▼ご存じベルリン・フィルのホルンセクションから選り抜きの4人によるカルテットのアルバム(もちろん全員がアレキサンダー103を使用)。テーマは「ホルンで世界を巡る」か。世界中の名曲が楽しいアレンジで収録されている。タイトルの“Four Corners!”はアルバムにも収録されているケルトの民謡から取られているそうだが、「世界の四つ角」や「4人のホルン吹き」などの意味も含ませているのではないだろうか(ホルンはイタリア語でcorno)。とにかくホルンの面白さをめいっぱい詰め込んだ、まるで「おもちゃ箱」のようなアルバムだ。
▼4人の旅はアメリカから始まる。「ベスト・オブ・ザ・ウェスト」と題されて、その名の通り有名なウェスタン映画の曲をメドレーで演奏。ベルリン・フィルのイメージからちょっと外れる、「やりすぎ」感さえある思い切った表現が文句なしに楽しい。《ローハイド》では牛の鳴き声もホルンで演奏! ミュージカル「ショウボート」で歌われた《オール・マン・リヴァー》を経て、舞台は南米に移っていく。
▼3曲目はメキシコの《ベサメ・ムーチョ》。もの悲しさと情熱の両方を秘めたこの曲を切々と歌い上げる。彼らは本当にドイツ人なのか?(サラはイギリス人だが) 続く《コンドルは飛んでいく》も、何か胸を締め付けられるよう。一転してアルゼンチンのリズミカルなCorralera(コラレーラ)にCornoを合体させた(?)タイトル(原題)の《Cornalera》、ヴィラ・ロボスによるしっとりとした《アリア・カンティレーナ》。ラテンの曲と言えば燃え立つような情熱的なイメージがあるが、彼らの演奏はどちらかというとその裏に潜むメランコリックな部分を出していて、心に揺さぶりをかける。
▼ラテンでつながりつつ、舞台はヨーロッパに飛ぶ。まずファリャの《三角帽子》から《粉屋の踊り》。ホルンのソロで始まる有名な曲だが、たった4人でオーケストラを彷彿とさせる厚みを聴かせる。しかしここではあの魅力的なメロディもすべてホルンで吹かれるからたまらない。《パリの空の下》はシャンソンの名曲……のはずが、なぜかベートーヴェンの《英雄》やらスメタナの《モルダウ》やらが挿入される。ヴァレンドルフのアレンジの遊び心が面白い。
▼タイトルでもある《フォー・コーナーズ》は陽気なケルト民謡だが、バリエーション風の非常にホルンライクな編曲がなされている。複雑なリズムや様々な曲調、そして各パートが大活躍するなど、ホルン的な視点からも聴き応え十二分。その後も、グリーグの《ペール・ギュント》組曲で北欧、オーストリア、イタリア、ロシアとヨーロッパを回り、《ライオンは寝ている》でアフリカに渡る。この曲ではホルンカルテットをバックに、自身のアカペラをかぶせている。楽器が上手い人たちは歌も上手い。
▼ワンタン・ホルンズ(チャイニーズ・キッチン・ドリームズ)はヴァレンドルフ作曲の、中国風でもあり前衛とも取れる曲。特に明確なメロディはない。続く《ずいずいずっころばし》は、日本でホルンアンサンブルをやっている人の多くが演奏した経験のあるポピュラーなアレンジだが、ついにCD化! しかも演奏はベルリンフィルの4人!! とても骨太で迫力のある演奏は、耳馴染みのあるこの曲を新鮮に感じさせる。ヴァレンドルフがラップ風に日本の地下鉄の駅名を並べる《地下鉄ポルカ》も、彼らのアンコールピースとしてお馴染みだったが、ついにCDに収録された。今回は「西高島平〜高島平〜西台」で始まる東京バージョンだ(余談だが、三田線かと思うといきなり霞ヶ関に飛んだりする)。
▼以下もお馴染みのアンコール曲であるが、オーストリア民謡《ワルツィング・マチルダ》をジャズ風アレンジでノリよく吹き切り、最後は《ブラームスの子守歌》でしっとりと幕引き。実際のコンサートでも1人ずつ退場していくのだが、CDでも舞台を歩く足音と、扉を閉める演出が収録されている。最後は舞台袖でフィナーレ。
▼しかし、ここでストップボタンを押してはいけない。CDは無音のまま回り続け、3分30秒あたりから、恒例の(前作「オペラ!」にもあった)NG集が始まる。無茶苦茶になった演奏や叫び声など、収録のときの楽しそうな雰囲気が伝わって来るので必聴だ。
▼という具合に、バラエティ豊かでサービス満点、茶目っ気たっぷりのアルバムに仕上がっている。しかも演奏は一級品。一流ホテルのバイキングディナーのような贅沢なCDだ。
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