アレキサンダーファン
2006年06月掲載
プロフィール
阿部雅人 阿部 雅人
福島県出身。東京芸術大学音楽学部卒業。在学中に東京フィルハーモニー交響楽団に入団。
ホルンを永沢康彦、大野良雄、守山光三、千葉馨の各氏に、室内楽を山本正治、中川良平の各氏に師事。
東京文化会館推薦音楽会出演。96年に福岡、97年に福島でリサイタルを開く。
現在、新日本フィルハーモニー交響楽団団員。東京ホルンクラブメンバー、東京ミュージック&メディアアーツ尚美講師、日本ホルン協会事務局長。
アレキサンダーホルンアンサンブルジャパンメンバー。
第08回 達人の息吹


皆さんこんにちは。
最近は地球温暖化の影響なのか天気が目まぐるしく変わりますね。暑い日があったと思ったら寒くなったり、春なのに夕立があったり。やっぱり地球は壊れつつあるのでしょうか?
まあこれも人間がこれまで好き勝手にしてきたことのつけなんでしょうからね。これだけ石油を消費したり人口が増えれば、当たり前かなとも思いますが。

それに引き換え、ホルンを吹くという行為は、全くガソリンや電気を使わないのですから、これは画期的なことですよ。それでいてあんな大きな音が出るんですからね。今時、電気を使わずに出来ることなんて、良く考えてみればあまり無いことですから。
これは地球温暖化防止に一役買っている余暇の過ごし方として、環境庁から表彰されてもいいかも…なんて。
でも、電気も無かった昔は、こんな楽しみ方しかなかったんだろうな。

というわけで、電気も石油も使わないホルンが、生き生きとした音を出すには?といういつものテーマですが、今までは主に顔の前面だけに焦点を当てて来ましたが、今日はもっと体の内面の事について考えましょう。

まず、音を出すには何を最初にしなきゃいけないか?
そうです、息を出さなければなりません。おっとその前に息は吸わなければならないですね。
呼吸法については、様々な方がいろんな方法を論じていますから、それはそちらに譲ることにいたします。が、ここでは僕が今までに感じたことを僕なりに書いてみます。

まず第一にいっぱい吸う!とりあえず吸う!
よく腹式呼吸でといわれますが、おなかに息を入れようと思うと、意外に入らないものです。
僕はそれを二段階吸気と呼んでますが、まずお腹のほうに息を入れます。もう入らないかな?と思う状態から肺ののほうにも空気入れてみて下さい。
多少肩が上がるかもしれませんがいっぱい入ったでしょう?
ちなみに、肺活量はあまり関係ありません。肺活量はあるのに、あまり吸わない、という方がどちらかというと問題です。

僕が思うに、少しくらい力が入っても、空気をいっぱい吸わないで吹くよりは吸った方がましです。特に短くて簡単なものを吹く時には呼吸が浅くなりがちですから注意します。浅い呼吸が癖になっていると、なかなか急にたくさん息を取ろうとしても出来ないものです。
以前に調子が悪かった頃は、吸おうと思うのですがなぜか吸えませんでした。これはたぶんアンブシュアに無理があって、それが影響して肩や体全体の筋肉も硬くなったからだと思うのですが、緊張したり調子が悪かったりすると、誰でもそうなります。同じ一人の人間ですからね。体は連動するのです。
ですので、これもよく言われることですが、出来るだけ体は硬くせずにたっぷり吸うことです。

それから息を取るときに音が出ないように!
これは喉や歯の間隔を空けずに吸うからですが、本人は音がしているものだから吸ったと思って勘違いしている。どちらにしても、狭いところを息が通るために音が出るのですから短時間でたくさんの息を吸える訳がありません。
ちゃんと喉を開けて吸ってください。
つい最近気が付いたのですが、風邪をひいて鼻が詰まってしまった時に、かなり鼻からも息を取っていることに気が付きました。
鼻と口の両方からブレスしていたんですね。いっぺんに吸うのではなく、最初は鼻から吸って準備しておき最後の仕上げに口から吸うって感じです。

吸う事でもう一つ。音楽的に吸うこと。
アンサンブルをするときに、ブレスのタイミングで合わせる、ということは良くあります。僕などは、セカンドホルンの立場として、指揮者は見ないで隣の奏者の息遣いで出だしを合わせて吹くことなどしょっちゅうです。反対に言えば、ブレスさえしっかりしていればそれこそ「あうんの呼吸」で合うのです。
ですから、吸ってからずっと息を止めているということはありません。円運動をするがごとく、吸ったら吐くのです。ただし、高音域からスタートする時などは、一瞬のタメ(後から説明する圧力を作るため)がある場合もありますが。

呼吸とアンブシュアは密接な関係があります。息を吸えないとアンブシュアも崩れます。
息が足りなくて、圧力の弱い息しか出せなかったら当然それに見合った弱いアンブシュアになります。反対に充分に圧力のかかった息を出すことが出来れば、それをコントロール出来るアンブシュアが必要になるのです。

今度は息を出す場合です。
今までも何度かこのコーナーで取り上げてきましたが、結局のところ大事なのは、息をどうまとめるかだと思うのです。
ちょっと想像してみてください。息は怒涛のように出してアンブシュアも開き放題の音。反対に、息はちょろちょろでアンブシュアも細く閉めすぎた音。
このどちらも良い音はしないのは誰でもわかりますよね?
両方のバランスが大事なのですよ。

どんなピアニッシモでも息の圧力はいるのです。その圧力があるからこそピアノでもふくよかな音が出るのです。その圧力を受け止められて自由自在に変えられる栓(アンブシュア)が必要なんですね。
そのために歯にマウスピースを密着させたり、歯の間隔を考えることが必要になってくるのです。
どんな場合でも息はたっぷりと吸って、圧力の高い息を出すことが大事だと思います。
前に言った、たっぷりと息を吸う、というのは、たくさん息の量を吸うということより、息に圧力をかけ易くなるからたくさん吸うと言ったほうが適切かもしれません。

そして息圧を高めるためには、風船を膨らますときのように抵抗がないとやり難いですよね?すーっと息が出て行くようでは圧力はかけられないと思います。

ちょうどいい圧力になるようにアンブシュアを工夫する。これが良いアンブシュアにする大いなるヒントですね。

そうすることによって、もう一つ良いことが起きます。
無駄な息が出なくなるので、長いパッセージを吹けるようになります。
みなさんも、素晴らしいソリストの演奏を聴いて、なぜあんなに息が持つのだろう?と思ったことはありませんか?
もちろん鍛えて肺活量もあるのでしょうが、それだけではないはずです。ずっと少ない息の量で吹いているに違いありません。
結局、効率の良い息の使い方が出来ると、少ない量の息で、響きのある音が出るようになるので、長く吹けるのです。同じメゾフォルテでも息の量が少なくて済むとでも言いましょうか。

勘違いしてはいけないのは、息を少ししか使わないということではありませんよ!良いアンブシュアになると、圧力をかけてもあまり息は出て行かない、と考えて下さいね。

息を出すことは、弦楽器で言えばボーイング(弓使い)に当たるわけですから、これは最も大事なことといっても過言ではありません。

音を生かすも殺すも、息次第なのですね。

それではまた来月です。

●特別出演!!
我が家の愛犬ドル
我が家の愛犬ドル


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