▼大阪音楽大学のホルン専攻生によるホルンアンサンブルは定期的に演奏会を開いているが、このCDは2015年11月17日に行なわれた第28回のライブ録音。タイトルどおりメインはブルックナーの交響曲第8番だが、後述するように、そこには指揮者の故・朝比奈隆氏との深いつながりがある。
▼CDには豊中市アクア文化ホールの豊かな響きがそのまま収められており、(たぶん)編集などもされていないためところどころ音程の乱れなどもあるが、それも含めてライブの魅力がたっぷり詰まっている。1曲目の《ペリ》のファンファーレから、その臨場感あふれる世界に引き込まれた。
▼ヒューブラーの《4本のホルンのための協奏曲》は元はオーケストラ伴奏によるものだが、指揮も務めた三宅氏がホルン8重奏とティンパニのために編曲。4本のホルンのための協奏曲ではシューマンの《コンツェルトシュトゥック》が有名だが、このヒューブラーも華やかで情緒あふれる、ホルンらしいサウンドとハーモニーを満喫できる。
4人のソロも見事だが、バックのホルンアンサンブルと一体となって、原曲とはまた違った魅力を聴かせてくれた。《コンツェルトシュトゥック》同様、オケをホルンに編曲するとどうしてもバランスが難しくなってしまうのだが、そこを逆手に取って(?)、ソロとオケが対等に聴こえてきて、ホルンソロvsオケの掛け合いも、ホルンvsホルンとなってより迫力(=気迫)を増してたように感じた(実際オケのパートはかなり気合を入れないと吹けない難易度なのだ……)。
▼大阪音大では池田重一氏が准教授をしており、池田氏というとヴィブラートも使ってとにかく「よく歌うホルン」というイメージがあるが、その教え子たちもまた、よく歌う。ヒューブラーはもちろんだが、ターナーの8重奏曲《バーバラ・アレン》を聴くとそのことをより一層強く感じた。ターナー特有の郷愁を感じさせるメロディが、複雑なリズムからもよく浮き上がって聴き手に届く。
▼ブルックナー演奏の大家であった指揮者の朝比奈隆氏は、自ら設立した関西交響楽団~大阪フィルハーモニー交響楽団(大フィル)の常任指揮者、音楽総監督を2001年に亡くなるまで54年間にわたって務めた。その大フィルでホルン奏者として朝比奈氏を支えたのが指揮を務める池田重一氏(大阪音大准教授)であり、編曲の近藤望氏(ヒューブラーの協奏曲を指揮/編曲した三宅知次氏も大フィル出身)。つまりこのブルックナーは、楽器編成は異なれど、朝比奈の血脈を受け継ぐものである(ということがライナーにも書かれている)。
▼さて、近藤氏の編曲によるブルックナーの交響曲第8番。第1楽章と第4楽章それぞれの「抜粋」ということだが、もともと8本のホルンが大活躍する曲であり、違和感や抜粋感はない(もちろん編曲の妙もあるだろう)。むしろ、長大な曲の中からホルンの「おいしいところ」をぎゅっと濃縮して聴けるというメリットが大きい。
が、音楽は「おいしいとこ取り」などとは言っていられないほど骨太なもの。ホルン16重奏にテューバ、コントラバス、ティンパニが加わって、まさにフルオーケストラを思わせる分厚いサウンドが出現するのだが、「ホルンでやってみました」のレベルではなく、芯から「ブルックナーを演奏している」のだ。テンポ設定とその動き方、ダイナミクスの変化やフレージングのニュアンスなど、指揮をしている池田氏が大フィルで体得したものだろう。
池田氏がアレキサンダー103の愛用者ということもあり、やはりアンサンブルのサウンドも、柔らかくも輝かしいアレキサンダーらしさを聴かせる(演奏者たちが何の楽器を使っているかはわからないが、103が多いのではないだろうか)。そこに冒頭に書いたようなホールのたっぷりとした響きが加わって、とても魅力的なホルンサウンドを堪能しつつも、オーケストラでブルックナーの名演を聴いたような深い感動も味わえたのだった。 |