アレキサンダーファン
2006年05月掲載
プロフィール
笠松長久(かさまつながひさ) 笠松長久
(かさまつながひさ)
東京芸術大学卒業。谷中甚作氏に師事。第39日本音楽コンクール金管楽器部門入賞(ホルンの第1位)。卒業後、東京都交響楽団に入団。1973年より首席奏者を務め、ソロ、室内楽等にも活動している。
文化庁海外派遣研究員としてロンドンに留学。ロイヤルオペラのジュリアン・べーカー氏に師事。帰国後、メシアンの「峡谷から星たちへ…」のホルンソロを日本初演。インターナショナルホルンフェスティバルにソリストとして招かれる。
日本音楽コンクール審査委員。
使用楽器:アレキサンダー303
マウスピース:ヤマハ・アトリエ特注
第19回 プレーヤーズ
笠松長久インタビュー

国内外のホルンプレーヤーにスポットを当て、インタビューや対談を掲載するコーナー。
ホルンについてはもちろん、趣味や休日の過ごし方など、
普段知ることの無いプレーヤーの私生活についてもお伝えします。

─いつからホルンを吹き始めたのですか。
吹奏楽コンクールでも有名になった豊島第十中学校の吹奏楽部に入っていて、最初はアルトホルン、次にメロフォンを吹きました。
もともと野球をやっていて、最初は部活も野球部と掛け持ちでした。でも吹奏楽部は全国大会に行くと学校を休める、それでやっていました(笑)。


─では本気でホルンをやろうと思ったきっかけは?
きっかけは勘違いです(笑)。マーラーの交響曲に「巨人」てあるじゃないですか。当時野球しか知らなかったから、あれを野球の「巨人」、つまりジャイアンツのことだと思ったんです。大勘違いですが、レコードを買って聴いてみたら、これがイイわけですよ。ホルンが格好いいし。
「よし、これなら」っていうので、本格的にホルンを吹こうと思ったのが中学2年のとき。野球の方はあまり背が伸びないからダメかなと考えてやめました。


─高校は芸大付属高校(芸高)ですよね。
それもまた勘違いが元でね。部活の先輩が芸高に入ったと聞いて、「あの先輩が受かるなら自分だって」と志望したのですが、これがまたまた大勘違いで、先輩が入ったのは学芸大の付属高校(笑)。
顧問の先生がホルンの先生を紹介してくれて、当時まだメロフォンしか吹いていませんでしたが構えだけ習ってFシングルを持って行きました。それで音を出したら「これなら大丈夫だろう」と言われて。
でもそれから試験までが大変で、とにかく志望する学校を間違えているわけですから、ピアノやら聴音やら勉強が追いつかないんです。結局、運良く受かってしまったんですけれど。今だったら絶対にありえませんね。


─人生の大きな分岐点に勘違いがあったわけですね。
間違いですよ、間違い。それで今に至っている(笑)。
でも高校の入試が終わって入学が決まってから初めて買ってもらったフルダブルがアレキサンダーの103でした。それからずっと103を吹いていますから、長いですよ。アレキサンダー歴40年以上。


─アレキサンダーのどこが魅力だと思いますか。
笠松長久(かさまつながひさ)
アレキサンダーって吹く人の個性を出しやすい楽器なんです。あと音色が木管にも合うし、弦にも合う。やはりオーケストラの楽器ですよ。オケで要求されるいろいろな音色が出せる楽器なんです。
だからこそ逆に難しい。特に103という楽器は音を作るのが難しいんです。自分がどんな音を出そうかということをよくわかっていて、しかも息遣いがしっかりしていないと、良い音が出ない。本当の103の楽器は太い音で、暖かくて柔らかい音が出るはず。でも現実には鋭くて薄っぺらい音が出ている場合も多いですから。アレキサンダーってただでさえ鳴る楽器ですので、良い音が出ていないとオケの邪魔になってしまいますよ。
せっかくアレキサンダーを使うなら、ベルリンフィル・モードで吹かないとだめです。ああいう音をイメージして。ザイフェルトくらいになるとものすごい量の息が入るので鳴りすぎて、物足りなく感じたようですが(笑)。
僕の場合も103は鳴りすぎてしまうのでオケの中で音がハモらない。その点トリプルの303だとがんばってもそこまで鳴らないのでちょうど良いんです。


─東京都交響楽団(都響)のホルンセクションは全員アレキサンダーですよね。
昔は各人いろいろな楽器を使っていましたが、僕と伊藤さん(一昨年退団された伊藤泰世氏)でみんなアレキサンダーに替えてもらって、それからです。僕も主席で34年吹いてきて、今の都響の音を作ってきたと思ってます。少なくとも僕がいるうちは都響はアレキサンダー限定です。


