アレキサンダーファン
2004年12月掲載
ホルン・ワンポイントレッスン 達人の息吹


 達人の息吹 第2回

 アレキサンダーオーナーズクラブのみなさん、こんにちは。とうとう始まってしまいました、このコーナー。これから1年間、この筆無精の私が数少ないボキャブラリーを振り絞って、ちまちまとやっていきたいと思っております。どうぞよろしく。

さて第1回目のテーマは「まず初めにやること」でしたよね。楽器ケースを自分の前に置き、まず初めにやること。それは楽器を取り出すことです。でなければ、楽器を取り出さないかのどちらかです。しかし、このコーナーは楽器を取り出す人に向けて書いていますので、後者の方については説明を省略させていただきます。

あなたは、開けたとたんに目前に輝く、計算し尽くされた造形美を目にすることができます。もう何百何千回と繰り返されたこの光景、最近何も感じなくなっていませんか?私思うにこれって結構大事なことだと思うんです。他の楽器奏者に何と非難をされようとホルン(特にアレキ!?)は最高に美しい楽器だと断言できます。この柔らかな曲線美を眺めていると昨日失敗したソロも忘れられるってもんです。(ホントか?)こんなに美しい楽器を吹いていられる自分に感謝しましょう。そこでなだらかな2次曲線を描くベルにキッスを・・・。

ここまでくればあなたの脳はホルンを吹くモードに切り替わっています。毎朝もしくは毎夕あなたはこの儀式を欠かさないことをお勧めします。でなければこんなにハズレやすいし面倒くさい楽器を死ぬまで吹いていくことは不可能に近いでしょう。というか、あなたの死期を早めていることだって考えられます。ホルンを吹くということは相当のストレスをからだに与えているはずですから。ですからホルンに対する愛情をいつ何時も忘れてはならないのです。愛はすべてを救う。世界の中心でホルンをさけぶ。まさにこれなくしてホルン吹きは生きてゆけませぬ。

だんだん書いている自分がわからなくなってきたので、次、行きます。

ようやくワンポイントレッスンのようなものを書く意欲が湧いてきました。次の段階はやっぱりウォームアップでしょう。まったくやらない人も結構いますが、私にとってはやはり必要なことです。先程キッスの儀式について書きましたが、ウォームアップも口をほぐすことと同時に自分の脳を切り替える、あるいは脳とリップの神経をリンクさせるという意味合いがあると思います。ですからあせってやっては効果が半減します。比叡山の杉林の中でひとり座禅を組む僧のような境地でできれば最高です。たとえまわりでスタンプのデイリースタディや音階練習が大音響で鳴っていたとしても。

フレンチ・ホルン演奏技法
全音楽譜出版社
『フレンチ・ホルン演奏技法』
フィリップ・ファーカス−著
守山光三−訳
いろんなウォームアップがありますが、私が毎日愛用しているのがフィリップ・ファーカスさんのヤツです。青い表紙の本でたいていの楽器屋さんに置いてあると思います。ファーカスさんは既に他界された方でアメリカホルン界の重鎮ですが、彼のウォームアップは他のいろいろなウォームアップの基となっている物でどの人のウォームアップもこれに似たり寄ったりです。初めてこれを見た時、たぶんたいていの人はこんなの無理、とかウォームアップでやるのはハード過ぎるんじゃないかと思うと思います。実際私もそう思いました。でも根気よくじっくりやっていくとそんなには難しくないんですよ。ただ、3オクターブを行ったり来たりは、ある程度の上級者でないとつらいかもしれませんね。そこで、というか私のお薦めは、そのウォームアップの前のページに書かれている「プレ・ウォームアップ」なるものです。どうしても時間が無い時、または本番直前のナーバスになっている時、ウォームアップをカットしてこれだけをやったりしています。この符点四分音符と八分休符だけで構成された楽譜。これが今の私にとってはバイブルです。


これ以降半音ずつ上げて吹いていく
譜例
このウォームアップで一番大切なのは、なんと休符なのです。音符と音符にはさまれた無音の時間。これがしっかり保てるか。これがこのウォームアップのミソなのです。四分音符=100となっています。メトロノームに合わせてしっかり符点四分音符をのばし、息の支えを切らずに八分休符へ。そうして次の音符に。1段が5小節ありますが、その間、息の支えを切らしてはいけません。もちろん口から楽器を離してもいけません。1段終わったらすぐ次の段へ行かず、ひとやすみ。気持ちも新たに次の段へ。これがきれいにできれば、その日1日最低限の息のコントロールは確保されたといっていいでしょう。どうです?だまされたと思ってやってみてください。簡単だけどちゃんとやるのは結構難しいですよ。


PROFILE

今井仁志(いまいひとし) ●今井仁志(いまいひとし)
愛媛県出身。東京学芸大学音楽科卒業。ホルンを千葉馨、伊藤栄一、原田晃祝、デール・クレヴェンジャー、エリック・ティルヴィリガーの各氏に師事。
アフィニス文化財団海外派遣制度によりミュンヘンに留学。
オーケストラアンサンブル金沢、東京交響楽団首席奏者を経て、現在、NHK交響楽団団員。
桐朋学園音楽科講師、武蔵野音楽大学講師、日本ホルン協会常任理事。
アレキサンダーホルンアンサンブルジャパンメンバー。







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