アレキサンダーファン
2005年08月掲載
ホルン・ワンポイントレッスン 達人の息吹


 達人の息吹 第10回

 アレキサンダーオーナーズクラブのみなさん、お元気ですか?

夏ですねー。夏といえばホルンやってる人はブラバンのコンクールを思い浮かべる人も多いと思います。プロの管打楽器奏者ならたいていの人がこの時期どこかのコンクールの審査員やってるんじゃないかなぁ。僕もご多分に漏れず行ってきました某I県南地区大会。さすがに3日間朝から夕方までブラバン聴いてると、頭、働きません。目の前の光景が一瞬止まって見えるなぁ、と思ったらその瞬間寝てるんだよね、たぶん。目を開いたまま。でもその後ちゃんと講評書いたり点数つけたりしてますのでご心配なく。
 それにしてもホルンって難しい楽器なんだなぁと思いました。中学校と小学校の部だったんだけど、「お、やるじゃん」と思わせる子は残念ながらひとりとしていなかった。ほかの楽器にはチラホラいるんだけどね。すごいなと思ったのはホルンの4番吹いてたと思ったら次の瞬間ユーフォニウムに持ち替えて吹いてた子がいた。どっちも結構ちゃんと吹いてました。どういうアンブシュアで吹いてるのか少し興味持ちました。コンクールには私たちに計り知れない魔物が住んでいる。

というわけで今回はありがたくもメールで質問いただいてたので、それについて書きたいと思いますよ。


「もっちゃん」からのご質問。
「高い音が出るから自分は上吹きと思っていたり、でもピッチがすごく高かったりパートを引っ張っていけてない人がいる。逆に、下吹きも大事なパートなのに、高い音が苦手だから2番でいいとかいう人もいる。全く困ったもんだ。という訳で上吹き、下吹きの定義をプロの立場からアドバイスください。」とのことでした。

んんんー。簡単なようで難しい質問です。確かに高い音が得意な人が上を吹くのは理にかなっているし、逆もしかり、低音が得意な人は下を吹いたほうがうまくいくでしょう。
アマチュアの人たちは、上が出ないから下を吹くというのもやむを得ないと思います。だってその人が1番吹いてもなかなかうまくいかないでしょ。といって良識ある下吹きの人たちからすれば、上の人にとんでもないピッチで吹かれたら困っちゃうだろうし。
下吹きがピッチとかリズムとかの主導権を握れる立場にあるとうまくいくと思いますけど。だから、吹きたがりの上吹き達にあなたに上吹かせてあげるからその代わりピッチ、リズムその他もろもろに下吹きから口出しするよ。それを受け入れてほしいと言って、契約を交わすことです。ちょっと無責任なアドバイスかな。そんなことできたら苦労しないって言う声が聞えてきそう。

 じゃ、プロの立場で上吹き下吹きを述べてみたいと思います。
前提として上吹きも下吹きも上から下まで音を並べることができます。プロですから。
でもやっぱり真ん中から上の音が強い、魅力的な音を持っている人は上吹きになる資格があるでしょう。反対に低音がブリブリ吹ける。低音のコントロールは負けないよ。という人は良い下吹きになる可能性が高いでしょう。あと上吹きを包み込むような包容力のある音を持っていることも大切な条件です。
性格もある程度かかわってくるかなぁ。やはり上吹きには強い精神力が必要です。もちろん下吹きの人にだって必要ですけど、より強いということです。下吹きには寛容さや安定した精神状態をキープできる人。上吹きはいつもナーバスになりがちですから、それに影響されて下吹きまでナーバスになってたらセクションはふらふらになってしまいます。
よくピッチャーとキャッチャーは夫と嫁さんの関係と言われますが、1番と2番、3番と4番も同じようなことが言えると思います。下吹きが安定して吹いていて初めて上は自由に吹けるのです。
 ですから下吹きのほうが上よりもテクニシャンでなければならないと言えるかも知れません。音の跳躍も激しいですしね。1番が気持ちよさそうにフレーズを転がしていて、2番は1番の影のようにつけて吹いているんだけども、よーく見ていると実は2番の手の中で1番が踊っている、というようなのが理想の形かも。1番を生かすも殺すも2番しだい。これはおおげさではないたとえです。
 とにかく1番吹きはセクション全員から尊敬される立場である、ということは当然ですが、その1番は下吹きである2番や4番をかけがえのない自分のパートナーとして尊敬している、というのが理想ですね。セクション全員が全員を認め合っている、そのパートのエキスパートとして尊敬している、というのが最高のホルンセクションだと思います。そして僕は今そんなセクションの一員としていられる幸せをほんとうに感謝しています。

 今回はほんとにまじめな文章になりました。らしくないって??たまにはいいでしょ。


PROFILE

今井仁志(いまいひとし) ●今井仁志(いまいひとし)
愛媛県出身。東京学芸大学音楽科卒業。ホルンを千葉馨、伊藤栄一、原田晃祝、デール・クレヴェンジャー、エリック・ティルヴィリガーの各氏に師事。
アフィニス文化財団海外派遣制度によりミュンヘンに留学。
オーケストラアンサンブル金沢、東京交響楽団首席奏者を経て、現在、NHK交響楽団団員。
桐朋学園音楽科講師、武蔵野音楽大学講師、日本ホルン協会常任理事。
アレキサンダーホルンアンサンブルジャパンメンバー。







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