─笠松さんの狙ったという都響のホルンの音色は、言葉で言うとどういうものですか。
笠松長久(かさまつながひさ)
僕が狙っているのは、ウィーンフィルとベルリンフィルのイイトコ取り。それをやろうとしたときに、個人的にはトリプルがいいんですよ。いろいろな音色を使い分けることができるから。
だからといって、ただトリプルを使えばいいというわけではない。例えばハイF管を吹くときは息を普段の3倍くらい入れないと、薄い音になってしまうんです。だからマウスピースも深いものを使います。しかも通常のF管がよく鳴らないといけない。そう考えると、トリプルで良い楽器がなかなかないというのもわかりますよね。
ローF管とB♭管とハイF管、3本を持ち替えるのが理想ですけれど、それは難しいですから。そういうイイトコ取りを1台でできるのがトリプルホルンなんだと思います。誰にでもお薦めするわけではありませんが。例えば単純に重いですから、僕もダンベルで腕を鍛えました。
現在使っている303は、もう20年以上になります。シリアルは#4000番台ですからごく初期の楽器です。ロンドンに留学したときに、向こうの人が303を吹いていたのを見て「ああ、これからはトリプルの時代か!」って思って、日本に帰ってきてすぐにネロ楽器に行って303を買いました。その後トリプルだけでも5〜6本買っていますが、最初に買った楽器の音が良くて、結局それをずっと使っています。


─やはりオーケストラの中で吹くのが一番好きですか。
ええ。ホルンはオケの楽器ですから。個人的には弦とのアンサンブルが好きです。ホルンと弦はよく合うと思います。
演るなら一番面白いのはシューマンのコンツェルトシュトゥックですね。あれは名曲です。最初だけでもう「やったなあ」っていう気になる。問題は4人が揃った良い音を出せるかどうか。
あとはやっぱりマーラー。3番とか良いですねえ。都響もベルティーニの指揮でCDが出てますが、聴くと感動しますよ。手前味噌ですが、ベルリンフィルよりも都響のCDの方を自分でも聴きます。そもそもマーラーって日本人に合ってるんですよ。歌い回しとか、心意気とか。


─最後に、全国のホルン奏者に一言。
笠松長久(かさまつながひさ)
まず自分に合った先生を探して下さい。考え方とか音色とか。言葉では教えられませんから、自分の目指す音色を持っている先生を探して、その音を真似することが大切です。
あと、練習しないとだめですね。オケマンとしてはスランプがあってはいけないんです。100点満点を取らなくても、常に80点くらいの演奏をしていないと。ホルンだけが音楽をしているわけではないですから、吹くべきところだけ格好よく吹いたら、あとはオケを邪魔をしてはいけない。
そう考えたとき、僕の感覚では、一番オケの邪魔にならないのがアレキサンダーの音です。そうでないとすれば、本当のアレキサンダーの音が出せていないんです。
ちなみに、僕と西條貴人君、飯笹浩二君の3人で、毎年夏に伊東で「ホルンを上手くなろう!」サマーキャンプを開いております。基本的には音大生やプロが対象ですが、興味のある方は参加してみてください。




一問一答コーナー

─オフの日は何をしていますか。
まずマージャン。それから競馬。基本的にギャンブルモードですから。

─スポーツとかは?
運動といえば散歩だったんですけれど、散歩してる間に例えば嫌な本番のことを考えて自分にプレッシャーになってしまうようなことがあるんです。最近は折りたたみ自転車を買って、車に乗せて郊外に行って乗っています。

─もう野球はやらないんですか。
実は何年も前ですが、都響で野球チームを作って試合をしました。僕がピッチャーをやって。全然だめかと思ったら大差で勝ちましたが、次の日に手が上がらなくて電車の切符が変えなかったほど。それ以来やっていないですね。

─見るのは好き?
松井(秀喜)のファンです。松井は凄い! 最初は王のファンでしたが、やっぱり選手としてであって、監督になってからはそれほどでもないです。だからもともと巨人が好きでしたが、今はヤンキースのファンです。休みの日は朝からヤンキースの試合を見てます。

─大学時代の思い出などありますか?
ボーリングとかよくやっていましたね。ホルン持たないで代わりにマイボールを持ってました。当時は200くらい出してましたよ。でもやっぱりギャンブルモードで(笑)。
ギャンブルと言えば学校の中にギャンブル部屋があって金管の連中がみんな集まっていました。レッスンの時間になると先生が呼びに来たりとか。当時は大らかだったんですね。でもそれくらいの方が音楽にはいいのかもしれませんよ。

─やはりギャンブルが好きなんですね。
基本的に勝ち負けが好きなんですよ。全然儲かりませんけれど。ホルンだって当たる当たらないはギャンブルみたいなものじゃないですか(笑)。ホルンは自分がやるからいいですけれど、他人に賭けるとダメなんですね。
 
(4月某日 東京・渋谷 ネロ楽器にて)

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