▼今月は日独の名下吹きによる2枚のアルバムをご紹介する。
▼まず1枚目はベルリンフィルのホルンセクションの紅一点にして超パワフルな下吹きホルン奏者、と今さら紹介するまでもないかもしれない、サラ・ウィリスさん(いつもの通り、サラと呼ばせていただきます)と、ピアノのコーデリア・ヘーファーさん、そしてヴァイオリンの町田琴和さんによるトリオ。ちなみに町田さんは東京で生まれ、1997年以来ベルリン・フィルの1stヴァイオリン奏者を務めている。
▼さて、このCDに関してはサラから“下吹き”の断り書きを外した方が良い。“ソロホルン奏者”としてとても豊かな音楽を奏でているからだ。ホルン、ヴァイオリン、ピアノで最初に思いつくレパートリーであろうブラームスのホルントリオが、まず1曲目に収録されている。
▼この曲を演奏するとき、ホルン奏者は音量バランスに常に気を使う必要があり、必要以上にソフトに吹いたり、ナーバスな表情付けを行なうことがあるが、共演の2人の技量にも助けられているのだろう(録音の助けもあるかもしれない)、サラは実に伸び伸びと、思い切りよく吹いている。
そのおかげで、“たった3人による交響曲”の様相さえあるこの曲がまさにシンフォニックに、スケール大きく演奏される。そして、そういう構えの大きな音楽の中で、なだらかではあるが極めて陰影の深い表情を聴くことができる。基本的には力強く、雄大なイメージだが、だからこそその中に挿入される優しさ、柔らかさと繊細さが際だっている。そう言えば、女性3人によるトリオなのだ。
特に第3楽章の感傷と甘美な表現、それに続く大きな感情のうねりには引き込まれる。
▼オーケストラやアンサンブルなどでのサラのあまりにスゴイ低音ばかりに注目していると、彼女のホルン奏者としての音楽性を忘れてしまいがちになってしまうことに、警鐘を鳴らしたい(もちろん、自分自身を含めて)。
▼2曲目はデュヴェルノワのホルントリオ。デュヴェルノワはブラームスよりも70年ほど前に生まれ、独学でホルンを学んで演奏家になり、フランスにおけるホルンの発達に大きな役割を果たしたらしい。この曲は大きく2部に分かれており、ドラマチックなアダージョに、朗らかなアレグレットが続く。ホルン奏者の書いた曲だけに、ホルンソロにヴァイオリンとピアノで伴奏を付けているような印象もあり、サラのホルン魅力が存分に味わえる。
▼最後はモーツァルトのトリオ? 見慣れない曲名だが、実は有名なモーツァルトのホルン五重奏曲(K.407)をエルンスト・ノイマンがホルン、ヴァイオリン、ピアノのトリオのために編曲したもの。アレンジの妙で全く違和感なく聴けるので、サラのホルンで残念ながら元の五重奏の演奏は聴いたことがないが、“サラのモーツァルト”は十分伝わってくる。伸び伸びとしていて、真っ直ぐでありながら歌心にあふれ、堂々としていると同時にコケティッシュさも感じる演奏だ。
▼「最後」と上で書いたが、モーツァルトが終わってもストップボタンを押してはいけない。約3分間のブランクの後に、デニス・ブレインがアンコールピースとして吹いて有名になった「ル・バスク」(トリオバージョン)が収録されているのだ!
▼楽器についてはアレキサンダー103としかクレジットされていないが、写真を見ると103ML。録音が2009年5月とのことなので、ハンドハンマー仕上げのプロトタイプを使用している可能性もある。
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