アレキサンダーファン
2007年06月掲載
ホルンなんでも盤版Bang! 〜ライブラリー〜 「ホルンなんでも盤版Bang!」
ホルン関係のCD・楽譜情報を発信していきます!!


このコーナーでは、ホルンに関するディスクをご紹介いたします。
みんな知っている超定盤、「こんなのあったのか」という珍盤など、ホルンが活躍するものなら何でも。その中から今回はこの2枚です。
ここでご紹介する盤は基本的には筆者のライブラリーですので、当サイトへの、入手方法などに関するお問い合わせはご遠慮くださるよう、お願い申し上げます。


盤版Bang!ライブラリー017

Concertos for Horn Quartet and Orchestra
ベルリン・フィルハーモニー・ホルン四重奏団
 (ゲルト・ザイフェルト、ギュンター・ケップ、クラウス・ヴァレンドルフ、
  マンフレート・クリアー)
ミヒャエル・ポーター指揮バンベルク交響楽団
Concertos for Horn Quartet and Orchestra
1〜2. シューマン/4本のホルンと管弦楽のためのコンツェルトシュトゥック
3. ケーネン/ホルン四重奏のための変奏曲
4〜7. ゲンツマー/4本のホルンと管弦楽のための協奏曲
VMS VMS605

▼1987年に録音され、ゲルト・ザイフェルトをはじめとした当時のベルリン・フィルの4人のホルン奏者がソロを吹くシューマンの「コンツェルトシュトゥック」。ある意味この曲のスタンダードとも言える演奏だが、CDがしばらくの間入手困難だった。しかし最近、ジャケットを一新して復活。オリジナルと比べると曲順は入れ替わっているが、ライナーノーツを含め演奏は当然同じものだ。だから、知る人はとっくに知っているCDだけれど、改めてご紹介したい。
▼日本でもファンの多いザイフェルトがトップを吹き、2番、3番をケップと今なおベルリン・フィルに在籍中のヴァレンドルフ、そして4番をクリアーが吹いている。このときザイフェルトはハイF管を多用しているように聞こえるが、どこまでもパワフルで(でも決して乱暴でない)揺るがないザイフェルト・サウンドがたっぷりと堪能できる。
▼ヴァルヴ付きホルンが発明されてから約30年経った1849年に、ホルンの可能性が飛躍的に高まったのに気を良くして、常人では演奏困難なほど飛躍的な曲を書いてしまったのがシューマンの「4本のホルンと管弦楽のためのコンツェルトシュトゥック」だ(「コンツェルトシュトゥック」はドイツ語で、要するに「協奏曲」の意味)。基本的にはシューマンらしいロマンティックさあふれる曲だが、それにしても、上のパートはハイFは当たり前、最高音はAというもの。しかもそれがソロで16分音符で、または決めの部分でffで出てくるのだから、完璧に吹けないと格好悪いことこの上ない。逆に、完璧に吹ければこれ以上格好良い曲はそうはないと思う。
▼そういう意味からもザイフェルトという人が常人でないのがよくわかる演奏だが、全員がカラヤン=ベルリン・フィルという黄金期にあたる時代のホルン吹きだけにやはり「超」上手い。しかも見事に音色まで揃っている(楽器は違うのに)。細かな動きでの掛け合いも、4人がハモったまま動いていくメロディも一糸乱れない。スゴイ。
▼パウル・ケーネンは1908年生まれのドイツ人。「4本のホルンのための変奏曲」は他の2曲とは違い、純然たるホルン4重奏曲(オケの伴奏はなし)。カール・オルフのオペラ「賢い女」の中から取られたメロディ自体は軽妙で親しみやすいもの。曲全体の印象も明るく楽しいものだが、変奏が進んで行くうちに様々な作曲技法が取り入れられて、10分という長めの変奏曲をまったく飽きることなく聴き通してしまう。演奏するとしたら大変だと思うが……。
▼1909年生まれのハラルト・ゲンツマーが1986年(つまりレコーディングの前年)に完成させた「4本のホルンと管弦楽のための協奏曲」は、打楽器が活躍するなど編成こそ現代的だが、曲調はこうして150年前の曲と並べてみてもそれほど違和感がないドラマティックな印象。4本のソロホルンは、シューマンほど華やかにテクニックを競い合うのではなく、むしろ「複数の音を持ったソロ楽器」のように扱われている。このCDでは、もともと5つの楽章を持った曲の第2楽章を省略し、(もとの)第4楽章「Intermezzo」を短縮して演奏しているらしい。
▼とにかく「コンツェルトシュトゥック」のお手本とも言えるこの CD、持っていない人は買うべし。持っている人はもう一度聴き直すべし。


