アレキサンダーファン
2013年07月掲載
ホルンなんでも盤版Bang! 〜ライブラリー〜 「ホルンなんでも盤版Bang!」
ホルン関係のCD・楽譜情報を発信していきます!!


このコーナーでは、ホルンに関するディスクをご紹介いたします。
みんな知っている超定盤、「こんなのあったのか」という珍盤など、ホルンが活躍するものなら何でも。その中から今回はこの2枚です。
ここでご紹介する盤は基本的には筆者のライブラリーですので、当サイトへの、入手方法などに関するお問い合わせはご遠慮くださるよう、お願い申し上げます。


盤版Bang!ライブラリー031

ラプソディ・イン・ホルン弐
福川伸陽(ホルン)、三浦友理枝(ピアノ)、[友情出演]日高剛、勝俣泰、石山直城(ホルン)
ラプソディ・イン・ホルン弐 DISC1
1. 冨田勲(轟千尋編)/新日本紀行 オープニング・テーマ〜日本の素顔
2. 外山雄三/ホルンとピアノのためのラプソディ〜《管弦楽のためのラプソディ》による
3. 思い出の四季(轟千尋編)
花/カラタチの花/さとうきび畑/夏の思い出/小さい秋見つけた/月の砂漠/雪の降るまちを/早春賦
4. さくらさくら(山本昭一編)
5. 成田為三(外山雄三編)/浜辺の歌
6. 杉山長谷夫(外山雄三編)/出船
7. 多忠亮(外山雄三編)/宵待草
8. 橋本國彦(外山雄三編)/母の歌
9. 近衛秀麿(外山雄三編)/ちんちん千鳥
10. 草川信(外山雄三編)/夕焼け小焼け
11. 山田耕筰(外山雄三編)/赤とんぼ
12. ずいずいずっころばし(柏原賢編)
13. 瀧廉太郎/荒城の月
14. ふるさとの四季(源田俊一郎編)
故郷/春の小川/朧月夜/鯉のぼり/茶摘み/夏は来ぬ/われは海の子/村祭/紅葉/冬景色/雪/故郷
15. 宮城道雄(轟千尋編)/春の海
DISC2
1. 池辺晋一郎/ホルンは怒り、しかし歌う
2. 藤倉大/ぽよぽよ
3. 細川俊夫/小さな花―ミヒャエル・ヘフリガーの50歳の誕生日に―
4〜8. 吉松隆/スパイラルバード組曲
キングレコード KICC-1065/6

