「自分のもの」として演奏していることがよくわかる。
▼Emil Hlobil(エミル・ホルビル)はシェスタークの先生でもある人で、この《フレンチホルンとピアノのためのソナタ》はヒンデミットの影響を強く受けているという。全曲を通してとても魅力的なメロディにあふれており、ヴォイタのホルンのなめらかなレガートやしなやかなサウンド、ときには高らかに吹き鳴らすff、そしてそれらを通して、ぐっと聴き手に訴えかけてくる彼の歌心を堪能できる。
コンサート案内にもあるように、11月12日に大阪、13日に名古屋、そして15日に東京でリサイタルがあり、このCDにも収録されているコフロニ、スラヴィツキーも演奏されるので、興味を持った方は聴きに行ってみてはいかがだろうか。


アレキサンダーファン編集部:今泉晃一



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