アレキサンダーファン
2009年08月掲載
ホルンなんでも盤版Bang! 〜ライブラリー〜 「ホルンなんでも盤版Bang!」
ホルン関係のCD・楽譜情報を発信していきます!!


このコーナーでは、ホルンに関するディスクをご紹介いたします。
みんな知っている超定盤、「こんなのあったのか」という珍盤など、ホルンが活躍するものなら何でも。その中から今回はこの2枚です。
ここでご紹介する盤は基本的には筆者のライブラリーですので、当サイトへの、入手方法などに関するお問い合わせはご遠慮くださるよう、お願い申し上げます。


盤版Bang!ライブラリー025

はるかな音、奏でる言葉
池田重一(ホルン)、浅川晶子(ピアノ)
はるかな音、奏でる言葉
1. フランツ・シュトラウス/主題と変奏
2. ニコライ・アリャードフ/シンフォニア・パストラーレ
3. オスカー・フランツ/無言歌
4. ボリス・アニシモフ/ポエム(詩曲)
5. ジャン・ミシェル・ダマーズ/子守歌
6. カール・ライネッケ/夜想曲
7〜9. パウル・ホンデミット/ソナタ
10. ルネ・ベルトゥロ/小変奏曲
ワコーレコード WKCD-0008

▼池田重一氏は大阪音大を卒業後ドイツのアーヘン国立音楽大学で学び、帰国後大阪フィルハーモニー交響楽団に入団。現在も首席ホルン奏者を務める。また、宮川彬良&アンサンブル・ベガのメンバーでもある。なお、使用している楽器はアレキサンダー103のニッケルシルバー。
▼2007年に発売されたこのアルバムは、比較的知られている曲と言えばF.シュトラウスの《主題と変奏》とヒンデミットのホルンソナタくらいで、あとはそれほど知られていないホルンソロの小品が収録されている。「ホルンのレパートリーを広げるため、埋もれている曲を紹介したい」という池田氏の意欲が伝わってくる。しかも、どれもが魅力あふれる曲だからなおさらだ。
▼池田氏のホルンは、軽くヴィブラートをかけた柔らかでロマンティシズムあふれる音色であり、それがまたこのCDに収録されている叙情的な小品とマッチしている。そして、まさにこのCDのタイトルにもあるように、ホルンのサウンドが、まるで奏者自身の言葉のように聴き手に訴えかけてくるのだ。さらに、大阪フィルハーモニー会館という小ホールで録音されているのだが、ホールの豊かな響きを十分に生かした、雰囲気のある録音もまた、このCDの内容に非常に合っていて、演奏をより一層魅力的に聴かせてくれている。
▼1曲目F.シュトラウスの《主題と変奏》は《ノクターン》などに比べれば演奏される機会は少ないが、親しみやすいメロディと、ホルンの特徴を生かしつつ楽器を機能的に使った変奏曲で、聴き応えのある曲だ。池田氏はどんなパッセージにおいても、どんな音域においても、またどんなダイナミクスであってもその情緒性を失わず、常に丸く柔らかな音色で音楽を奏でている。しかし、その中に輝かしいあのアレキサンダートーンもしっかり感じさせてくれる。まずこの音色に、聴き手は引き込まれずにはいられないだろう。
▼ロシアの作曲家アリャードフの《シンフォニア・パストラーレ》は素朴な民謡風の中にどこか哀愁の漂う曲調で、日本人が好きないわゆる“ロシア調の”ホルンソロ曲が意外に少ない中、貴重なレパートリーとも言える。
  フランツの《無言歌》も叙情あふれる曲で、これもタイトル通り、切々と歌い上げるホルンに思わず引き込まれる。それにしても、池田氏のレガートの美しさはちょっと日本人離れしているような気がする。
▼アニシモフの《ポエム》はグリエールのホルン協奏曲を思わせるような、情緒あふれるメロディとスケールの大きさを併せ持つ。ライナーノートによれば吹奏楽伴奏版もあるということだが、この演奏はピアノ伴奏でもそのコンチェルトライクなスケールが十分表現されているように思う。
  ダマーズは20世紀のフランスの作曲家だが曲は決して現代調ではなく、《子守歌》は穏やかな旋律の中に、新しさをうまく調和させた曲調で、ピアノとの繊細なやりとりが耳に残る。
  ホルン/オーボエ/ピアノのためのトリオ、ホルン/クラリネット/ピアノのためのトリオ(どちらも構えの大きな大曲にして名曲だと思う)も書いているライネッケだが、ソロのレパートリーとして割合演奏される機会が多いのがこの《夜想曲》。静かな旋律の中にも情熱を秘めているのがライネッケらしいが、演奏も、決して強く吹くわけではないのだが、しっかりとパッションを感じさせてくれる。
▼ヒンデミットのホルンソナタは、曲の作りはそれほど叙情的というわけではないのだが、池田氏が吹くととてもロマンティックに聞こえてしまうのは、やはり演奏の力というものだろう。しかも、この曲ではかなりパワフルでドラマチックにも聴かせてくれる。「ヒンデミットは現代的でどうも苦手」という人は、このCDを聴いてみると少し印象が変わるかもしれない。
  最後はアンコールピースのように、日本では〈蛍の光〉としてよく知られているメロディによるベルトゥロの《小変奏曲》で締めくくられる。