▼NHK交響楽団ホルン奏者福川伸陽さんによる2枚目のソロアルバムで、テーマは「日本」。しかも2枚組という、(ベスト盤を除く)ホルンソロのアルバムとしては例を見ない大ボリュームだ。「ホルンでめぐる、にっぽん音楽温故知新」がサブタイトルとなっており、「温故〜ホルンで綴る日本の古き良き名曲集〜」と題されたディスク1と、「知新〜ホルンのために生まれた、日本人作曲家の新しい声」と題されたディスク2では根底に一貫したものを持ちつつ、印象としてはかなり異なるのが面白い。2枚合わせると、福川氏の伸びやかで柔らかな音色と豊かな歌心、そして聴いていて恐ろしくなるくらいの領域にまで踏み込む表現力の幅の広さと類稀なテクニックを堪能できるアルバムになっている。
▼もうひとつの大きな話題は使用楽器。パックスマンの20Mやシュミットのトリプルも曲によっては使っているが、メインはアレキサンダー1103MBLHG、それも木製のベルを取り付けたものだ。「木のベルが作れないだろうか」と思い、作れる人を探していたら自身も金管楽器を吹くという宮大工(神社仏閣の建築や補修に携わる)に行き当たり、桜の木による朱塗りのベルが完成した。金属のベルに比べると厚みも重量もあり、またフレアの形状もオリジナルとは違っているため(接続部分にも段差がある)、吹奏感や音程感なども変化しているそうだが、何よりもその太く柔らかな音色は、もともと福川氏自身の持っているサウンドと相俟って得も言われぬものになっている。
▼ディスク1は「日本の歌」。しかし意外なことに、新しくアレンジされたものは少ない。そのひとつが1曲目《新日本紀行》のオープニングテーマだ。「日本」を想起させる曲として思い浮かんだのがという。重ね録りによる1人二重奏も取り入れられている。
▼外山雄三《管弦楽のためのラプソディ》はN響の海外公演でも定番曲となっているそうで、「ぜひ収録したかった」のだとか。編曲はなんと作曲者自らが手がけている。編曲の許可を打診したら「それなら俺がやる!」と言ったとか言わないとか。切れのいい打楽器で始まるが、実はこれらを叩いているのは福川さんとピアノの三浦さんというから驚く。上手い! そして聴いてみると、原曲にあるスケールの大きさ、熱狂はそのまま見事なホルンソロに仕上がっているのだ。
▼《思い出の四季》は日本人の耳になじんでいる歌曲のメドレー。凝ったアレンジではないがそれだけに、福川氏と木製ベルによる柔らかな音色と、彼の持つ“歌心”を堪能できる。
▼作曲家外山雄三氏の編曲による日本の歌曲群は、実はもともと故・千葉馨氏のために書かれたもの。コンサートでは何度となく演奏されていたが、録音として残っているのはごく一部。N響の大先輩の家におじゃましたときに遺された譜面を見て、録音として残すことを決めたのだとか。どれもアレンジに一ひねり、二ひねりあり、古くから歌い継がれてきた日本歌曲と新しい西洋音楽の融合が新鮮な印象を受ける。特にリリカルかつアヴァンギャルドなピアノのアルペジオが印象的な《出船》、ジャズ風アレンジでブルーノートに乗って耳慣れた旋律が出てくる意外性の《宵待ち草》、やはりテンションコードを多用した《夕焼け小焼け》など非常に面白い。だが、福川氏のホルン歌がアレンジに全く負けていないので、奇異な感じは全くなく、ごく自然に耳に入って来るのはさすがだ。
▼ホルンアンサンブルをする人ならば一度は耳にしたことがあるだろう《ずいずいずっころばし》。ベルリン・フィルのホルン四重奏《フォーコーナーズ》に初めて収録されたが、こちらも希少価値の高いNHK交響楽団のホルンセクションによるカルテットだ(日高氏はこの後退団し、東京藝大の准教授に)。「僕たちの方がベルリン・フィルよりノリの良い演奏をしていますよ」と福川氏は言い切ったが、聴けばナットク。
▼《荒城の月》は無伴奏ソロ。聴くと「あれ?」と思う箇所があるが、これはもともとの滝廉太郎の譜面のまま。後に山田耕筰がピアノ伴奏を付けた際に音が変えられ、現代に残ってしまったのだとか。次の《ふるさとの四季》はもともと混声四部合唱のための曲であり、ほぼそのままホルン4本で演奏している。とてもホルンらしいハーモニーで、シンプルに楽しく聴ける。これも、もはや再現不可能なN響ホルンセクションによるアンサンブルだ。
▼宮城道雄の《春の海》は「西洋音楽の要素を取り入れて邦楽を活性化させよう」という運動の一環として作られた曲で、まさに今回のアルバムの精神と(逆側の視点から)一致する。《思い出の四季》の編曲者でもある轟千尋によるピアノと尺八のためのアレンジをホルンで吹いているのだとか。尺八は約54cm、ホルンはF管で約3.6mだから約6.666…倍。深い意味はありませんが。
▼ディスク2は打って変わって、「ディスク1のような日本音楽を血として育った人が書く最新の西洋音楽」である。雰囲気も一変して、まさに現代曲。慣れない人はちょっと面食らうかもしれないが、ディスク1がホルンの持つ歌の力なら、ディスク2もまたホルンの可能性なのである。
▼池辺晋一郎《ホルンは怒り、しかし歌う》は以前から存在していた数少ない日本人作曲家による無伴奏ホルンソロのレパートリー。そのタイトル通り、グリッサンドやゲシュトップ、フラッタータンギングなども用いた、技巧的でとても激しい曲調を主としながらも、ときに嘆息するようなフレーズが挿入される。意外かもしれないがこの激しいホルンもまた福川氏の持ち味なのだ。オペラシティのソロリサイタル・シリーズ『B→C』でこの曲の演奏を聴いたときには、かなりの衝撃を受けた。
▼イギリスを拠点に活動している作曲家、藤倉大氏の《ぽよぽよ》は、タイトルから受ける印象と異なり、非常に難しい曲だ。ホルン奏者には馴染みの薄いワウワウミュートを終始付けて演奏し、また同音トレモロやグリッサンドなどが多用される上に、一見アドリブのように思えるフレーズもすべて譜面通りに演奏しなければならず、そのリズムは複雑を極める。しかし作曲者によれば、当時生まれたばかりの赤ちゃんのほっぺの柔らかさをイメージしたのだとか。確かに福川氏の演奏もテクニックを超越したもので、「難曲」という印象を聴き手に感じさせず曲のイメージを伝えてくれるものになっている。ちなみに福川氏による委嘱作であり、世界初録音。
▼細川俊夫は現代日本において、そして世界でも著名な作曲家。この曲はルツェルン音楽祭の監督としても有名な音楽プロデューサーであり、震災後の日本においても被災地に音楽を届けようというプロジェクトを企画するミヒャエル・ヘフリガーの50歳の誕生日の贈り物として作曲されたもの。ちなみに初演はベルリン・フィルのシュテファン・ドールだった。深く瞑想的で、祈りのようにも思える曲であり、演奏が心に沁みるようだ。
▼吉松隆《スパイラルバード組曲》も、福川氏による委嘱作品。「ホルンという楽器にとらわれない曲を」というリクエストにより、ホルン離れした難易度の高いパッセージと引き換えに、“解き放たれた”ような自由闊達さを手に入れた。ノリの良いジャズテイストも盛り込みつつ、抒情的な歌や気持ちの高ぶる場面もあって、“渦巻き鳥(=スパイラルバード)”の物語をイメージできるとても楽しい曲だが、楽しく聴かせることは並の演奏者にはできないだろう。しかし「こういう曲が存在することにより、日本のホルン全体のレベルが一段上がって欲しい」という思いを、福川氏は抱いているのだ。



