▼Přemysl Vojta(プジェミスル・ヴォイタ)は1983年にチェコ・ブルノで生まれて、プラハ音楽院でベドルジフ・ティルシャルに師事。その後ベルリン芸術大学で学び、めったに1位が出ないほど非常な難関として知られるミュンヘン国際音楽コンクールで2010年、見事1位を獲得した。ちなみに、日本人には覚えづらい彼のファーストネーム、「ジェ」の部分はドヴォルジャークの「ルジャ」の部分と同じ「ř」という子音があり、巻き舌をしながら「ジェ」と言うような発音。難しい。下に記す作曲家名の読みもあまり自信がないのでどうかご了承ください。
▼このCDでピアノを弾き、来日の際もコンビを組んでいる沢野氏は、ヴォイタ氏の学んだベルリン芸術大学時代の先生(コンペティトール)でもあるので、演奏もまさに阿吽の呼吸だ。
▼『イン・プラハ』というアルバムタイトルが表すように、取り上げている曲は全て、主にプラハで活躍した、またはしているチェコの20世紀の作曲の作品である。ちなみに、ヴォイタが使用する楽器はアレキサンダーの103である。
▼Jaroslav Kofroň(ヤロスラフ・コフロニュ)は自身がホルン奏者というだけあって、ロマンティックでいかにもホルンらしいメロディが魅力。ヴォイタはチェコで育ち現在はドイツを中心に活動しているということもあり、ホルンのスタイルは往年の(ティルシャルのような)ヴィブラートを多用したサウンドではない。しかし、しなやかな音質とどこか哀愁を帯びたような歌い方(これはもちろん曲のキャラクターに合わせたということもあるが)がチェコを感じさせる。何より、「ホルン王国チェコ」(と筆者が勝手に思っている)に恥じない腕前で、素直に「上手いなあ」と感じさせてくれる。
▼Zdeněk Šesták(ズデニェク・シェスターク)は1925年に生まれ、まだ存命の作曲家だ。曲名は《コンチェルティーノ》第2番だが、技巧的ではなく、現代調の和声も使いつつ息の長いフレーズで歌わせる。ヴォイタにかかるとそれが緩やかな起伏を持って、一層聴き手の心に届く歌になっている。第2楽章は一転して軽快でおどけたメロディで始まり、中間部ではしっとりとしたフレーズを聴かせる。ヴォイタの陰の陽の切り替えも見事。豊かで太い低音やffで吹き切った音色など、様々な面を見ることができる。
▼Klement Slavický(クレメント・スラヴィツキー)は作曲家であると同時に指揮者、ピアニスト、ヴィオラ奏者であり、ラジオ局の録音監督なども務めた経歴を持つ。《ホルンとピアノのためのカプリチオ》は曲名通りの自由な曲想を持ち、ヴォイタは感情の強い波が押し寄せる様や、沈んだ気分から高揚しまた沈んでいく気持ちの大きな起伏、激しく速い動きと思いを吐露するかのようなフレーズの対比などを、完璧なテクニックと幅広いダイナミクスをもって表現している。同じスラヴィッツキーの《ホルンソロのための音楽》は無伴奏で演奏されるが、その分より多様で振れ幅の大きなホルンが聴ける。何より、こういった現代曲をヴォイタが音符を音にしているというよりも、曲を「自分のもの」として演奏していることがよくわかる。
▼Emil Hlobil(エミル・ホルビル)はシェスタークの先生でもある人で、この《フレンチホルンとピアノのためのソナタ》はヒンデミットの影響を強く受けているという。全曲を通してとても魅力的なメロディにあふれており、ヴォイタのホルンのなめらかなレガートやしなやかなサウンド、ときには高らかに吹き鳴らすff、そしてそれらを通して、ぐっと聴き手に訴えかけてくる彼の歌心を堪能できる。
▼コンサート案内にもあるように、11月12日に大阪、13日に名古屋、そして15日に東京でリサイタルがあり、このCDにも収録されているコフロニ、スラヴィツキーも演奏されるので、興味を持った方は聴きに行ってみてはいかがだろうか。
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