アレキサンダーファン
2007年05月掲載
ホルンなんでも盤版Bang! 〜ライブラリー〜 「ホルンなんでも盤版Bang!」
ホルン関係のCD・楽譜情報を発信していきます!!


このコーナーでは、ホルンに関するディスクをご紹介いたします。
みんな知っている超定盤、「こんなのあったのか」という珍盤など、ホルンが活躍するものなら何でも。その中から今回はこの2枚です。
ここでご紹介する盤は基本的には筆者のライブラリーですので、当サイトへの、入手方法などに関するお問い合わせはご遠慮くださるよう、お願い申し上げます。


盤版Bang!ライブラリー015

Franzosische Musik fur Horn und Klavier
ペーター・ダム(ホルン)
ペーター・レーゼル(ピアノ)
Franzosische Musik fur Horn und Klavier
1〜3. FRANCAIX/Divertimento
4. SAINT-SAENS/Romanze(op.67)
5. BUSSER/La Chasse de Saint Hubert
6〜7. GOUNOD/Six Melodies pour le Cor a Pistonsより
8. BOZZA/Sur les Cimes
9. DUKAS/Villanelle
10. DAMASE/Pavane variee
11. SAINT-SAENS/Romance(op.36)
12. POOT/Legende
13. ROSSINI/Prelude, Theme et Variations
BERLIN Classics 0093922BC

▼ペーター・ダムはスターツカペレ・ドレスデンに在籍し、金管楽器とは思えないような柔らかな音質と細やかなビブラートで一世を風靡した。このCDは「フランスの音楽」とのタイトル通り、フランスを中心に活躍した作曲家のホルン・ソロ曲を集めたもの。ある時期までのフランスのホルンも、ルシアン・テーヴェを筆頭としてビブラートを好むイメージがある。同じビブラートはいっても雰囲気は全く異なり、ダムはもっと変化の幅が小さく、周期は大きくおおらかなイメージだ。とはいえ、そのサウンドがフランス音楽に合うのは間違いない。録音は85年。すでに「定盤」化していると言ってもいいディスクだ。
▼「フレンチ」ホルンという名称は無関係としても、ホルン・ソロの定番曲にはサン=サーンス、デュカス、ボザなどなぜかフランスの作曲家が多い。一方、オーケストラの中でホルンを活躍させるのは圧倒的にドイツの作曲家だ。ホルンのメロディ楽器としての側面を重視したのがフランス、ハーモニー楽器としての側面を重視したのがドイツということか。それとも、運動性が良くレガートが綺麗にかかりやすいピストンホルンが主流だったフランスと、重量感があって輪郭のかっちりとした音が出やすいロータリーバルブが主流だったドイツという楽器事情の差か。もちろん一概には言えないのだが……。
▼20世紀生まれのフランセの曲は、現代風とメロディアスな部分が入り交じっているが、ダムの演奏はフランセの持つ叙情的な部分を強調したものだ。全編を通して軽やかで朗らかな印象がこの曲をより身近に感じさせる。それにしても、あらゆる部分で危なげがない、まるで自分の声がホルンの音であるかのような独特の歌い回しが魅力的だ。
▼サン=サーンスの「ロマンス」と言えば、このディスクにも収録されている作品番号36の方が有名だが、こちらもかなり歌い甲斐のある「ロマンス(Romanzeはドイツ語表記)」だ。こういう曲を吹いたらダムの右に出るものはいない、ということに同意せざるを得ない。穏やかな部分はあくまでも優しく、しかし感情の高まりはかなり激しく表現している。
▼“La Chasse de Saint Hubert“は訳せば「聖フーベルトの狩り」だが、この狩りはだいぶドラマチックだ。「狩り」の部分はトリッキーなリズムが使われており、また1曲を通して聴くとまるで映画音楽のようにいろいろなシーンがイメージされる。ダムの演奏は特に、その「狩り以外」の情感あふれるシーンが秀逸だ。音色、ビブラートを微妙に使い分け、それぞれのシーンをしっかりと演出する。意外だが、ダムの吹く低音がかなりパワフルなのはちょっと「目からウロコだ」。
▼グノーの「ピストンホルンのための6つのメロディ」から2曲を吹いているが、それほど難しいテクニックを要求されないこういう美しいメロディこそペーター・ダムの真骨頂だろう。できれば全曲聴いてみたい。
▼ボザの「Sur les Cimes」は森ならぬ「山頂にて」。「森にて」同様に様々な要素が入り交じり、各場面でイメージを膨らませられる、聴き応えのある曲だ。
▼古い声楽曲の形式「ヴィラネラ」と「田園詩」という意味を持つデュカスの「ヴィラネル」も、のどかに、しかし感情を込めて歌い上げている。ffでもこれだけきれいにビブラートがかかっているのは聴いていて気持ちいい。
▼サン=サーンスの作品番号36の「Romance」は有名な方の「ロマンス」。ダムの演奏は、好き嫌いをそれを超越した一つの究極ではないかと思う。演奏する機会のある人は、一度はこの演奏を聴くべし。
▼ロッシーニはご存じのとおりイタリア人だが、 10年以上パリで活動していた。彼はあるときを境に、いくつかの小品をのぞいてほとんど作曲していないが、この曲はその数少ない例外であり、晩年の貴重な作品だ。オペラ作曲家として有名だったロッシーニだけにアリアのように朗々と歌う部分と、意外にテクニカルな部分が混在しているが、どんなに難しいことを吹いていても常に変わらず楽しげに聴かせてしまう、ダムらしさがある意味もっとも表現される曲ではないだろうか。