盤版Bang!ライブラリー032

Horn Quintets
NURY GUARNASCHELLI(ホルン)、Signam Quartett、PETER ERDEI(ホルン)
Horn Quintets
1〜3. モーツァルト/ホルン五重奏曲
4〜5. ハウフ/ホルン五重奏曲
6〜7. ホフマイスター/ホルン五重奏曲
8. モーツァルト(J.M.ハイドン編)/ロマンス K.447
9〜11. ベートーヴェン/六重奏曲(2本のホルンと弦楽四重奏のための)
CAPRICCIO C5059

▼不勉強にして知らなかったが、CDを聴いてみたら素晴らしかった女性ホルン奏者をご紹介する。名前の読み方は定かではないが、たぶん「ナリー・ガーナシェリ」。1966年にアメリカ・サンタフェに生まれ、ニューヨークでホルンを学んだあとベルリンに留学し、カラヤン・アカデミーでゲルト・ザイフェルトに師事。1988年から1992年までシュトゥットガルト・フィルハーモニー管弦楽団の首席ホルン奏者を経て、1993年から2008年までウィーン放送交響楽団のソロホルンを務めた。現在は、スペインで教鞭をとっている。使用楽器は明記されていないが、ジャケットには彼女と一緒にアレキサンダー103MBLが写っているので、それが愛器だと想像される(YouTubeでは別の楽器を吹いている映像もある)。共演しているシグナム弦楽四重奏団はドイツを拠点として2007年以来、現在の比較的若いメンバーで活動している弦楽四重奏団だが、アルバムを通して瑞々しいアンサンブルを聴かせてくれる。
▼ガーナシェリの明るく伸びやかで、かつ太く柔らかなホルンの音色は魅力的で、モーツァルトのホルン五重奏にもとても合っている。アメリカ生まれでドイツで活動したということもあり、両方のスタイルの良さを持っているように思う。情感を込めつつ爽やかに歌い上げる第2楽章は特に印象的。
▼ヴィルヘルム・ゴットリープ・ハウフはモーツァルトより1歳年上の作曲家で、曲調もよく似ている。もともと3楽章から成る、弦楽合奏と狩りのホルンのための協奏曲として作られたものらしいが、2つの楽章(たぶん第1、第3楽章)しか発見されていないという。このCDでは弦楽四重奏とホルンで演奏。ロンドにおける、落ち着いたテンポの中にある快活で朗々とした表現に心惹かれる。
▼フランツ・アントン・ホフマイスターはハウフよりさらに1年早く生まれ、数多くの曲を残し、自分で出版している。が、このホルン五重奏は生前には出版されなかったらしく、2つの楽章しか見つかっていないという。ガーナシェリのホルンの柔らかな音色はそのまま、よりダイナミックに様々な表情を見せる。
▼モーツァルトのK.447はホルン協奏曲第3番で、その緩徐楽章を5重奏に編曲したもの。聴き慣れた曲であるが、より繊細で新鮮な印象だった。
▼ベートーヴェンの六重奏曲はホルン2本と弦楽器4本という構成で、ホルン2本がソロ的な扱いで書かれており、非常に聴きごたえがある曲だ。ホルンは難易度も相当高いが、いとも軽々と吹いているように聞こえ、豊かな音色が損なわれることがない。2番ホルンPeter Erdeiはガーナシェリとともにアンサンブル“Austrian Horns”のメンバーということもあり、息もぴったりで音色も非常に近く、表現も統一されているので違和感ゼロでどっぷりと曲に聴き入ることができる。
▼これは掘り出し物のCDだった。


アレキサンダーファン編集部:今泉晃一



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