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このコーナーでは、ホルンに関するディスクをご紹介いたします。
みんな知っている超定盤、「こんなのあったのか」という珍盤など、ホルンが活躍するものなら何でも。その中から今回はこの2枚です。 |
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ここでご紹介する盤は基本的には筆者のライブラリーですので、当サイトへの、入手方法などに関するお問い合わせはご遠慮くださるよう、お願い申し上げます。 |
モーツァルト/ホルン協奏曲、ホルンとオーケストラのためのロンド |
ズデニェク・ティルシャル(ホルン)
ズデニェク・コシュラー指揮チェコ・フィルハーモニー室内管弦楽団 |
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モーツァルト
1〜2. |
ホルン協奏曲第1番二長調K.412 |
3〜5. |
ホルン協奏曲第2番変ホ長調K.417 |
6〜8. |
ホルン協奏曲第3番変ホ長調K.447 |
9〜11. |
ホルン協奏曲第4番変ホ長調K.495 |
12. |
ホルンとオーケストラのためのロンド変ホ長調K.371 |
オクタヴィア・レコード CRYSTON OVCC-00032 |
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▼チェコ・フィルの「ティルシャル兄弟」として一世を風靡したホルン奏者の弟の方で、元首席奏者。残念ながら先日逝去したため、このCDが遺作という形になってしまった。
▼アルバム自体は94年に発売されたCDの再発売だが、スーパーオーディオCD(SACD)とのハイブリッドディスクという形となり、SACD対応のプレーヤーがあればさらに生音に近いサウンドが楽しめる(もちろん通常のCDプレーヤーで聴くこともできる)。
▼最近はどこのオーケストラも国際化が進んでいるが、このアルバムでは、ヴィブラートをたっぷりとかけたいかにもチェコらしいホルンを聴かせてくれた当時を思い出させてくれる。
▼第1番は緩徐楽章のない2楽章構成の曲で、オーケストレーションが未完に終わっていたロンド(終楽章)を弟子のジュスマイヤーが補完したもの。が、4曲の協奏曲中唯一のd-durということと、緩徐楽章がないということもあって、特に軽妙な感じを受ける。ティルシャルの伸びやかで柔らかく、屈託のないサウンドが非常に合っている。
▼第2番がいかにも「ヴァルトホルン(森のホルン)を思わせるのは、曲調に合わせてティルシャルが若干荒々しい感じで吹いているからだろうか(とは言え基本的には独特の柔らかなサウンドなのだが)。1番に比べるとちょっと陰のある部分も感じられる。それにしてもティルシャルという人、トリルやプラルトリルなどをどうしてこう細かく吹けるのだろうか。
▼第3番はもっとも優雅な雰囲気を持つ。基本的にはどんな曲を吹いても「自分の曲にしてしまう」ティルシャルだが、とくにこの曲は深い感情が込められているような気がする。1楽章のカデンツァもテクニックを披露するというよりは、ロマンティックな曲調だ。そう言えば2楽章を聴いていて気がついたのだが、ティルシャルのホルンは、アタックがとても柔らかな割にははっきりしている。まるでホルンが自分の声であるかのように。聴いていても、音を外すなどということが思い浮かばない。そのくらい軽々と音が出ている。
▼第4番はとても陽気な曲だが、ティルシャルのホルンは深みを感じさせる。と同時に、開放的に吹き切っているような部分も。それぞれに曲における表現を聴き比べてみると面白い。
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MOZART AUS SALZBURG |
ヨハネス・ヒンターホルツァー(ホルン)
アイヴァー・ボルトン指揮ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団 |
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モーツァルト
1〜3. |
ホルン協奏曲第2番変ホ長調K.417 |
4〜6. |
ホルン協奏曲第3番変ホ長調K.447 |
7〜9. |
ホルン協奏曲第4番変ホ長調K.495 |
10〜11. |
ホルン協奏曲第1番二長調K.412(ハンフリーズ版)※ |
12. |
ロンドニ長調K.514(ジュスマイヤー版)※ |
13. |
ロンド変ホ長調K.371(ハンフリーズ版)※ |
14. |
ホルン協奏曲ホ長調K.494a(ハンフリーズ版) |
(※はナチュラルホルンにて演奏) |
OEHMS CLASSICS OC567 |
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▼今月はもう1枚、新しくリリースされたモーツァルトのコンチェルトを。ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団の首席ホルン奏者であるヒンターホルツァーが自信のオーケストラをバックにモーツァルトの4つの協奏曲とロンドなどを収録している。
▼面白いのは曲によって通常の(モダン)ホルンとナチュラルホルンを吹き分けていること。その使い分けの基準は明示されていない(モーツァルトの時代だからすべての曲がナチュラルホルンを想定して作曲されている)が、たぶん曲調によって選んでいるのではないだろうか。ちなみにライナーノート中にはヒンターホルツァーがアレキサンダーの103と写っている写真があるので、モダンホルンは103を使っていると予想される。
▼最初の3曲、協奏曲の第2番、第3番、第4番はモダンホルンによる演奏。
ティルシャルの音色とはまた傾向が違うが、ペーター・ダムに師事したというのが納得できるふくよかで柔らか、それでいて伸びやかな音色はとても魅力的だ。強奏部でも刺激的にならない。バックが、自分が普段一緒に演奏しているオーケストラということもあってキレのある演奏でアンサンブルが非常に積極的に感じられるのもポイント。
▼ちなみにカデンツァなどはすべてヒンターホルツァー自身の作曲になるが、特に第3番は1楽章のカダンツァが聴きもの。重音を多用したテクニカルなカデンツァは聴き応え十分で面白い。第4番1楽章のカデンツァはどこかグリエールを思わせるようなロマンティックな曲調にさりげなく超絶技巧を盛り込んだもの。コピーしようという気にはなれないが……。
▼協奏曲第1番はナチュラルホルンによる演奏。ナチュラルホルンによる音色がモダンホルンとそれほど差がないのが面白い。むしろモダンホルンを吹いたときがナチュラルホルンっぽいとも言える。それくらいモダンホルンと聴き比べてみてもまったく違和感がないテクニックを持っているおり、「曲によって楽器を換えてみよう」くらいの気分で使い分けているようにさえ思える。特に細かなパッセージの中にオープン、半音下げ、ゲシュトップ(半音上げ)が混在するような部分の音程を完璧に取っているのがすごい。
▼ちなみに第1番のロンド(Tr.11)はイギリスのホルン研究家、ジョン・ハンフリーの補作によるものを演奏し、その後にジュスマイヤー版のロンドを追加している(Tr.12)。ちなみに有名なロンド変ホ長調と最後の未完成のコンチェルトもハンフリーズ版。このロンドもナチュラルホルンで縦横無尽に吹きまくっている。
Tr.14の未完成のコンチェルト(モダンホルンで演奏)は新鮮で興味をそそられる曲だが、曲の途中で突然終わってしまうのが残念。
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