盤版Bang!ライブラリー018

The German Romantic Horn
ルイ=フィリップ・マルソレ(ホルン)
デイヴィッド・ジャルバート(ピアノ)
The German Romantic Horn
1. R.シュトラウス/アンダンテ
2. F.シュトラウス/主題と変奏 op.13
3. F.シュトラウス/ノクターン op.7
4. ラッハナー/スイス民謡による変奏曲
5. シューマン/アダージョとアレグロ op.70
6〜8. ピルス/ソナタ形式による3つの小品
OEHMS CLASSIC OC582

▼ルイ=フィリップ・マルソレというホルン奏者の名前はあまり耳馴染みがないかもしれない。このCDがデビューアルバムとなるそうだが、ドイツ、スイス、イタリア、フランスと各国のコンクールを総なめにした若きカナダ人であり、現在はソリスト、室内楽奏者として活躍しているそうだ。ちなみに、ジャケットの写真からは、使用楽器はE.シュミット(フルダブル、ゲシュトップキー付き、イエローブラス)のように見える。少なくともアレキサンダーではないようだ。
▼このCDではドイツ、オーストリアの作曲家によるホルンのソロ曲を収録している。R.シュトラウス、F.シュトラウス、シューマンなど有名作曲家に混じってカール・ピルスというあまり知られていない作曲家を取り上げているのが興味深い。
▼R.シュトラウスの遺作「アンダンテ」は彼の若い頃の素直さと晩年の熟成を両方感じさせるような名曲だが、マルソレはコクと温かみのあるサウンドでしみじみと歌い上げている。彼の生まれ年はプロフィールなどにもないが、1999年に大学に行っていたというから2006年の録音当時はたぶん20歳代だと思われる。しかしすでにヴィルトゥオーソの風格さえ漂わせているように感じた。
▼それはF.シュトラウスの2曲でも感じる。音色は柔らかく深みがあり、同時にピュアである。そして感情を込めてたっぷりと歌い上げたあとにふっと力を抜く部分があり、音を引いたのと同じ距離だけ聴き手はすっと引き込まれていくのだ。気持ちが高まっていくとちょっと演歌っぽい歌い方にもなり(?)、日本人の感情もダイナミックに揺さぶってくれる。
▼フランツ・ラッハナー作曲「スイス民謡による変奏曲」はあまり聞かないが、親しみやすいテーマ、屈託のない曲調、キャラクターのはっきりとした変奏と、初めて聴く人でも楽しめる。
▼シューマン「アダージョとアレグロ」はアダージョの濃い歌い込みが見事。例によって押すだけではなく、引いてみせる部分も魅力だ。後半のアレグロの部分ではかなりのテクニックが必要だが、軽やかで機械的に正確というよりも、速いパッセージでも音に重みを感じさせ、それが人間味にあふれているのだ。高域はヘルデンテノールが声を張ったときのように聴き手をうっとりさせるし、少し大げさなくらいの表情の付け方にもつい聴き入ってしまう。
▼ピルスは20世紀に生きたウィーン生まれの作曲家。とは言え、その曲調は19世紀風のロマンティックなものに近代風味を加えたような味わい。3楽章構成で演奏時間30分近い大曲だ。こういう無名な大曲をトリに持ってくるというのはだいぶ自信があったのか思い入れがあったのだろう。ある意味、このCDの中でもっとも肩の力の抜けた演奏という感じがあって(でも、リキは入ってますが)、伸び伸びと思い切って吹いている様子が聴いていて気持ちいい。演奏にとても説得力があり、名曲だ、と思わせられます。

アレキサンダーファン編集部:今泉晃一



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