|
▼AHOCのミュージックキャンプに特別ゲストとして参加していただいたマリー=ルイーゼ・ノイネッカーという人のCDを改めて聴いてみると、聴くほどに「スゴイ人だ」と思った。本人は背は高いにしてもそんなにごついわけではない、お茶目な女性なのだが、なぜにこれほどパワフルなのか不思議なくらいだ。
▼このCDの録音は1995年と1996年だからすでにソリストとして幅広い活動をしている時期だ。オーケストラはバンベルク交響楽団、かつて在籍していた「古巣」とも言えるオケだ。それだけに、ノイネッカー自身も伸び伸びと演奏していたのではないだろうか。
▼1曲目はご存じR.シュトラウスの協奏曲第1番。冒頭のファンファーレからパワー全開という感じ。しかしパワーだけでなく、繊細な部分も、朗々と歌う部分もそれぞれ別の表情を持って聴かせてくれるところがさすがだ。しかも、ある表情から別の表情への移り変わりがスムーズかつ素早く、しかもその差もダイナミックだ。「パワフル」といっても力任せに吹いている感じはない。そこがアレキサンダー103という楽器の特性か、ノイネッカーの息の入れ方の影響か(たぶん両方)、極めて人間的で音楽的にffが響いている。3楽章ラストのカデンツっぽい部分のゆったりした歌い方などもとても新鮮だ。
▼2曲目は「知る人ぞ知る」名曲。かのデニス・ブレインの依頼で作曲された「テノールとホルンと弦楽合奏のためのセレナード」。歌とホルンが同等にソロとして扱われているのが面白い。全部で8曲から構成される20分強の曲。最初の「プロローグ」はナチュラルホルン風の無伴奏ソロ。ここでも伸び伸びと、朗々としていて、しかし細かな起伏がありとても人間的なノイネッカー・トーンだ。続く6曲は様々な詩人の詩に曲を付けたものだが、基本的にホルンが歌を導く構成になっている。
▼ノイネッカーは遠慮しないで吹いている(ように聞こえる)が、決してテノールと喧嘩せず、しかし妥協もせず、歌手を力強くリードしていく演奏だ。トリッキーなことも要求されているのだが、「もう1人の歌手」のように自然なメロディと感じさせてくれる。聴いていると、だんだんノイネッカーのために書かれた曲のように錯覚してくる。ちなみに彼女自身もこの曲が好きだと話していた。
7曲目にはホルンが入らず、その間に移動して舞台裏で「エピローグ」を吹くという演出が聴き手に余韻を残す。
▼再びR.シュトラウスの協奏曲第2番。1楽章はゆったりとした歌い方で、感情を抑えめにしている様子が、第1番の元気良さと対照的で印象に残る。1楽章終盤から2楽章もしっとりと歌い上げてしみじみとした情感を出している。対照的に3楽章の軽妙さと快活さが際だっている。全体に、機械のようにパーフェクトではなく、ところどころに人間味を残しているところに好感を持てる。
▼R.シュトラウスのホルン協奏曲は他にも名演が多いが、このCDは聴き終わったときに不思議と何かが気持ちの中に残って、つい再び聴きたくなってしまうような演奏だと改めて思った。
|
|
|
|