盤版Bang!ライブラリー026

モーツァルト/ホルン協奏曲全集
シャオミン・ハン(ホルン)、ジア・リュー指揮イギリス室内管弦楽団
モーツァルト/ホルン協奏曲全集
1〜2. ホルン協奏曲第1番ニ長調K412
3〜5. ホルン協奏曲第2番変ホ長調K417
6〜8. ホルン協奏曲第3番変ホ長調K447
9〜11. ホルン協奏曲第4番変ホ長調K495
12. ロンド変ホ長調K371(ベイヤー補作)
Sanctuary Classics CD RSN3071

▼シャオミン・ハンは1963年に上海で生まれ、小さい頃からお父さんに音楽の手ほどきを受けた。その後上海と北京でホルンを学び、17歳にして北京交響楽団のソロホルン奏者に就任。その後小澤征爾に認められてアメリカに渡り、その後ドイツでアイファー・ジェームスなどに師事。その後もヴュルツブルクフィルやザールブリュッケン放送交響楽団などでソロホルン奏者を務めるなど、ドイツを中心に活躍している。
  使用している楽器の詳細は不明だが、アレキサンダーのマウスピースのドイツでのラインナップには「ハン・モデル」が存在している。
  このCDの録音は1996年。
▼シャオミン・ハンのホルンは、まずその太く丸い音が魅力的だ。柔らかいのだがしっかりとした弾力性を持っている音色。歌い方もたっぷりとしたスケールの大きなもので、強調感やあざとさの全くない自然な表現だが、音色と相俟ってとてもロマンティックな雰囲気を全体にわたって醸している。
▼第1番は緩徐楽章がなく、通常はフィナーレにあたるロンドが未完成のまま残されていた曲で、一般に知られているのはモーツァルトの弟子であるジュスマイアーが補筆・完成させたものだが、このディスクでは、(特に表記されていないが)20世紀のアメリカの音楽学者であるロバート・D・レヴィンが補筆・完成した版が使用されているようだ。聴いていてどこか違和感があるとすればこのためだろう。
  しかし、おかげで新鮮な曲の印象とロマンティックなハンのホルンが融合して、演奏をより一層魅力的にしているのは間違いない。
▼第2番も奇をてらわない落ち着いた演奏。現代のホルニストに対してスタイル云々を言うのはあまり意味がないかもしれないが、モーツァルトを演奏するにあたって正統的と言ってもいいドイツ的な音楽性をベースとして、そこにデニス・ブレインを彷彿とさせるイギリス的な歌心が加わったような印象を受けた。音色も、どこかイギリス的−−というよりも、ブレインの吹いたシングル・ピストンホルンを思わせる部分があるのだ。
▼第3番は全体に少し速めのテンポで活発な演奏だが、朗々としたソロホルンの印象は変わらず、急いだり、あおったりということを一切感じない。速いパッセージも落ち着いて聞こえるのは、演奏者の技術が高いからだが、それをひけらかすようなところがないのがいい。テクニカルでユニークなカデンツも聴き所だ。
▼第4番の第1楽章や第2楽章など、特にロマンティックな曲調を持つ部分は、ハンの真骨頂のような気がする。もちろん持ち味はそれだけではないのだが、どんなシーンでも苦しさや大変さを感じさせず、常に聴き手を夢見心地にできるような演奏というのは得難いものだと思った。
▼ロンド(K.371)はフリッツ・ベイヤーの手によって補完されたもので、曲の最後に特徴的なカデンツを持つ。このベイヤー版は、このCDが初録音だそうだ。

アレキサンダーファン編集部:今泉晃一



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