盤版Bang!ライブラリー016

KALLIWODA ORCHESTRAL WORKS
ヨハネス・モーズス指揮ハンブルグ交響楽団
ラドヴァン・ヴラトコヴィッチ(ホルン)
ディーター・クレッカー(クラリネット)
KALLIWODA  ORCHESTRAL WORKS [KALLIWODA]
1. Overture No.12
2〜3. Introduction and Variations(for clarinet and Orchestra)
4〜5. Introduction and Rondo(for horn and orchestra)
6〜9. Symphony No.3
MDG 329 1387-2

▼ヨハン・ヴェンツェル・カリヴォダ (1801〜1866)は19世紀前半を生きたプラハの作曲家だ。時代的にはベルリオーズやメンデルスゾーンと重なる。全部で7曲の交響曲を含む数多くの作品を残しているらしいが、現代においてはあまり演奏されることはないようだ。
 これはいわゆる「ホルンのCD」ではないが、4曲目の「序奏とロンド」はホルン・ソロの曲であり、耳にする機会が極めて少ないと思われるのでご紹介する。
▼1曲目の「序曲」は最初はベートーヴェンを思わせる古典的な印象だが、聴いていくうちにチェコらしいロマンチシズムも加味され、聴いていて落ち着けるというか、期待を裏切らないと言うか、心地よい展開で曲が進んでいく。冒頭の緩徐部分ではホルンが大活躍。ティルシャルらチェコのホルニストの顔が思い浮かぶような(作曲された時代に生まれているわけはないが)、素朴なフレーズがいい。これはだいぶ「ホルン好き」な作曲家と見た。
▼2曲目はクラリネット・ソロとオーケストラのための曲だが、こちらは全編においてロマンティック。印象としてはウェーバーに近い。
▼そして4曲目がホルン・ソロとオケの曲。ソロを吹くのはラドヴァン・ヴラトコヴィッチ。序奏は哀愁を漂わせる曲調で、ヴラトコヴィッチの柔らかかつ張りのあるサウンドが非常にマッチする。主部(ロンド)は朗々としたフレーズの明るい曲。常にどこか繊細な印象を受けるのだが、ヴラトコヴィッチが楽譜に込められた感情をうまく捉えて吹いてくれているからだろう。やはりウェーバーの「コンチェルティーノ」と雰囲気が似ている。
 冒頭からソロが縦横無尽に活躍する。発明されて間もないであろうバルブ付きホルンの性能をめいっぱい生かした曲かと思ったが、作曲者の指定によれば狩りのホルンで吹いてもいいらしい(本当にナチュラルホルンで吹けるのか?) ウェーバーの「コンチェルティーノ」に比べると、あれほど無茶ではない(ように聞こえる)ので、譜面があるなら一度チャレンジしてみたい曲だ。
▼交響曲第3番もモーツァルトとベートーヴェンにつながるような古典とドヴォルザーク(の前期交響曲)っぽいロマンの香りが溶け合った耳なじみのいい曲だ。シューベルトっぽいとも言える(個人的意見だが、こうやって常に「○○っぽい」と言われてしまうところが、現代にそれほど名を残していないひとつの要因なのだろう)。しかし、第1楽章でふっと顔を出すチェロのソロとか、第2楽章でで出てくる弦楽器のアンサンブルなど、ところどころに仕掛けがしてあり、面白く聴ける。
 全編にわたって「いかにもホルンっぽい」フレーズ満載。しかもトゥッティではほぼ常にホルンの響きに全体が包まれているようなオーケストレーションだ。スコアを見たことはないが、かなり吹きっぱなしなのではないだろうか。

アレキサンダーファン編集部:今泉晃一



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